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Kyrie ―哀れみたまえ―




 都に入った瞬間、すごい歓声が俺たちを…というよりテオさまを迎えた。
 沿道に並ぶ人たちがテオさまと皇帝をたたえる言葉を口々に叫ぶ。
 評判が他国にとどくぐらいだからよほど信頼されているのだろう、とは思っていたが…これは予想以上だった。

 
 荷馬車の布の影からその様子を眺めている俺に同じ馬車に乗せられている負傷者たちが笑ってる。
 くそう。あんたたちだって初めてこんな場面に遭遇したときはびっくりしたくせに……
 ちっと舌打ちをして元通り壁に寄りかかった。


「テッドくん?」
「…クレオさん」

 
 荷馬車の布を跳ね上げて乗り込んできたのは顔なじみになった女性兵士だった。
「もうすぐ中心部に着くよ。王宮前の広場で皇帝陛下の閲兵を受けてから解散になる。その前にテッド君をおろしておくようにってテオさまか
らの指示だよ」
 閲兵…ってことは馬車から全員降りるのかぁ?
 顔みられるのも嫌だし、ちょうどよかった。
 顔や名前が広まって有名になるのはありがたくない。
「それで、悪いんだけど、わたしも閲兵には出なきゃならないからテッド君一人で待っていて。閲兵が終わったらすぐに迎えに行くから」
「あ、ああ・・・うん・・・・・・」
 そうか。この人だって兵士なんだから行くよな…。
 俺、迷わないかな……
「これ、預けておくからなにかほしいものがあったら買ってらっしゃい。もうすぐ整列するために馬車がとまるから。そうしたらこっそり降り
てここにいて」
 渡された紙にはクレオさんが書いたらしい街の略図が書かれていた。
 一緒に渡された小さな皮袋はずっしり重い。
 口をあけてみると、銀貨が数枚と銅貨がぎっしり詰まっていた。
 金貨がなくて銅貨が多いのは、俺みたいな旅の子どもが持っていもおかしくないようにって言う配慮だろう。
「わからなくなったら街の人に聞きなさい」
 わかった、と頷いて皮袋を首から提げた財布にいれた。
 ぎ、というきしむ音をたてて馬車が速度を落としたのが感じられる。
「じゃあ、またあとで」
 元気でな、とかまた会おうな、という兵士さんたちの声を後ろに俺は馬車から飛び降りた。



「・・・・・・・・まじで、ここ・・・?」
 街のど真ん中…というか…広場の真ん中に、黄金で作られたと思われる女の人の像があった。
「・・・・・・・・・・・・」
 何回見比べても、地図にはここで待て、と書いてある。
 ベンチもあって、噴水もあって…まぁ…待ち合わせにはいい場所だよな。
 露店もあって飲み物も食べ物も少しは買えるし……
 なにより、絶対に迷わないだろう。これは。
 誰に聞いても場所がわかる。
 そんな待ち合わせ場所だな…ここは……
 俺って…もしかしてそんなに迷子になりやすそうに見えるんだろうか…
 なんとなく…馬鹿にされてる?
 しかも、ここで待ち合わせって…すげぇ目立つ気がするんですけど。
 今は凱旋で人がいないから良いけどさぁ…
 そっと右手の甲を覆うようになでて、ベンチにどっか、と腰を下ろした。
 日差しがまぶしい。
 明るい青の空に白金の光が広がって。
 この世の全てを照らし出すかのような、強い光。
 でも、俺には少し…まぶしすぎる。
 俺みたいな人間には、夜の月の光の方が似合ってる。
 ひそやかに、でも夜の闇を包み込むように、癒すように夜空に広がる、淡い月の光。
 そんな月のほうが、俺は、好きだ。


 ふと、視界の端に妙なものがひっかかった。
 いや。引っかかったんじゃない。
 目が、吸い寄せられた。


 まっくろな髪。
 真っ白い肌。
 そして、輝く金色の目。
  

 おれが、今までみたこともないぐらい…きれいな子だった。
 

 なんていうんだろう…もう、どこもかしこも文句がつけられないぐらい整ってるんだけど…ただ、綺麗なだけじゃない。
 綺麗過ぎる顔っていうのは無個性になりがちだ。
 だから、美人って言うのはどこかに愛嬌になるような部分がある。
 だけど、こいつの顔にはどこにもそんなのがないんだ。
 全部、綺麗なパーツをあつめて理想的に配置しましたっていうか…
 100人に聞いたら100人ともすっげえ美少女!!っていうかんじの… 


 でも、こいつは…なんていうんだろう…そう、惹きつけられた。
 視線が吸い寄せられるっていうか……あいつみたいに。
 むかし、一緒にすごした、あいつらみたいに。
 

 そこに在るだけで、視線を吸い寄せる。
 みんなをひきつける。
  

 星の名の下に。


 その星の名前は――――






「・・・・・・・・・・・・」
 

 間近で見た目は、太陽の下で輝きを放っていた。

 きらきらと光を反射してきらめく金色。
 この色を知っている。
 これは。

「・・・太陽の色だ」

 時に身を焦がし、照り付け、時に恵みを与える。
 優しく温め、見守る
 人になくてはならない、あの輝き。
 300年の間、ずっと変わらない、あの色だった。


 吸い寄せられるようにその瞳を見つめていると、その上の綺麗な眉がぐっとしかめられた。



「・・・・・・・・・・君はだれ」


 



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」



 ひょっとしなくても、不審人物だった。


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