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Gloria ―栄光―




 テッドの笑った顔が、離れなかった。


 どうして。


 どうして、あんな顔で笑ったの?



 とても、幸せそうに。

 幸せに・・・・・・・・・・・。




 赤い焚火の炎が、闇夜にぼんやりと浮き上がっていた。
 幾度も見たことのあるはずのそれが、遠い。
 

 ああ、そうか。
 火の起し方を教えてくれたのは…君だったね。
 不器用だと笑いながら、幾度も幾度も…。
 

 君が、隣にいない。
 それだけで、世界がこんなにも暗い。
 こんなにも、息をすることすら苦しい。
 助けてよ。
 側にいて。
 ここに、来て…テッド……

「絶対に…助けるから…」
 
 あのまま、とらわれたままになどしない。
 助ける。
 その思いだけが今の支えだった。





 ビクトールがぽかり、と目を覚まして、ぼんやりと視界に移った星の位置を見て、交代の時間が過ぎていることに慌てた。
 起こせよ、と低くぼやいて、身体を起こす。
 と、視界に入った人影に、身体がこわばった。
「・・・・・・・・・・ユエ、か」
 はぁ、と息を吐き出して、思わず剣に伸びていた手を下ろす。
 ぼんやりと炎を見つめている子どもの隣に腰を下ろして、ぐしゃ、とその頭をかき混ぜた。
「眠れないのか?」
「・・・・・・うん」
 グレッグミンスターから連れ出してきた子どもは沈んだ目のまま膝を抱えていた。
 ほれ、と熱い湯の入ったコップを渡す。
 自分にも同じものを用意してから、その隣に腰を下ろした。 
「なあ、なんで俺と一緒にきた?」
「・・・他に選択肢は与えられなかったように思うが」
 淡々と返されたその答えを鼻で笑った。
「冗談だろ」
 それしか選択肢がなかったわけがない。
 だが、この子どもはそれを選んだのだ。
「お前にはわかってるはずだぜ。…他にいくらだって方法はあっただろう」
 しばらくの沈黙の後、子どもは目を伏せた。
「…あったな」
 それはわかっているらしい。
 そう。いくらでも方法などあった。
 何しろマクドール家のお坊ちゃんだ。
 領地に逃げる手段も、都市内で助けを求めることもできただろう。
 近衛騎士よりもその権力はあきらかに強い。
「だけど、お前は俺についてきた。…なんでだ?」
 純粋に疑問だった。
 追われていた上に庇護者たる父もおらず、困っていたとはいえ怪しい風来坊にのこのこついてくるとは。
「…僕は、自分の目を信用している。…あなたは信用できると思った。それだけだ」
「へぇ」
 それだけのはずがない。
 ビクトールが、こいつをみつけたのは、お尋ね者だったからではない。
 それだけで危ない橋を渡るほど愚かではない。
 この子どもの目が、特別だった。
 解放軍の首魁たるオデッサ・シルバーバーグと同じくらいに。
 否、それ以上に大きな何かを感じた。
 だから助けたのだ。
 それほどの子どもが、果たしてそれだけで不確定な誘いに乗るとも思えない。
「…僕は、子どもだ」
「あ?」
「…何も出来ない、子どもなのに、それに気づいていなかった愚か者だった……」
 それはそうだろう。見るからに子どもだ。
「そんな愚か者にも、守りたいものはある。それが理由だ」
 その口調の重さに、思わず口をついて出たのは
「お前一体いくつだ……」
「14」
 そうかそうか。14・・・・・・・
「14・・・!?!?!?」
 身長は160センチに届かぬほど。
 細身の体も見た目以上に筋肉を備えているのはここまでの獣との闘いでわかってはいる。
 しかし、その身のこなしやたたずまいが14歳という年齢を裏切っていた。
 何よりも、だれもが印象に残るその作り物めいた白皙の美貌。
 印象に残るのに描くこともできず、絵にすればともすれば彫刻を映したような印象になるほど一つも崩れたところのない顔貌はその年齢も相まって男とも女ともつかぬ。
 そして…
「14歳のがきはそんなに落ち着いていない………」
 これが王侯貴族ということなのだろうか
 恐ろしいほどに隙のない姿だった。
「14でしかない。そして、当主でもなく実績もない、今は反逆者に仕立て上げられたただのガキだ」
「そうか……」
 なぜだろう。その言葉のとおりでしかないはずなのに、そう受け取れない何かがある。
 まるで、この道を彼の手で選ばされているような。
 そんなことをおもってビクトールの背筋がぞくりとした。
 連れてきたのは正しかったのだろうか。
「今は、進むだけだ」
「…わかった。とりあえず、明日は関所を抜ける。まずは休んでくれ」
 ぼろを出されるのは困る。
 そう告げると、ユエはうなずいてマントをかぶった。
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