Credo ―我は信ず―
8
月明かりが静かにその部屋を照らし出していた。
凍てつく空気が部屋に満たされて、吐息すらも凍り付いてしまいそうに寒かった。
冬なのだと、思った。
凍てついた空気には何者も混ざることすら出来ない。
全ての異物は凍り付いて、澄み切った空気が身体の中を満たしていくようだった。
春だった、はずなのに。
いつのまに、冬に戻ってしまったのだろう。
右手に、なぜ包帯が巻かれているのだろう。
ぐじぐじと痛みを持って、熱を発していた。
ふと、手に突き刺さっていた銀の光を思い出した。
「ああ・・・そうだった」
自分で、さしたのだ。
心が、意外なほどの喜びに満ち溢れていた。
傷つけてやった。
そう、傷つけてやったのだ。
あの紋章を。
こんな気分をなんというのだろう。
ああ、そうだ。
「ざまあみろ、だ」
そう。これをざまあみろ、というのだ。
そう思ったら、笑いが漏れた。
笑い出したら、止まらなくて。
いっそヒステリックな笑いだった。
こんなに笑ったことが最近あっただろうか。
あるはずがない。
だって、笑わせてくれる人は、もういない。
でも
笑っているじゃないか。
そう。笑っている。
彼らがいなくても。
笑っているじゃないか。
そう思うと、滑稽だった。
ますます笑いがこみ上げて止まらなくなる。
背中が痛い。
お腹が痛い。
喉が痛い。
なのになぜ、笑っているのだろう。
楽しいからだ。
なにが。
なにがって、たまらなく愉快な気分なんだ。
どうして?
どうして。
どうして、愉快なんだ。
だって、傷つけてやった。
ざまあみろ。
傷つけて傷つけて傷つけて
二度と、復活など出来ないように。
もっと傷つけて
ああ、なんて愉快なんだ。
は、と笑った瞬間、こみ上げてきたものにむせた。
げほ、と吐き出した液の独特なにおいと酸に喉を焼かれて、痛い。
咳も止まらなくて、吐くのも止まらなくて。
まるで、身体の中身まで吐き出そうとするかのように。
身体中が、何かを拒否していた。
ああ、狂っているのかもしれない。
僕は、狂っているのかもしれない。
とっくの昔に、狂って狂って。
吐き出すものを全てはいても、吐き気はおさまらなくて。
は、と息を吐き出して、壁に寄りかかる。
自分のぜいぜいという息をどこか遠くに聞きながら、
残ったのは空虚さだけだった。
ふと、鳴き声が、した。
何かが叫ぶ。
地の底から、けものの、咆哮が。
身体を貫いた。
どこから。
ふらり、と立ち上がっていた。
その、悲しげな、咆哮に。
「なにをしているの?」
大きな、広間だった。
床に大きく広がる不思議な模様。
それから感じる波動は…真の紋章のもの。
「お前か」
床に落ちる血は、男の手首から流れている。
ぽたりぽたりと落ちる血をぼんやりと見ていたユエに、声がかけられた。
「お前はなにをしている?」
「・・・見てる」
男が、なにをしようとしているのかを。
その血を注いで、なにをしているのかを。
「ふん・・・これはな、獣の紋章だ」
「けもの」
28の、真の紋章。
右手が、うずいた。
傷つけたはずなのに。
ずたずたに、切り裂いたのに。
「あなたは、誰?」
「俺か?俺は狂皇子。狂皇子ルカ・ブライト」
「・・・ハイランドの、皇太子」
目を見開いたユエに笑って、怖いか、と笑う。
「いえ・・・」
怖くはない。
隣国、ハイランドの皇太子。
ユエより年上の、皇子。
「お前は?」
「・・・・・・・・・・・名は・・・」
名乗れない。
ユエの名はとうに一人歩きをしていて、もう、自分のものではないようで。
母の優しい願いと共に名づけられた名は、血塗られた。
だから、名乗れる名を、ユエはもたない。
「国は」
「・・・赤月」
「・・・ああ、滅びたのだったか」
ルカがわずかに顔をしかめる。
「それでお前は死にたいのか」
それで?
国を失ったから、死にたいのかと?
「違う」
国を失わせたのは、自分だ。
「ではなぜ?」
「・・・死ねない」
そう、死ねないのだ。
生きるとやくそくをしたから。
この紋章を守るとやくそくしたから。
「やっていることと言っていることが違うな。お前はどうみても死ぬつもりだった」
「・・・死にたい」
けれど、死ねない。
「そうか。殺してもいいが?」
そういわれて、面食らった。
「誰が?」
誰が、殺せるというのだ。この自分を。
「きさま・・・失礼なやつだな。俺以外に誰がいる」
「・・・・・・君が?」
無理だろう。
実力的にはフリックより、少し上だろうか。
いや、技術でいけばフリックのほうが強い。
おそらく良い戦いとなる。
そう思ってから、死んだ男を思い出している自分に、笑う。
「きさま、俺の力をそれほどあなどるか」
侮るもなにも。
ルカの腕は、ユエを殺せるほどには良くはない。
死に物狂いで向かってくる強敵を打ち倒したものにしかつかない力がある。
ルカに正面からはむかう強敵など、そうはいまい。
噂は、トランにも届いていた。
狂皇子、ルカ・ブライト。
その活動が表面化してきたのはつい最近。
ロッカクからもたらされた情報では、都市同盟の村々に虐殺とも言える作戦を繰り返している、と。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「答えろ」
「侮っては、いない」
事実だ。
この皇子の腕では、ユエには及ばない。
「気に触る」
「・・・では、殺す?」
そう尋ねると、顔をしかめた。
「俺は、母の復讐のために都市同盟と戦っているわけではない」
なにを、言い出すのか。
ふと考えて、ああ、そうだったと思い出した。
かつて、都市同盟の襲撃でこの皇子の母は・・・。
「あの時…あの男は、俺と母を見捨てた・・・」
「あの、男?」
父だ、とルカは言った。
皇王、ではなく。
「皇王たるものが、弱きものを、見捨てたのだ」
その声は怨嗟に満ちていた。
「確かにこの世は弱肉強食…それは、乱世において絶対の論理だ」
「だが…皇王たるものは絶対の強者でなければならない。…自分の懐にいる弱者を見捨てるものは、強者などではありえない」
まるで、それが唾棄すべきものであるように、ルカはその呼び名を呼ぶ。
「惰弱なだけだ」
「惰弱・・・」
「俺は、惰弱なものが王位にあることが我慢できない。それは、この国は弱者を虐げることを当然とするも同じだ」
「・・・・・・・・都市同盟の人たちは」
ん?と視線を向けたルカに、ユエはじっと、その目を見つめた。
「弱者ではないの?」
「・・・・・・誰にも言わないか?」
「うん」
「弱者だ」
はっきりと、そう言った。
弱者だ、と認めていると。
「俺が襲う村の者たちは弱者だ。戦う力を持たない娘たち、幼子たち…それは、弱者だ」
そう、弱者だ。
恐怖におののき、泣き叫び、逃げ惑う、民。
それを囲み、追いたて、切り殺す。
なんの抵抗もなく、切り殺され、村を焼かれ、呆然とする人々。
それが弱者でなく、なんであろう。
「彼らを殺すのは、俺の都合だ」
彼らを殺すのも、痛めつけるのも。
だからこそ、絶対的な力を持って。
そうでなくば、許されない。
絶望するほどの力をもってこそ、彼らの命を奪えるのだ。
中途半端な力では納得など出来まい。
圧倒的な、逆らうことなど思いもできないほどの力を持って。
あの男に狙われたのならば仕方がないと諦めがつくように。
「ならば、都市同盟は守ればいい。絶対的な力を持って」
「俺は、王位を手に入れる。そして、父とは違う強者として君臨する。全ては・・・!」
ルカの願い。ルカの思い。
なにもかも踏みにじり、前に進む。
嘆きも、悲鳴も踏み潰して。
全ては、全ては。
「全てはそのために必要なのだ!!」
手のひらにつめが食い込むほどに力を入れた拳を下ろし、そらされることなくルカを見つめる瞳に、ふと表情を和らげた。
「お前の目は、不思議だな」
「え?」
「お前の目は、全てを見通すようだ」
「…小さい頃は、よく友達に泣かれました」
ユエの目が怖い、と。
お前の目って、怖いけどきれいですごいな、と屈託なく見つめてきたのは、テッドだけだった。
「だが、お前はその目を隠していない」
怖いと泣かれた、と悲しそうに言うのに。
人に恐れられても、何を言われても、その目を隠そうとはしていない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だから、お前を側においてみる気になった・・・」
そう言った男の顔は、意外なほど穏やかだった。
「生きていたくば、その目で俺を見続けていろ」
目を伏せて笑う男がゆっくりと、向きを変える。
そのまま、振り返ることなく闇の中に歩み去っていった。
大きな、後姿だった。
今の身分はどうであれ、彼の心はすでに王なのだ。
そう、悟らざるを得なかった。
もし、あの力が都市同盟を襲うなら。
今の彼らに勝ち目はないだろう。
彼らはまとまることが出来ない。
いがみ合い、牽制を続けて、打算と習性で同盟を維持し続けている彼らには勝ち目はない。
ルカという大きな波は都市同盟を飲みこみ…トランへと迫るだろう。
あの、故国に。
「・・・・・・・・・・・・勝ち目は、ない」
今のトランでは対抗しきれない。
国内を平定しきれていない現状。
構築されていない国政。
すでに絶対的なリーダーであったものはいない。
その戦いの全てを支えた軍師はいない。
もし、そのときが来たら。
自分はどうするのだろう。
あの、全てを失った上に作られた国を…どうするのだろう。
父上。
グレミオ。
テッド。
・・・オデッサ。
「・・・・・・滅ぼすのも、悪くない」
月明かりが静かにその部屋を照らし出していた。
凍てつく空気が部屋に満たされて、吐息すらも凍り付いてしまいそうに寒かった。
冬なのだと、思った。
凍てついた空気には何者も混ざることすら出来ない。
全ての異物は凍り付いて、澄み切った空気が身体の中を満たしていくようだった。
春だった、はずなのに。
いつのまに、冬に戻ってしまったのだろう。
右手に、なぜ包帯が巻かれているのだろう。
ぐじぐじと痛みを持って、熱を発していた。
ふと、手に突き刺さっていた銀の光を思い出した。
「ああ・・・そうだった」
自分で、さしたのだ。
心が、意外なほどの喜びに満ち溢れていた。
傷つけてやった。
そう、傷つけてやったのだ。
あの紋章を。
こんな気分をなんというのだろう。
ああ、そうだ。
「ざまあみろ、だ」
そう。これをざまあみろ、というのだ。
そう思ったら、笑いが漏れた。
笑い出したら、止まらなくて。
いっそヒステリックな笑いだった。
こんなに笑ったことが最近あっただろうか。
あるはずがない。
だって、笑わせてくれる人は、もういない。
でも
笑っているじゃないか。
そう。笑っている。
彼らがいなくても。
笑っているじゃないか。
そう思うと、滑稽だった。
ますます笑いがこみ上げて止まらなくなる。
背中が痛い。
お腹が痛い。
喉が痛い。
なのになぜ、笑っているのだろう。
楽しいからだ。
なにが。
なにがって、たまらなく愉快な気分なんだ。
どうして?
どうして。
どうして、愉快なんだ。
だって、傷つけてやった。
ざまあみろ。
傷つけて傷つけて傷つけて
二度と、復活など出来ないように。
もっと傷つけて
ああ、なんて愉快なんだ。
は、と笑った瞬間、こみ上げてきたものにむせた。
げほ、と吐き出した液の独特なにおいと酸に喉を焼かれて、痛い。
咳も止まらなくて、吐くのも止まらなくて。
まるで、身体の中身まで吐き出そうとするかのように。
身体中が、何かを拒否していた。
ああ、狂っているのかもしれない。
僕は、狂っているのかもしれない。
とっくの昔に、狂って狂って。
吐き出すものを全てはいても、吐き気はおさまらなくて。
は、と息を吐き出して、壁に寄りかかる。
自分のぜいぜいという息をどこか遠くに聞きながら、
残ったのは空虚さだけだった。
ふと、鳴き声が、した。
何かが叫ぶ。
地の底から、けものの、咆哮が。
身体を貫いた。
どこから。
ふらり、と立ち上がっていた。
その、悲しげな、咆哮に。
「なにをしているの?」
大きな、広間だった。
床に大きく広がる不思議な模様。
それから感じる波動は…真の紋章のもの。
「お前か」
床に落ちる血は、男の手首から流れている。
ぽたりぽたりと落ちる血をぼんやりと見ていたユエに、声がかけられた。
「お前はなにをしている?」
「・・・見てる」
男が、なにをしようとしているのかを。
その血を注いで、なにをしているのかを。
「ふん・・・これはな、獣の紋章だ」
「けもの」
28の、真の紋章。
右手が、うずいた。
傷つけたはずなのに。
ずたずたに、切り裂いたのに。
「あなたは、誰?」
「俺か?俺は狂皇子。狂皇子ルカ・ブライト」
「・・・ハイランドの、皇太子」
目を見開いたユエに笑って、怖いか、と笑う。
「いえ・・・」
怖くはない。
隣国、ハイランドの皇太子。
ユエより年上の、皇子。
「お前は?」
「・・・・・・・・・・・名は・・・」
名乗れない。
ユエの名はとうに一人歩きをしていて、もう、自分のものではないようで。
母の優しい願いと共に名づけられた名は、血塗られた。
だから、名乗れる名を、ユエはもたない。
「国は」
「・・・赤月」
「・・・ああ、滅びたのだったか」
ルカがわずかに顔をしかめる。
「それでお前は死にたいのか」
それで?
国を失ったから、死にたいのかと?
「違う」
国を失わせたのは、自分だ。
「ではなぜ?」
「・・・死ねない」
そう、死ねないのだ。
生きるとやくそくをしたから。
この紋章を守るとやくそくしたから。
「やっていることと言っていることが違うな。お前はどうみても死ぬつもりだった」
「・・・死にたい」
けれど、死ねない。
「そうか。殺してもいいが?」
そういわれて、面食らった。
「誰が?」
誰が、殺せるというのだ。この自分を。
「きさま・・・失礼なやつだな。俺以外に誰がいる」
「・・・・・・君が?」
無理だろう。
実力的にはフリックより、少し上だろうか。
いや、技術でいけばフリックのほうが強い。
おそらく良い戦いとなる。
そう思ってから、死んだ男を思い出している自分に、笑う。
「きさま、俺の力をそれほどあなどるか」
侮るもなにも。
ルカの腕は、ユエを殺せるほどには良くはない。
死に物狂いで向かってくる強敵を打ち倒したものにしかつかない力がある。
ルカに正面からはむかう強敵など、そうはいまい。
噂は、トランにも届いていた。
狂皇子、ルカ・ブライト。
その活動が表面化してきたのはつい最近。
ロッカクからもたらされた情報では、都市同盟の村々に虐殺とも言える作戦を繰り返している、と。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「答えろ」
「侮っては、いない」
事実だ。
この皇子の腕では、ユエには及ばない。
「気に触る」
「・・・では、殺す?」
そう尋ねると、顔をしかめた。
「俺は、母の復讐のために都市同盟と戦っているわけではない」
なにを、言い出すのか。
ふと考えて、ああ、そうだったと思い出した。
かつて、都市同盟の襲撃でこの皇子の母は・・・。
「あの時…あの男は、俺と母を見捨てた・・・」
「あの、男?」
父だ、とルカは言った。
皇王、ではなく。
「皇王たるものが、弱きものを、見捨てたのだ」
その声は怨嗟に満ちていた。
「確かにこの世は弱肉強食…それは、乱世において絶対の論理だ」
「だが…皇王たるものは絶対の強者でなければならない。…自分の懐にいる弱者を見捨てるものは、強者などではありえない」
まるで、それが唾棄すべきものであるように、ルカはその呼び名を呼ぶ。
「惰弱なだけだ」
「惰弱・・・」
「俺は、惰弱なものが王位にあることが我慢できない。それは、この国は弱者を虐げることを当然とするも同じだ」
「・・・・・・・・都市同盟の人たちは」
ん?と視線を向けたルカに、ユエはじっと、その目を見つめた。
「弱者ではないの?」
「・・・・・・誰にも言わないか?」
「うん」
「弱者だ」
はっきりと、そう言った。
弱者だ、と認めていると。
「俺が襲う村の者たちは弱者だ。戦う力を持たない娘たち、幼子たち…それは、弱者だ」
そう、弱者だ。
恐怖におののき、泣き叫び、逃げ惑う、民。
それを囲み、追いたて、切り殺す。
なんの抵抗もなく、切り殺され、村を焼かれ、呆然とする人々。
それが弱者でなく、なんであろう。
「彼らを殺すのは、俺の都合だ」
彼らを殺すのも、痛めつけるのも。
だからこそ、絶対的な力を持って。
そうでなくば、許されない。
絶望するほどの力をもってこそ、彼らの命を奪えるのだ。
中途半端な力では納得など出来まい。
圧倒的な、逆らうことなど思いもできないほどの力を持って。
あの男に狙われたのならば仕方がないと諦めがつくように。
「ならば、都市同盟は守ればいい。絶対的な力を持って」
「俺は、王位を手に入れる。そして、父とは違う強者として君臨する。全ては・・・!」
ルカの願い。ルカの思い。
なにもかも踏みにじり、前に進む。
嘆きも、悲鳴も踏み潰して。
全ては、全ては。
「全てはそのために必要なのだ!!」
手のひらにつめが食い込むほどに力を入れた拳を下ろし、そらされることなくルカを見つめる瞳に、ふと表情を和らげた。
「お前の目は、不思議だな」
「え?」
「お前の目は、全てを見通すようだ」
「…小さい頃は、よく友達に泣かれました」
ユエの目が怖い、と。
お前の目って、怖いけどきれいですごいな、と屈託なく見つめてきたのは、テッドだけだった。
「だが、お前はその目を隠していない」
怖いと泣かれた、と悲しそうに言うのに。
人に恐れられても、何を言われても、その目を隠そうとはしていない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だから、お前を側においてみる気になった・・・」
そう言った男の顔は、意外なほど穏やかだった。
「生きていたくば、その目で俺を見続けていろ」
目を伏せて笑う男がゆっくりと、向きを変える。
そのまま、振り返ることなく闇の中に歩み去っていった。
大きな、後姿だった。
今の身分はどうであれ、彼の心はすでに王なのだ。
そう、悟らざるを得なかった。
もし、あの力が都市同盟を襲うなら。
今の彼らに勝ち目はないだろう。
彼らはまとまることが出来ない。
いがみ合い、牽制を続けて、打算と習性で同盟を維持し続けている彼らには勝ち目はない。
ルカという大きな波は都市同盟を飲みこみ…トランへと迫るだろう。
あの、故国に。
「・・・・・・・・・・・・勝ち目は、ない」
今のトランでは対抗しきれない。
国内を平定しきれていない現状。
構築されていない国政。
すでに絶対的なリーダーであったものはいない。
その戦いの全てを支えた軍師はいない。
もし、そのときが来たら。
自分はどうするのだろう。
あの、全てを失った上に作られた国を…どうするのだろう。
父上。
グレミオ。
テッド。
・・・オデッサ。
「・・・・・・滅ぼすのも、悪くない」