Kyrie ―哀れみたまえ―
6
つれてこられた家は、ひたすら立派だった。
古いし、格式がある。
けれど、決して古臭くは見えない。
そして…珍しいことにどでかい敷地の奥ではなく、門でもなく、家が前面に出ていた。
「・・・・・・なあ。なんでこんな作りなんだ?」
普通、玄関がみえないように、とか高い塀や柵でしきられてる、とか…
「裏の庭は仕切ってある。だが、前面まで仕切るとどうも息苦しい」
「テオさまがとったのか?」
「いや。わたしの親父様の親父様の親父様…曽祖父がやったらしい」
「…代々変わったやつなんだな、あんたのとこ」
よくよく見てみれば、窓は進入不可能なように半分も開かないようになっているし、階の切り替えと思しきところには上ってこれないように細工がある。二階以上の窓も、それほど大きくない上に、手をかけられないようにどこにも出っ張りがない。扉の内側にはきっと鉄格子が下ろせるようになっているんだろう。それなりに侵入者対策の施された家のようだった。
「台所の裏口からは直接外に出られるようにもなっているし、地下通路もある。代々当主と後継者しか知らないがな」
「・・・・・・へえ」
探っているな、とわかったらしい。
つくづく油断のならないおっさんだ。
「それにしても、テッドは他の子どもと少々目の付け所が違うな」
「…光栄だね」
「実に面白い。軍師としての勉強でもしたらどうだ?良い軍師になるやもしれん」
げっそりだ。
ただでさえ魂喰いのおかげで人を殺しているのに、軍師になって人を殺す指示を出してどうする。
これ以上はごめんだった。
「俺は戦争が大嫌いだ」
「そうか。ならば薦めん」
このあっさり引くところが読めないというかなんというか…
変わった人だ。
「さあ、入るか」
「…なんか気合いれる必要があるのか?」
「・・・・・・ここだけの話だがな。とてつもなくおっかないのが一人いる」
「・・・奥さんか?」
「いやいやいやいや。奥方にならこんなにおびえん。中にな、奥方より怖いのが一人いる」
「はぁ?」
「ユエ命で家の中一切を取り仕切ってるうるさいのがいてな。なまじの奥方より口うるさく、世の中の小僧は皆坊っちゃんの敵などと掲げておるとんでもないやつでなあ」
「・・・・・・・・あのさ。そういうことはもっと早く言ってくれよ…」
それって、もしかしなくても俺が敵ってことか!?
「ま、いまさら怖気づいても仕方ない。さあ、行くぞ。やつにタイコウする手段はただ一つ。ユエを味方につけることだ」
「…へいへい。がんばりますよ」
…こんなの家の前でこそこそ話すことかぁ?
みろ。そこにたってる兵士がすっげえ不審そうな顔でみてるじゃねえか。
テオさま自らドアを開けて、俺を入れてくれた。
「・・・失礼、します?」
他になんていっていいのやら。
「今帰ったぞ」
うわ。広い玄関だな…。正面には絵が一枚かけてある。
綺麗な女の人と、テオさまと、俺より年下な美人な子ども。
ひょっとしなくても、これが息子かなあ。でもどう見ても娘だよな、などと考えていた俺の耳に、軽い足音が届いた。
「お帰りなさいませ、父上」
「今帰った。元気だったか?」
声変わりしてなさそうな高い声に顔を上げた俺は、驚愕に、凍りついた。
「・・・・・・・・・!」
「あ・・・・・・」
さっきであった、もう二度と出会わないことを祈ったその人が、そこにいた。
つれてこられた家は、ひたすら立派だった。
古いし、格式がある。
けれど、決して古臭くは見えない。
そして…珍しいことにどでかい敷地の奥ではなく、門でもなく、家が前面に出ていた。
「・・・・・・なあ。なんでこんな作りなんだ?」
普通、玄関がみえないように、とか高い塀や柵でしきられてる、とか…
「裏の庭は仕切ってある。だが、前面まで仕切るとどうも息苦しい」
「テオさまがとったのか?」
「いや。わたしの親父様の親父様の親父様…曽祖父がやったらしい」
「…代々変わったやつなんだな、あんたのとこ」
よくよく見てみれば、窓は進入不可能なように半分も開かないようになっているし、階の切り替えと思しきところには上ってこれないように細工がある。二階以上の窓も、それほど大きくない上に、手をかけられないようにどこにも出っ張りがない。扉の内側にはきっと鉄格子が下ろせるようになっているんだろう。それなりに侵入者対策の施された家のようだった。
「台所の裏口からは直接外に出られるようにもなっているし、地下通路もある。代々当主と後継者しか知らないがな」
「・・・・・・へえ」
探っているな、とわかったらしい。
つくづく油断のならないおっさんだ。
「それにしても、テッドは他の子どもと少々目の付け所が違うな」
「…光栄だね」
「実に面白い。軍師としての勉強でもしたらどうだ?良い軍師になるやもしれん」
げっそりだ。
ただでさえ魂喰いのおかげで人を殺しているのに、軍師になって人を殺す指示を出してどうする。
これ以上はごめんだった。
「俺は戦争が大嫌いだ」
「そうか。ならば薦めん」
このあっさり引くところが読めないというかなんというか…
変わった人だ。
「さあ、入るか」
「…なんか気合いれる必要があるのか?」
「・・・・・・ここだけの話だがな。とてつもなくおっかないのが一人いる」
「・・・奥さんか?」
「いやいやいやいや。奥方にならこんなにおびえん。中にな、奥方より怖いのが一人いる」
「はぁ?」
「ユエ命で家の中一切を取り仕切ってるうるさいのがいてな。なまじの奥方より口うるさく、世の中の小僧は皆坊っちゃんの敵などと掲げておるとんでもないやつでなあ」
「・・・・・・・・あのさ。そういうことはもっと早く言ってくれよ…」
それって、もしかしなくても俺が敵ってことか!?
「ま、いまさら怖気づいても仕方ない。さあ、行くぞ。やつにタイコウする手段はただ一つ。ユエを味方につけることだ」
「…へいへい。がんばりますよ」
…こんなの家の前でこそこそ話すことかぁ?
みろ。そこにたってる兵士がすっげえ不審そうな顔でみてるじゃねえか。
テオさま自らドアを開けて、俺を入れてくれた。
「・・・失礼、します?」
他になんていっていいのやら。
「今帰ったぞ」
うわ。広い玄関だな…。正面には絵が一枚かけてある。
綺麗な女の人と、テオさまと、俺より年下な美人な子ども。
ひょっとしなくても、これが息子かなあ。でもどう見ても娘だよな、などと考えていた俺の耳に、軽い足音が届いた。
「お帰りなさいませ、父上」
「今帰った。元気だったか?」
声変わりしてなさそうな高い声に顔を上げた俺は、驚愕に、凍りついた。
「・・・・・・・・・!」
「あ・・・・・・」
さっきであった、もう二度と出会わないことを祈ったその人が、そこにいた。