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Credo ―我は信ず―



 寝台の上に横たわる客人をみつめて、クレメンスは嘆息した。
 ルカの気まぐれなど、今に始まったことではない。
 だが。
 こんな人物を連れ帰ってくることだけは予想外だった。
 不思議だった。
 整った顔立ちは、ともかく。
 綺麗に洗われた髪は、艶々と黒く輝いている。
 武器を取りなれた硬くなった手のひらには、しかし、武器の特徴を示す痕跡がまるでない。
 つめの形にはゆがみがまったくない。
 骨格は意外なほどにがっしりとしていて、皮膚も白い。
 歯はそれほど磨り減っておらず、綺麗な歯並びをしている。
 そこから導き出されることは、彼が高い身分と裕福な家庭をもっていたということだった。
 栄養が不足したことは今までにほとんどない。
 強い日光に身体がさらされ続けたことがない。
 武術を長期間習っている。
 誰かに丁寧に爪にやすりをかけてもらい、形を整えられていた。
 歯に異常があっても直せる立場にあり、なおかつ柔らかいものも硬いものも食べられる地位にあった。
 それだけの子が、はたしてこんな格好で一人でうろついているものだろうか?
 それに、ごく普通にみえるこの少年の何が、ルカをひきつけたのだろう。
 普段の皇子なら、間違いなく殺している。
 



「あなたは…誰ですか…なぜ、あの方はあなたを連れ帰ったのですか…」
 



 答えが返るはずもない問いを呟いて、思わず、深いため息が漏れた。
 愚かなことをしている。
 このところ、ずっと。
 探って、うかがって、…疑って。
 あの王子の真意など…わかろうはずもない。
 あの人は、日に日に…遠くなっていく。
 もう、手が届かないことを、クレメンスはわかっていた。
 わかっていないのはソロンギルだ。
 薄々悟っているくせに、それでもしがみつく様に昔のルカを信じ続けて。
 だけど、変わっていくのは、きっと・・・きっと、全てを果たそうとして、だから。



「わかっていても・・・傍を離れられないのだから、私も同じことか・・・」

 

 ふと、少年の呼吸が変わったような気がして、視線を上げる。
 その目が、開いていた。
「気がつきましたか?」
 ここは、ルルノイエです、と続けようとしたその言葉が、のどの奥で凍りついた。



 ぽっかりと開いた目は。
 深遠の闇をたたえていた。



 一見すればガラス玉のように無機質にも見えるその瞳は、その奥底に底知れぬ闇をはらんで。
 それと気づかず踏み込めば、とらわれて永遠にその闇に閉じ込められてしまうのではないかという恐怖。
 どれほどの闇を見てきたというのだろう。
 まだ、13,4の子どもが。
 それほどの、闇を。



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