死だけの秘密の話
「…………」
月はひとり、何もない無の空間で死が帰ってくるのを待っていた。
どこまでも灰色だけが続くこの不思議な場所。
物音なんて聞こえない、静寂の世界。
死と月しか存在しない世界。
死がいるときは、ふたりきりになれて、死を独り占めできる大好きな居場所だが、
死がいないときは、さみしくて、「なくなればいい」と思うほど大嫌いな居場所。
それでもここで待ち続けるのは、いつも死が帰ってきてくれるからだった。
何もないこの空間に死が現れるだけで、月の心はぽかぽかとあたたかくなる。今まで死んでいたこの場所と共に、生き返るような気がした。
そう思うほど、月には死しかいないのだ。
「………」
月はうつむき、悲しんでいるかのように目を閉じた。感情が乏しい月の、精一杯の感情表現だ。
死がいない今の状況は、月の心を暗く深い闇の底へと沈める。不安で不安でたまらなくなる。
それに加えて、死といつものができない今の自分。
死が自分を嫌になったのではないかと、だから帰ってこないのではないかと、死んでゆく心で考える。
そんなことを考えていると、目を閉じて真っ暗なひとりぼっちの世界すら怖くなった。月はゆっくりと目を開けた。
……すると、うつむいていた視線の先でふと目に入った
「……、」
自分のモノ。
…これが死の中に入れられる形にならないから。これで死を気持ちよくすることができないから。
こんなにも怖い思いをしているのではないか。
ズボン越しに自分の手で少し触れてみる。
「……ん…」
ぴくりと月の体が小さく動いた。触れた感覚はあるのだ。
死にいつもしてもらっているのを思い出しながら、今度は軽くぎゅっと握ってみる。
すると、またしても体が反応した。死にしてもらっているときほどではないが、鼓動がドク…ドク…と早まる。
自分で自分のを刺激するという未知の体験に、瞳孔ガン開きで自分の股間を凝視する。
…これさえどうにかできれば。
もう一度目を閉じ、自分を落ち着かせるように「…はぁ」と息を吐いた。しばらくしてからすっと目を開ける。
……意を決した月は、カチャカチャとベルトを外して、ズボンを下へとずらす。
そして、萎えた自分のをズル…と取り出した。体がびっくりしないよう、恐る恐る手触りを確認する。
芯が通っていないため、ぐにぐにと柔らかい。
今まで死しか触ったことがないそれ。自分で触ったことなんてほとんどなかったのだ。
月はシースルーを気にすることなく、死がこれを触るときのように手の平で包み込み、手の動きを思い出しながら真似をしてみる。
「…っ……ん…っ…ん…っ…」
拙い手付きで上下に扱く。
じわり…と滲んできた液体で多少は滑りがよくなったものの、垂れ下がった柔らかいそれを上手に刺激するのは難しい。
ましてや初心者である月には余計に。
「ん…っ…ん…っ」
それでも懸命に続ける。
普通この行為は自分のために行うものだが、月は違う。
死のために、死をよくするために、自分で自分を慰めているのだ。
「…死、…死…っ…」
大好きな存在の名を呟きながら、徐々にその手を速めていった。
目をつぶり、険しい表情で「はぁっ…」と熱い息を吐く。
にゅちゅにゅちゅという音が、月しかいない静かな空間に響いていた。
…もしこの場に死がいたとすれば。
必死になって自分のものを慰め続ける月を、まるで見世物を見るかのように、それはそれは面白がって眺めていることだろう。
「んっ…んっ……ん…ッ」
そんな もしも を考える余裕なんてないほど必死だったからか、すぐには気付かなかったようだ。
「んッ…、…?」
わずかではあるが、自分のそれが反応し始めていることに。
月は一瞬ぴたりと思考も体も停止した。
「…?…??」
目を満月のように丸くさせ、分かりやすくぱちぱちと瞬きを繰り返す。
それでようやく気が付いたようだ。
包み込んだ状態のままになっている手の平に、ぎゅっと少しだけ力をこめる。
それは先ほどに比べると、確かに芯が通っていた。
「……」
突然生き返ったような自分のそれに若干戸惑いつつも、暗闇に一筋の光が射したような気持ちになった。
…よく分からないが、これを続けていれば、もしかしたら前までのように。
そう思った月は、再び手を動かし続けた。
やはり棒に近い状態だとやりやすい。それに先ほどよりも、少しだけ、気持ちがいい。
しかし快楽に流されそうになっても、頭の中ではずっと同じことを考えていた。
死にも早く、同じように気持ちよくなってほしい。
月は健気に一途にそう思いながら、自分で自分を慰め続けた。
月はひとり、何もない無の空間で死が帰ってくるのを待っていた。
どこまでも灰色だけが続くこの不思議な場所。
物音なんて聞こえない、静寂の世界。
死と月しか存在しない世界。
死がいるときは、ふたりきりになれて、死を独り占めできる大好きな居場所だが、
死がいないときは、さみしくて、「なくなればいい」と思うほど大嫌いな居場所。
それでもここで待ち続けるのは、いつも死が帰ってきてくれるからだった。
何もないこの空間に死が現れるだけで、月の心はぽかぽかとあたたかくなる。今まで死んでいたこの場所と共に、生き返るような気がした。
そう思うほど、月には死しかいないのだ。
「………」
月はうつむき、悲しんでいるかのように目を閉じた。感情が乏しい月の、精一杯の感情表現だ。
死がいない今の状況は、月の心を暗く深い闇の底へと沈める。不安で不安でたまらなくなる。
それに加えて、死といつものができない今の自分。
死が自分を嫌になったのではないかと、だから帰ってこないのではないかと、死んでゆく心で考える。
そんなことを考えていると、目を閉じて真っ暗なひとりぼっちの世界すら怖くなった。月はゆっくりと目を開けた。
……すると、うつむいていた視線の先でふと目に入った
「……、」
自分のモノ。
…これが死の中に入れられる形にならないから。これで死を気持ちよくすることができないから。
こんなにも怖い思いをしているのではないか。
ズボン越しに自分の手で少し触れてみる。
「……ん…」
ぴくりと月の体が小さく動いた。触れた感覚はあるのだ。
死にいつもしてもらっているのを思い出しながら、今度は軽くぎゅっと握ってみる。
すると、またしても体が反応した。死にしてもらっているときほどではないが、鼓動がドク…ドク…と早まる。
自分で自分のを刺激するという未知の体験に、瞳孔ガン開きで自分の股間を凝視する。
…これさえどうにかできれば。
もう一度目を閉じ、自分を落ち着かせるように「…はぁ」と息を吐いた。しばらくしてからすっと目を開ける。
……意を決した月は、カチャカチャとベルトを外して、ズボンを下へとずらす。
そして、萎えた自分のをズル…と取り出した。体がびっくりしないよう、恐る恐る手触りを確認する。
芯が通っていないため、ぐにぐにと柔らかい。
今まで死しか触ったことがないそれ。自分で触ったことなんてほとんどなかったのだ。
月はシースルーを気にすることなく、死がこれを触るときのように手の平で包み込み、手の動きを思い出しながら真似をしてみる。
「…っ……ん…っ…ん…っ…」
拙い手付きで上下に扱く。
じわり…と滲んできた液体で多少は滑りがよくなったものの、垂れ下がった柔らかいそれを上手に刺激するのは難しい。
ましてや初心者である月には余計に。
「ん…っ…ん…っ」
それでも懸命に続ける。
普通この行為は自分のために行うものだが、月は違う。
死のために、死をよくするために、自分で自分を慰めているのだ。
「…死、…死…っ…」
大好きな存在の名を呟きながら、徐々にその手を速めていった。
目をつぶり、険しい表情で「はぁっ…」と熱い息を吐く。
にゅちゅにゅちゅという音が、月しかいない静かな空間に響いていた。
…もしこの場に死がいたとすれば。
必死になって自分のものを慰め続ける月を、まるで見世物を見るかのように、それはそれは面白がって眺めていることだろう。
「んっ…んっ……ん…ッ」
そんな もしも を考える余裕なんてないほど必死だったからか、すぐには気付かなかったようだ。
「んッ…、…?」
わずかではあるが、自分のそれが反応し始めていることに。
月は一瞬ぴたりと思考も体も停止した。
「…?…??」
目を満月のように丸くさせ、分かりやすくぱちぱちと瞬きを繰り返す。
それでようやく気が付いたようだ。
包み込んだ状態のままになっている手の平に、ぎゅっと少しだけ力をこめる。
それは先ほどに比べると、確かに芯が通っていた。
「……」
突然生き返ったような自分のそれに若干戸惑いつつも、暗闇に一筋の光が射したような気持ちになった。
…よく分からないが、これを続けていれば、もしかしたら前までのように。
そう思った月は、再び手を動かし続けた。
やはり棒に近い状態だとやりやすい。それに先ほどよりも、少しだけ、気持ちがいい。
しかし快楽に流されそうになっても、頭の中ではずっと同じことを考えていた。
死にも早く、同じように気持ちよくなってほしい。
月は健気に一途にそう思いながら、自分で自分を慰め続けた。