Sanctus
英雄ユエ・マクドールの名前は聞いたことがあった。
トランの英雄。赤月帝国を倒した少年。
同盟軍の中に、彼とともに戦った人たちが多いのに気づいたのは、最近だった。
埋まっていく石版の名前。
新たに仲間になった人たちがつぶやく、ユエの名前。
酒場で思い出話として語られることの増えた解放軍時代の話。
誰もが言う。
すばらしい軍主だった、と。
誰もが言う。
命を懸けてもいいと思えるほどに魅力的な人だった、と。
ある日、解放軍の幹部だった、という二人…ビクトールさんと、フリックさんが、酒の勢いか、初めて、その人のことを話していた。
「すげえリーダーだったなあ」
「……そんなに?」
「決して弱音を吐かず、迷いを見せず、涙を見せず……でも苦しいときはみんなと苦しんで…そして、みんなを率いた。だれもが、彼の指揮で負けることはないだろう、と確信していた。苦しいときも、振り返れば大丈夫だ、と思わせる姿で必ずそこにいた」
「あれは、最高の指揮官だな。国の運営も見事にやってのけただろう」
けれど、トランの大統領は…
「…戦いが終わった日に、一人旅に出たと聞いた…なんでかは、わからんが…思うところがあったんだろう」
「俺は……あいつがトランを出た、と聞いたとき…あいつなら、そうするかもしれないと思った…」
「………フリック?」
「あいつは、トランにあったものを全部失っただろう?……何もかもが、なくなっちまったんじゃないかな」
全部空っぽになって、旅に出たのかもしれない、といったフリックさんの言葉は、わかりそうで…やっぱり理解できなかった。
「天魁星…か。あいつもそうだったらしいからな…」
「そう………だったんだ……」
彼に―――同じ運命を背負って、その務めを果たした彼に、会いたい、と思った。
戦う運命を背負って、戦って、故郷を捨てた彼に、会ってみたいと思った。
トランの英雄。赤月帝国を倒した少年。
同盟軍の中に、彼とともに戦った人たちが多いのに気づいたのは、最近だった。
埋まっていく石版の名前。
新たに仲間になった人たちがつぶやく、ユエの名前。
酒場で思い出話として語られることの増えた解放軍時代の話。
誰もが言う。
すばらしい軍主だった、と。
誰もが言う。
命を懸けてもいいと思えるほどに魅力的な人だった、と。
ある日、解放軍の幹部だった、という二人…ビクトールさんと、フリックさんが、酒の勢いか、初めて、その人のことを話していた。
「すげえリーダーだったなあ」
「……そんなに?」
「決して弱音を吐かず、迷いを見せず、涙を見せず……でも苦しいときはみんなと苦しんで…そして、みんなを率いた。だれもが、彼の指揮で負けることはないだろう、と確信していた。苦しいときも、振り返れば大丈夫だ、と思わせる姿で必ずそこにいた」
「あれは、最高の指揮官だな。国の運営も見事にやってのけただろう」
けれど、トランの大統領は…
「…戦いが終わった日に、一人旅に出たと聞いた…なんでかは、わからんが…思うところがあったんだろう」
「俺は……あいつがトランを出た、と聞いたとき…あいつなら、そうするかもしれないと思った…」
「………フリック?」
「あいつは、トランにあったものを全部失っただろう?……何もかもが、なくなっちまったんじゃないかな」
全部空っぽになって、旅に出たのかもしれない、といったフリックさんの言葉は、わかりそうで…やっぱり理解できなかった。
「天魁星…か。あいつもそうだったらしいからな…」
「そう………だったんだ……」
彼に―――同じ運命を背負って、その務めを果たした彼に、会いたい、と思った。
戦う運命を背負って、戦って、故郷を捨てた彼に、会ってみたいと思った。