Sanctus
いつものようにグレッグミンスターで交易をと訪れたバナーの村で、その人と出会った。
えりぃという少女に守られるようにしてあった村の奥の隠れた釣り場。
そこに、釣り糸を垂らしてぼんやりと座り込んでいる少年が一人。
一目見て、きれいな人だ、と思った。
そして、僕の横で息をのみ、駆け出していったシーナと、フリックと、そのあとを追ったルックの呼んだ名に、目を見張った。
「ユエ!!ユエじゃないか!!久しぶりだな」
「久しぶり。……代わりはないようだね………」
「よぉ、ユエじゃねぇか。久しぶりだな。元気にしてたかい?」
その声に振り返ったのは、まだ13,4歳の少年で。その美しさに見ほれていた。
月のような、凛とした、儚げな美しさ。気品のある、誇り高い美しさ。
神威の貧困な語彙ではこれ以上形容ができないが、思えばどんな吟遊詩人も、物語も、彼の姿を美としてたたえていたことを思い出す。
怖いほどの美しさと、はかなさ。
同じような感想を狂皇子も抱いたことを知らず、神威はただ見ほれるばかりだった。
その神威の目の前で、フリックがその少年の手を取り、頭を下げている。その横でルックが無関心を装いながらどこかうれしそうな顔で。シーナは涙を流しながらなんどもなんどもよかった、と言っていた。
この人は、もしかして。
なんどか本拠地でも話題に上がった。
いろいろな吟遊詩人が歌った、あの人だろうか。
近づいた僕に気づいたフリックが、あ、と声を上げて僕のほうを見た。
「ユエ…実は…」
つと挙げられた視線が、まっすぐに神威に向けられた。
心のそこまで見透かされそうな、まっすぐな視線。透き通った琥珀のような透明な目は心にやましいものを持つものなら、その視線にくじけて目をそらすだろう。
その唇が、動いて言葉をつむいだ。
「…天魁星…」
どきり、とした。その名前は、レックナートと、ルックと、自分しか知らないはずなのに……。
あの、本拠地に設置された石板に、刻まれた星の名前。
「そう。こいつが今同盟軍のリーダーやってる神威、ってんだ」
琥珀色に輝く瞳が自分だけを捉えている。作り物のように整った、透明で、きれいなきれいな琥珀色。ゲンカクじいちゃんのお酒のようなとろりとした金の色。
そう思った瞬間、どくん、と心臓が跳ねた。
「カムイ……」
名前を呼ばれた瞬間、とてもうれしかった。なぜかはわからないけれど。
そこにいるだけで視線をひきつける。
在るだけで、人々を集める。
名前を呼ばれたことがうれしいと感じる。
美しく、魅力的なリーダー。
これが、トランの英雄…帝国を倒した、天魁星…
「助けて―――――っ!!」
神威の思考を断ち切ったそれは、会うのを手伝ってくれたあの少年のものだった。
トラン共和国の首都、グレッグミンスターのひときわ大きな屋敷―――ユエさんのマクドール邸で、僕はぼんやりと考えていた。
コウという少年がうそから出たまことで盗賊に連れ去られ、助けに行ったら、キラーモスの毒にやられていてグレッグミンスターまで運んで…
終わったら日が暮れていた。
月さんの「泊まっていって」という言葉に甘えて、今は彼の家にいる。
前に来たときは、ひときわ大きな家にどこの貴族だろう、とびっくりしたけれど、大将軍だったというユエさんのお父さんの家だったなんて…
右手の紋章をそっと、左手でなでる。
キラーモスとの戦いの中で垣間見た、黒の紋章。
死神の紋章。
輝く盾の紋章が教えてくれた。
あれは、持ち主の親しい人の命を奪う生と死の紋章。
キケンだ、と。
そして、3年前から彼の年が変わっていない理由も。
真の紋章は不老不死を与えるのだ、という。
だから、彼は紋章を手放さない限り、その姿のまま成長しない。
ずっと、会ってみたかった。
解放軍を率いた、同じ年頃の少年。
同じ天魁星の運命を背負った少年。
どんな人なんだろう、とたくさん想像したけれど、会ってみたら、どん な想像も及ばなかった。
きれいで、優しそうで。
でも、寂しそうだった。
抱きしめてあげたかった。
抱きしめて、「僕がいるから」といってあげたくなった。
抱きしめて、すべての悲しみと苦しみから、彼を守りたくなった。
その人は、月明かりの下、何を思っているのか、月を見上げていた。
ほしい。何をしてでもあの人が。
たとえ、死の紋章に命を食われたとしても。
何かをほしい、とこんなに強く思ったことは初めてで。
男の人なのはわかっている。でも、本当に本当に、何もかもに惹かれている。
ほしい。
この人が、ほしい。
この世の何を引き換えてもと思うほど
こんなに人に惹かれたのは生まれて初めてだった。
「ユエさん」
月を見上げていたその人の髪が揺れて、きれいな黄色い瞳が神威をみつめた―――
どきどきする心臓を押さえて、口を開く。
――――――はじめ、まして
えりぃという少女に守られるようにしてあった村の奥の隠れた釣り場。
そこに、釣り糸を垂らしてぼんやりと座り込んでいる少年が一人。
一目見て、きれいな人だ、と思った。
そして、僕の横で息をのみ、駆け出していったシーナと、フリックと、そのあとを追ったルックの呼んだ名に、目を見張った。
「ユエ!!ユエじゃないか!!久しぶりだな」
「久しぶり。……代わりはないようだね………」
「よぉ、ユエじゃねぇか。久しぶりだな。元気にしてたかい?」
その声に振り返ったのは、まだ13,4歳の少年で。その美しさに見ほれていた。
月のような、凛とした、儚げな美しさ。気品のある、誇り高い美しさ。
神威の貧困な語彙ではこれ以上形容ができないが、思えばどんな吟遊詩人も、物語も、彼の姿を美としてたたえていたことを思い出す。
怖いほどの美しさと、はかなさ。
同じような感想を狂皇子も抱いたことを知らず、神威はただ見ほれるばかりだった。
その神威の目の前で、フリックがその少年の手を取り、頭を下げている。その横でルックが無関心を装いながらどこかうれしそうな顔で。シーナは涙を流しながらなんどもなんどもよかった、と言っていた。
この人は、もしかして。
なんどか本拠地でも話題に上がった。
いろいろな吟遊詩人が歌った、あの人だろうか。
近づいた僕に気づいたフリックが、あ、と声を上げて僕のほうを見た。
「ユエ…実は…」
つと挙げられた視線が、まっすぐに神威に向けられた。
心のそこまで見透かされそうな、まっすぐな視線。透き通った琥珀のような透明な目は心にやましいものを持つものなら、その視線にくじけて目をそらすだろう。
その唇が、動いて言葉をつむいだ。
「…天魁星…」
どきり、とした。その名前は、レックナートと、ルックと、自分しか知らないはずなのに……。
あの、本拠地に設置された石板に、刻まれた星の名前。
「そう。こいつが今同盟軍のリーダーやってる神威、ってんだ」
琥珀色に輝く瞳が自分だけを捉えている。作り物のように整った、透明で、きれいなきれいな琥珀色。ゲンカクじいちゃんのお酒のようなとろりとした金の色。
そう思った瞬間、どくん、と心臓が跳ねた。
「カムイ……」
名前を呼ばれた瞬間、とてもうれしかった。なぜかはわからないけれど。
そこにいるだけで視線をひきつける。
在るだけで、人々を集める。
名前を呼ばれたことがうれしいと感じる。
美しく、魅力的なリーダー。
これが、トランの英雄…帝国を倒した、天魁星…
「助けて―――――っ!!」
神威の思考を断ち切ったそれは、会うのを手伝ってくれたあの少年のものだった。
トラン共和国の首都、グレッグミンスターのひときわ大きな屋敷―――ユエさんのマクドール邸で、僕はぼんやりと考えていた。
コウという少年がうそから出たまことで盗賊に連れ去られ、助けに行ったら、キラーモスの毒にやられていてグレッグミンスターまで運んで…
終わったら日が暮れていた。
月さんの「泊まっていって」という言葉に甘えて、今は彼の家にいる。
前に来たときは、ひときわ大きな家にどこの貴族だろう、とびっくりしたけれど、大将軍だったというユエさんのお父さんの家だったなんて…
右手の紋章をそっと、左手でなでる。
キラーモスとの戦いの中で垣間見た、黒の紋章。
死神の紋章。
輝く盾の紋章が教えてくれた。
あれは、持ち主の親しい人の命を奪う生と死の紋章。
キケンだ、と。
そして、3年前から彼の年が変わっていない理由も。
真の紋章は不老不死を与えるのだ、という。
だから、彼は紋章を手放さない限り、その姿のまま成長しない。
ずっと、会ってみたかった。
解放軍を率いた、同じ年頃の少年。
同じ天魁星の運命を背負った少年。
どんな人なんだろう、とたくさん想像したけれど、会ってみたら、どん な想像も及ばなかった。
きれいで、優しそうで。
でも、寂しそうだった。
抱きしめてあげたかった。
抱きしめて、「僕がいるから」といってあげたくなった。
抱きしめて、すべての悲しみと苦しみから、彼を守りたくなった。
その人は、月明かりの下、何を思っているのか、月を見上げていた。
ほしい。何をしてでもあの人が。
たとえ、死の紋章に命を食われたとしても。
何かをほしい、とこんなに強く思ったことは初めてで。
男の人なのはわかっている。でも、本当に本当に、何もかもに惹かれている。
ほしい。
この人が、ほしい。
この世の何を引き換えてもと思うほど
こんなに人に惹かれたのは生まれて初めてだった。
「ユエさん」
月を見上げていたその人の髪が揺れて、きれいな黄色い瞳が神威をみつめた―――
どきどきする心臓を押さえて、口を開く。
――――――はじめ、まして