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Kyrie ―哀れみたまえ―




「ユエ、彼を紹介したい」
「あ、はい…」
 俺の姿に驚きを隠せない、というように振り返りながらも小さな身体が俺の前を横切って廊下のほうにきえた。
「さあ、行こう」
「…どこに」
「応接間だ」
 促されるままにテオさまについていく俺の顔は、きっとこわばっているに違いなかった。
 ありえてほしくないことだった。
 紋章が人目で気に入って暴走するような相手とずっとすごす?
 遊び相手を務める?
 冗談じゃなかった。
 ぐっと、右手に爪を立てる。
 今はなぜか落ち着いているからいい。
 けれど、こいつはいつ暴走するかわからない。
 わかったものじゃない。
 一刻も早く、ここを去るべきだ、と俺の理性が告げている。
「お帰りなさいませ、テオさま」
 金髪のお兄さんが丁寧に頭を下げた。
 その頬にある傷に興味をひかれつつ、俺は部屋の真ん中に立ち尽くした。
 重厚なテーブルに、さっきの子どもが座って俺をみつめていた。
 その隣に立つ、金髪の男性が俺に探るような目を向けてきている。
「この子は、テッド。しばらくはうちで面倒をみることにした。ユエ、仲良くするんだぞ。」
「はい、父上。よろしく、テッド」
 とてもじゃないけど、さしだされた右手を握ることができない。
「・・・・・・・・・・・・・」
「?どうか、した?」
「・・・・・・なんでもない。よろしく」
 右手を差し出すことなく、それだけを言う。
 宙に浮いた手を引っ込めて、そいつは、困ったように笑った。
「よかった。具合よくなったんだね」
「・・・ああ」
 なんていえばいいのだろう。
 なんと言えば、こいつは、俺に近づかなくなるだろう。
 どうすれば・・・・・・
「いつ知り合ったんだ?」
「先ほど、広場で。具合が悪そうだったので、気になっていたのですが、待ち合わせている人がいるから、と。父上だったとは思い至りませんでしたが」
「そうか。それは気づかなかった。だいじょうぶか?」
「・・・ええ」
 具合が悪かったんじゃない。
 ソウルイーターが。
 動き出した。
 それだけだ。
「ユエ。テッドの視点はお前の勉強になる。色々と教わりなさい」
「はい、父上」
「グレミオ、今日は泊まって行くから彼用の客間を」
「は、はい。あの、こちらに住むのでは…」
「いや、彼は別の家に住む。時々は食事を食べさせてやってくれ」
「わかりました」
 どこかで、話が進んでいくのを、ぼんやりときいていた。
 聞いていることしかできなかった。
 惹かれたんだ。
 一目見て。
 だけど。


 お前の餌にするために、出会ったんじゃない。


「テッド、案内するよ」
 立ち上がったユエに、テオさまをみると、頷かれる。
 仕方ない、とその後に続いて廊下に出た俺は、一言も口をきかなかった。
「本当に、だいじょうぶ?」
 また、具合が悪くなったのか、と思ったのかもしれない。
 けれど、俺は。
 ふっと伸びてきた手をふりはらった。
「・・・・・・痛っ」
 思った以上に鋭い音がして、ユエの手がみるみる赤く染まった。
 動揺を押し隠すようにして、できるだけ冷たい声をだす。 
「触られるのは嫌いだって言っただろ?」
 うまくいっただろうか。
 こいつに、気取られなかっただろうか。
 冷たい人間だと、思わせられただろうか。
 どうか、思ってほしい。
 あきらめてほしい。
 俺は、お前の“友達”になんかなれない。
 なったら…なってしまったら…!


――――テッドくん。友達に、なろう


 背中に背負った弓が、重く感じた。
 とても、重かった。
「・・・・・・・ごめん」
 みつめた顔は、悲しそうだった。
 けれど、そのどこにも…同情も、不快感も、なかった。
「・・・・・・もう、触るな」
「わかった。気をつける」
 どうして、そんなことを自然にいえる?
 どうして・・・・・・
 

 お前が、真の紋章の主ならよかったのに。
 それなら・・・煉や、ヨンのように、一緒にいたとしても
 お前が、ソウルイーターに命を奪い取られることなんてないのに・・・





 その時、俺は気づいてなかった。
 そう思ってしまうほど、初めて出会ったばかりのこいつに心惹かれているということに。
 ぜんぜん。気づいてなかった・・・
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