1年生(親世代) 完結 (99話)
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78
朝のフクロウ便の時間はサバイバルだ。
まるで朝食の上を狙ってるかのように手紙や小包という名の爆弾を投下してくれるからだ。
おそるべし。フクロウ便。
「きゃあっ」
ばしゃ。
「・・・・・・・・・っリリー~~~っっ」
「ごめんなさい、大丈夫?」
「大丈夫だけどねぇ・・・」
どうせスリザリンのタイとローブだし。
はっ!ひょっとしてコレで着替えられる!?
ルシウス・マルフォイが作ったんだもの!きっと綺麗好きよね!!
「あー!もう!すっかりスープにつかっちゃったわ」
本日のスープ。
コーンクリームスープ。
合掌。
キャッチし損ねた手紙をつまんだりリーが杖を一振りするとべっとりくっついてたスープが綺麗さっぱりなくなった。
「魔法って便利!早く家でも自由に使えるようになればいいのに」
うん。こんな風にあっという間に元通りになるっていうのが。
いいよねえ・・・。コップ倒したとか、排水溝に落っことしたとか…
「家からの手紙?これってマグルの手紙なの?」
「ええ。パパとママから・・・・・・まあ!」
手紙を束ねていた紐を解いて2通目をひっくり返して差出人を見たりリーの顔が輝いた。
「ペチュニアからだわ!」
ぺ。
ペチュニア?
ペチュニア~~~!?
そそそそそれって!!
「ペチュニアってだぁれ?リリー」
「私の妹なの。ペチュニア・エヴァンスよ」
やはりあれか!!
ペチュニア・ダーズリー!
幼いハリーの虐待犯!
「ペチュニアが手紙をくれるなんて!」
でも…なんか、すっごく喜んでるし…
…なんか、賢者の石で化け物とか呼んでませんでしたっけ。あの人。
「妹よね?」
「ええ」
「…仲悪いの?」
うわ。いきなり直球。
アリス…それはないよ・・・
「・・・・・・そう、ね」
そう言ったリリーの目が酷く悲しそうだった。
「昔から?」
「アリス!」
「そんなこと、訊くものじゃないわ」
マギーとあたしに睨まれて、あ、と口を押さえたアリスにリリーが明らかに無理してる顔で笑った。
「いいのよ。…小さい頃は、そうでもなかったの…でも…ホグワーツにくることが決まってからは、口もきいてもらえなくて…」
ありゃ。
「クリスマス休暇は?」
あ~もう。アリス…もうちょっと場を読もうよぉ。
「…ぜんぜん」
「そんなの酷いわ…」
「仕方ないわ。うちはマグルなんだもの。…魔法使いがおかしいって見えても当然なのよ…」
いやいや。そんなことはないと思うけどねえ…。
「たしかに、私たち魔法族だってマグルに偏見持ってるものね」
「そう~?うちはマグルと魔法使いだけど仲良しだよ?」
あ。そっか。アリスの家ってマグルと魔法使いの夫婦だっけ。
「そういう家もあれば、そうじゃない家もある。…そうねえ。アリスの家やポッター家みたいのがあれば、ブラック家みたいのもあるってことじゃない?」
わかりやすかったらしく、しきりにうなずいているアリスに笑って、あたしはいそいそと手紙を開くリリーをじっと見守っていた。
とてもうれしそうに一行一行丁寧に読んでる。
やっぱりかわいいのね。あんな妹でも。
と、その顔がみるみるうちにこわばった。
「・・・・・・・・・・・っ」
手紙を握り締めてがたん、と立ち上がったリリーを…あたしは、とっさに追いかけることが出来なかった。
「全く・・・なんで俺と組むときに限ってエヴァンスがいなくなるんだよ・・・」
「仕方ないじゃない。色々事情あるのよ」
男でしょー。
ぶつくさ言わない。
大体…あんなふうにいなくなったのに、授業にだけ平気で顔出せるわけないじゃない。
なんて、いえないけどさ。
「まったく・・・なんでスリザリンと俺がくまなきゃならなかったんだ…」
「相手がいなかったから」
しかもセブちゃんと組むとは…
なんともまぁ…。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・げ」
「…あら?」
教室を出た瞬間に、シリウスが小さく声を漏らした。
それもそのはず。
よく似た黒髪のお姉さまのお一人が。
「お久しぶりね」
「・・・・・・・ベラトリクス」
シリウスの声が瞬間、硬質な響きをもった。
「何用だ」
「シリウス、ご機嫌いかが?」
「何用か尋ねているが?」
「あいにくと、あなたに用事ではありませんの。あなたの友人をお借りできて?」
…ルシウスやブラック家にいたときとは違う緊張感が漂ってる気がする。
なんだろう…
何が違うのかしら…
「・・・・・・これか」
ちろり、と向けられた目が気に入らん。
がす。
「~~~~~~~~~っっ」
声もなく蹴られた脛をそれでもベラトリクスの手前、顔に出すことなく奥歯を食いしばって痛みに耐えるシリウスの横をすり抜けて、あたしはにっこりと笑った。
「あたしに、御用ですか?」
嫣然と笑って、ベラトリクスはきょとんとした顔になった。
「あら。朝はスリザリンカラーだったのに」
「今朝汚れたので着替えました!」
そりゃあもううきうきと。
大人しく外れてくれたネクタイとローブは洗濯に出したついでにしもべ妖精に言い含めてスリザリン生につけ届けてもらうことにした。
もう二度と!首は絞めさせなくてよ!!
「元気かしら?」
「ええ。レディ・ベラトリクス」
ついこないだお茶会に引っ張られたとき以外は。
「ルシウスとの仲は進展して?」
「何を進展させるんですか」
何一つ進展させたくありません。
「あら。ルシウスはあなたがお気に入りなのに。フラレたのかしら」
「フッたぐらいでいなくなってくれるなら喜んで」
いや、別に嫌いなわけじゃないんだけど。
なんというのかしら…敵?
ライバル?
顔を見ると対決したくなるというか…かまいたくなるというか。
会話のテンポが楽しいのよね。中身不吉だけど。
ただし。
セクハラだけはやめやがれ。
「サクラ」
「はい?」
「お昼を一緒にどうかしら?」
はあ・・・まあ・・・・・・
「喜んで」
といっても・・・大広間での昼食だけど・・・ね?
「シリウスと、仲が良いのね」
「そうですか?」
まあ、悪くはないと思うけど。
「ええ。…あの方があんな顔をしているのを初めて見たわ」
ぶは。
あ、あの方!?
「あんな顔を、出来る人だとは思わなかった」
「…あたしは、最初からあの顔しか見てないですから」
きっと、あたしたちといるときの笑顔だったり。
優しい目の色だったり。
悪戯っぽい、子どものような笑い方だったりするのだろう。
あのブラック家の屋敷で、どれも見ることのなかった顔。
「そう…グリフィンドールに入るというのは…そういうことなのかしらね」
ぼんやりとティーカップを満たす紅色の液体を眺める彼女の前に、食事らしい食事はない。
あたしは遠慮なくいただいてますが。
ご飯を抜くのはよくないよー?
まだまだ成長する時期なんだからさぁ。
「わたくしの知っているシリウス・ブラックは、ブラック家の跡取りにふさわしい人だった」
「今の彼は、ふさわしくないですか?」
「…ええ。あのような隙も、人を信用する態度も、ブラック家の当主にはふさわしくないわ」
「・・・・・・信用は、してないと思いますけど」
いつだって警戒心ばりばりで。
人懐こい顔を見せるときもあるけれど、彼は決して人懐こいわけではない。
むしろ、とんでもなく警戒心も猜疑心も強い。
だが、その壁を乗り越えれば…一度懐に入れれば、警戒することをしない。
その壁がとんでもなく高いだけ。
今のところその壁を越えているのは…
「ジェームズぐらいでしょう」
他はあくまでその他、だったり付属物だったりするような気がする。
ああ、あとはちょっと違う位置にいるのがリーマスかしら。
信用というよりは…側にいることを許しているというか…見せる変化にいちいち警戒はしてるみたいだけど、基本的には側にいても抵抗ないみたいね。
…あら?あたしも警戒ってされてないかも。
意外と簡単にさわらせてくれたりかまわせてくれてるわよね。
「そう…わたくしは、もっと凍りつくような目をしていたシリウスのほうが良かったわ」
…そうかなぁ…あたしは、今の方がいいと思うけど。
今のシリウスが、本質なのだと思うから。
ブラック家で感情も何もかも凍りつかせたような顔をしているよりも何倍も、今のシリウスのほうが楽しそうだ。
「…アンドロメダもよ」
思わず、スプーンを口に運ぶ手が止まった。
その声にこもっていたものは、何だったのだろう。
憎悪。愛情。悔恨。不安。
幾重にも重なった感情のようなものを集めて、氷で固めれば、今のような響きになるのだろうか。
こくん、と喉がなった。
カツン、とスプーンが皿のふちに当たって小さな音をたてる。
「・・・・・・あたしを呼んだのは、それ、ですか?」
「いけない?」
向けられたのは笑顔だけれど、その瞳の奥に、ちりちりとくすぶる感情が見えたような気がした。
「いけなくは、ないわ」
いけなくはない。
けれど、彼女はなぜあたしをその相手に選んだ?
理解に、苦しむわ。
「アンドロメダ。あの子は…怖いわ」
「なぜ?」
「なぜって…わからないから怖いのよ」
わからないから。
怖い。
その感情は、理解できる。
出来るけれど。
「Nobless Oblige」
「はい?」
「知ってる?」
言葉としては知っている。
「高貴なるものの責任と義務。高貴なるものは、それ相応の義務を果たす責任がある、という意味でしたよね」
「そうよ。ブラック家には、果たさなければならない義務がある。…わたくしから見れば、シリウスも、アンドロメダも…その責任から逃れようとしている卑怯者にしか見えない」
・・・・・・・・・・・・・・な、なんともコメントのしようが…。
「自ら剣を取り、戦いに赴きましょう。その、満たされた生活と引き換えに。ブラック家の歴史は、戦いそのもの」
「・・・・・・・・・マグルとの、ですか?」
「そうよ。中世魔女狩りがすべてではない。もっと過酷で、悲惨な迫害がどれほどあったか…だからこそ、その歴史を知り、その歴史とともに歩いてきたブラック家は、戦いに赴かなければならない。理想のために」
理想?
・・・・・だれの?
「レディ・ベラトリクス」
「なに?」
「あなたは、何を責任ととらえ、何を義務ととらえているの?シリウスは、責任を自覚してる。ブラック家の総領として生まれた自分の責任を。でも、あなたはそれがないと決め付けてる。目をふさいでいたって、何も見えないし、色眼鏡をかければ、すべてがその色でしか見えないわ。あたしには、あなたの言う責任と、シリウスの言う責任は、違うことのような気がする」
人間だから。
価値観は、皆違う。
何が一番正しいかなんて、答えが簡単に見つかるわけがない。
見つかるなら、世界中から争いなんてなくなる。
絶対的な正義も、価値観も、この世には存在しないのに。
「・・・・・・価値観が違うなら、分かり合えないとあなたは思う?」
「いいえ。話し合えば、理解は難しくないと思うわ」
心の底から共感することは出来なくても。
そのために、言葉は存在するのだとあたしは思う。
「…それなら…わたくしも、分かり合えるのかしら」
その、かすれた、力ない声は、とてもベラトリクスのものとは思えないものだった。
「アンドロメダと、分かり合えるのかしら」
不可能ではない。少なくとも。お互いが理解をしようと思ううちは。
「わたくしは…あの子と、何を話していいのかわからない…」
「ベラトリクス?」
「あの子が、わからないの」
あまりにも、いつもの彼女の顔と違いすぎて…あたしは、何一つ言葉を発することすら出来なかった。
あー・・・今日も疲れた…。
これから天文学があるなんて…げっそりよ…
お。なんか、啜り泣きが聞こえる。
一足先に戻ってきてよかった。
ベラトリクスと話し終わって広間を出たときまだいたものね、皆。
「リリー?」
どこかしらねえ…。
あ、発見。
「リリー・・・」
一瞬向けられた、真っ赤な目。
心臓が、止まるかと思った。
部屋のカーテンに隠れるみたいにして、肩を振るわせるリリーに、あたしは、声がかけられなかった。
何もいえない。
だって・・・家族に否定されるつらさなんて、あたしにはわからない。
なんて声をかけていいのか、わからない。
ただ…なにもしないで突っ立ってなんて、いられなかった。
だから…その肩を、そっと抱き寄せて。
背中を撫でてあげることしか、できなかった。
「…ごめんね…迷惑、かけて・・・」
「落ち着いた?」
「・・・うん」
綺麗な緑の目なのに、充血して真っ赤。
目元も赤く腫れて痛々しい。
「ペチュニア、ね・・・」
「うん・・・」
「二度と帰ってくるなって…友達も連れてくるなって…そう、言うの…ホグワーツなんかやめてしまえって…」
あらら。
う~ん…だろうねえ。
「わたしね、ホグワーツに来る前…いろんなことをやった。怒ったら物が壊れたり…喧嘩した友達が大怪我したり…両親にも、妹にも…いっぱい迷惑をかけて…だから、ここにくるって決まったとき…よかったって、思ったの…これで、もう傷つけなくてすむって…そう思ったの…」
「・・・・・・それがわからないペチュニアは大馬鹿よ・・」
あたしなら、どうしただろう。
家族が、もし、自分の子どもが…魔法を使える子だったら。
ハリーみたいに、ガラスを消したり、髪が一晩で伸びたり…そんな子だったら、どう思っただろう。
きっと、怖がった。
愛していても、怖いと思った。
それでも…それでも、あたしはペチュニアに腹が立つ。
リリーを、あたしの大切な友達を泣かせるペチュニアに、腹が立つ。
「・・・・・・化け物って、いうの・・・」
指が真っ白になるぐらい握り締めたその手の中の手紙に、そう書かれていたんだろうか。
だとしたら。
「貸して」
「え?」
「燃やす!」
「だ、だめよ!!」
なんで。
「…どんな手紙でも…ペチュニアがくれたものだから」
「・・・・・・いいわね。妹がいるって」
リリーがそういうのなら。
それでいい。
あなたが、泣かないなら。
そういえば、ブラック家の3姉妹も同じ姉妹なのよね。
だいぶ違うけど…。
「…ねえ」
「なーにー?」
「サク、妹は?」
「あたしは…一人っ子」
「そうなんだ…」
珍しくはない。
あたしたちの時代でも、もう一人っ子っていう家は結構あった。
「…昔みたいに…仲良くできるかな…」
「リリーがリリーであることを犠牲にしないなら」
「…私であることを、犠牲にしない?」
そうよ。
ホグワーツにいるリリーも、ペチュニアの姉であるリリーも、リリーなんだもの。
どちらかを犠牲にしなければなりたたない関係なら…無理に修復しないほうがいい。
それでも。
「新しい二人の関係を作ればいい。…時間は、かかるだろうけど」
それが、一番良い方法で…一番、難しいのかもしれない。
「…結局」
「リリー?」
「どっちからも…異端なのよね」
異端。
「マグルの中では、不気味な魔女。魔法使いの中では…マグル生まれ…」
「そんなこと…」
「私…期待してた。魔法使いの中に入れば、普通なんだって。当たり前のように受け入れてもらえるんだって。…でも…」
涙を隠すように膝に顔を伏せて、リリーは呟くように言った。
「どっちからも、私は、異端なんだね…」
あーもう!なんだって同時に両方の姉妹がこじれるかなあ!!
参った!
許容量いっぱいいっぱいです!!
「サク」
「なに!」
「サク」
「だからなによ!」
ぎろっと睨むと、リーマスとピーターが慌てたように身を引いた。
「…ごめん」
ちょっとやつ当たっちゃったよ…大人げなかった…。
「あのね…シリウスの従姉の…」
・・・・・・・・・は?
「レディ・アンドロメダが来てる。 サクに用事だって」
・・・・・・・・・・はい?
はい!?
まだあるんですか。
今日はまだ終わらないんですか!!
いいかげんにしてくれえ!!!!
「サク?」
「あーもう!はいはい!わかったわよ!」
今日はもう、かけこみ窓口に徹したげるわよ!
まったく…少しは平和に穏やかな日常を送らせてよ!
あたしが何したってのよ!
「レディ・ドロメダ?」
「…ごめんなさい。ベラトリクスが…あなたと話をしていたと聞いて…」
「しましたね」
「…あの、できれば…何を話していたのか、聞かせてもらえるかしら?」
「ええ。いいですよ。差しさわりのない部分であれば」
ほっとした顔で、アンドロメダはお願い、と笑った。
ああ…これで終わってください…神様…お願いします…
「・・・・・そう」
「ええ。分かり合えないかって」
「無理だわ」
…即答。
「ねえ、サクラ。あなたが理解できると思う価値観って、どの程度かしら」
「…そうですね。自分と重なる部分がある、似通っている部分がある、そんなものでしょう」
「では、全く重なり合わない価値観は理解のしようがある?」
それはなんともいえない。
理解できるかもしれない。
できないかもしれない。
色々な見方や考え方がこの世にはあるから、こんな価値観だ、と思っていても根底で違うことがあったり、ほんの少しずれる部分があったりするものだ。
「マグルに恋をしたわたくしの考えは、永久にあの人たちにはわからない」
吐き出すかのように、一気にそういったアンドロメダが、口を押さえる。
「そうかも、しれません」
おそらくは、それだけは…それだけは理解されない。
他の何を理解しても、それだけは。
「わたくしに、純血主義を貫くことと、ノブレス・オブリージュの違いを教えてくれた人なのよ」
「…優しい人ですか?」
「ええ。とても」
幸せそうに微笑んで、それでも、厳しい目をしていた。
「今の世で、ブラック家の義務とはなんなのか、考えたわ。ブラック家に生まれ育ったもの…純血の中の純血、ブラックの血を継ぐものとして…果たさなければならない義務とは、マグルとの和解と融合」
迷うことなく、きっぱりと。
「わたくしは、そう思った」
そういいきって、アンドロメダがあたしを見た。
「闇の帝王は、それとは逆を目指している」
「ヴォルデモートは」
びくり、とその肩を震わせて、アンドロメダは信じられないものを見るような目であたしをみた。
「ヴォルデモートは、マグルを狩ることを推奨していますよね?」
「・・・あなた、あの方の名前を呼んでは…」
「名前を呼んだら現れるわけでなし…呼んだって害はありません」
呼ばないことで妙な問答を避けられるなら喜んであの人と呼びますが。
今みたいな話のときに、呼ぶ気にはなれない。
「…今日、マグルの姉妹の話を聞きました」
「…サクラ?」
「妹は、姉が魔法使いであることを厭い、姉を忌避して」
何を話し出すのかって顔してる。
「姉は、妹たちマグルからも厭われ、魔法使いからもマグル生まれとさげすまれることに…ないていました」
「…それ、は…」
「そして、妹とわかりあいたい、といいました。…似てますよね。ブラック姉妹と」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あたしが感じたのは、どちらの姉妹も、お互いに歩み寄る心が足りないことです」
まだ、年齢が足りないのかもしれない。
人は、環境で変わる。
この狭い学校という世界に閉じ込められている限り、かわらない価値観というものはある。
それが広い世界に出ることで一気に変わることも。
あたしは、高校を卒業して、大学に入って…視点が一変したような気がした。
今まで縛られていた決まりや、ルール。
暗黙の了解。
そんなものの無意味さを、その有益さを見つめることが出来るだけの距離を間に置いて、ようやく見えたものがある。
そして、バイトを始めて…自分の力でお金を稼ぐという場に初めてさらされたとき。
その厳しさに、今までどれほど自分が守られていたのかを理解した。
守られていたから、狭い世界に閉じこもることが出来た、と。
世界を広げ、価値観を広げ、多くのことを取り込まなければ、それでも倒れない強さとしなやかさを持たなければならないのだということも。
エヴァンス姉妹も、ブラック姉妹も、まだまだ、視界が狭い。
この世代の1歳2歳の差は、大きい。
最も、イギリスの18歳と日本の18歳の差も、相当大きいけれどね。
「偽善とか、世迷言とか、本当はそんなこと、どうでもいいことです。形や大義名分に固まりすぎて、本当に願っていることは何なのか、見つめてみてはどうですか?」
本当の願いを。
それだけを。
「あなたはわかってほしくないわけじゃない。本当は…ベラトリクスにわかってほしいと思ってる。違います?」
「・・・その通りよ」
「でも、無駄だとあきらめている」
もう一度、同じ肯定の言葉が返ってくる。
「今のままなら、無駄だと思います。けれど…タイミングを計れば不可能ではない。理解しあうというのと、共感することは違う。そういう考え方もあるのだ、とその存在を認めることはできるはずなんです。そんなことできない、と頭から否定してしまうことが、最大の障害でしょう?」
努力もせずに、一歩踏み出す勇気もなしに、すべてを無理だ、不可能だと否定することは、自らすべてをあきらめること。
それこそ、言い訳にしかならないのだ。
傷つきたくない、無力だと感じたくない。
だから、どうせ無理だから、そんな言い訳を自分にして。
後から、もしかしたらあの時、と後悔をする。
そんなことの積み重ねが人生だといえばそれまでだけれど。
まだまだ、若いのだ。
傷ついても、間違っても、もう一度足を踏み出す時間がある。
やり直しが聞く。
言い訳なんて、後からすればいい。
「お互いに理解したい、されたいという気持ちがあるうちに、きちんと整理して話し合ったほうがいい。あたしは、そう思います」
生意気なことを言うようですけど、と付け加えて。
わかるはずなのだ。
頭のいい人だと思うから。
「ここは、どこかおかしい。お互いを、否定するんです。グリフィンドールだから。スリザリンだから。純血だから、混血だから、マグルだから。…そんなの、関係ないのに」
人間同士の関係を作るのに、そんなもの、関係ないのに。
「あなた・・・テッドと、同じことを言うのね」
「そうですか?」
「…ブラック家のことを何も知らないからそういえるのだわ」
「そうかもしれません。でも、知らないから見えることもあるかもしれません」
そろそろ天文学の時間だった。
「あたしがいえるのは、それだけです。決めるのは、それぞれですから」
ぱん、と座り込んでる間にローブについたほこりを払って。
「それでも、お互いを、大切に想ってるんです」
だから、歩み寄ろうとしたり、相手に要求したりする。
どうでもいい相手なら、それすらもせずに…どうでもいい、と揉め事を避けて表だけ笑顔で付き合うのだから。
うまく受け流し、笑顔を浮かべて、立場が変われば縁を切って。
そんなどうでもいい付き合いをするのだから。
「姉妹というのも、複雑なものですね」
あとを決めるのは、彼女の問題で。
あたしは、関われることではない。
そうして、振り返らずに…あたしは、あたしのやるべきことをするためにその場を立ち去った。
朝のフクロウ便の時間はサバイバルだ。
まるで朝食の上を狙ってるかのように手紙や小包という名の爆弾を投下してくれるからだ。
おそるべし。フクロウ便。
「きゃあっ」
ばしゃ。
「・・・・・・・・・っリリー~~~っっ」
「ごめんなさい、大丈夫?」
「大丈夫だけどねぇ・・・」
どうせスリザリンのタイとローブだし。
はっ!ひょっとしてコレで着替えられる!?
ルシウス・マルフォイが作ったんだもの!きっと綺麗好きよね!!
「あー!もう!すっかりスープにつかっちゃったわ」
本日のスープ。
コーンクリームスープ。
合掌。
キャッチし損ねた手紙をつまんだりリーが杖を一振りするとべっとりくっついてたスープが綺麗さっぱりなくなった。
「魔法って便利!早く家でも自由に使えるようになればいいのに」
うん。こんな風にあっという間に元通りになるっていうのが。
いいよねえ・・・。コップ倒したとか、排水溝に落っことしたとか…
「家からの手紙?これってマグルの手紙なの?」
「ええ。パパとママから・・・・・・まあ!」
手紙を束ねていた紐を解いて2通目をひっくり返して差出人を見たりリーの顔が輝いた。
「ペチュニアからだわ!」
ぺ。
ペチュニア?
ペチュニア~~~!?
そそそそそれって!!
「ペチュニアってだぁれ?リリー」
「私の妹なの。ペチュニア・エヴァンスよ」
やはりあれか!!
ペチュニア・ダーズリー!
幼いハリーの虐待犯!
「ペチュニアが手紙をくれるなんて!」
でも…なんか、すっごく喜んでるし…
…なんか、賢者の石で化け物とか呼んでませんでしたっけ。あの人。
「妹よね?」
「ええ」
「…仲悪いの?」
うわ。いきなり直球。
アリス…それはないよ・・・
「・・・・・・そう、ね」
そう言ったリリーの目が酷く悲しそうだった。
「昔から?」
「アリス!」
「そんなこと、訊くものじゃないわ」
マギーとあたしに睨まれて、あ、と口を押さえたアリスにリリーが明らかに無理してる顔で笑った。
「いいのよ。…小さい頃は、そうでもなかったの…でも…ホグワーツにくることが決まってからは、口もきいてもらえなくて…」
ありゃ。
「クリスマス休暇は?」
あ~もう。アリス…もうちょっと場を読もうよぉ。
「…ぜんぜん」
「そんなの酷いわ…」
「仕方ないわ。うちはマグルなんだもの。…魔法使いがおかしいって見えても当然なのよ…」
いやいや。そんなことはないと思うけどねえ…。
「たしかに、私たち魔法族だってマグルに偏見持ってるものね」
「そう~?うちはマグルと魔法使いだけど仲良しだよ?」
あ。そっか。アリスの家ってマグルと魔法使いの夫婦だっけ。
「そういう家もあれば、そうじゃない家もある。…そうねえ。アリスの家やポッター家みたいのがあれば、ブラック家みたいのもあるってことじゃない?」
わかりやすかったらしく、しきりにうなずいているアリスに笑って、あたしはいそいそと手紙を開くリリーをじっと見守っていた。
とてもうれしそうに一行一行丁寧に読んでる。
やっぱりかわいいのね。あんな妹でも。
と、その顔がみるみるうちにこわばった。
「・・・・・・・・・・・っ」
手紙を握り締めてがたん、と立ち上がったリリーを…あたしは、とっさに追いかけることが出来なかった。
「全く・・・なんで俺と組むときに限ってエヴァンスがいなくなるんだよ・・・」
「仕方ないじゃない。色々事情あるのよ」
男でしょー。
ぶつくさ言わない。
大体…あんなふうにいなくなったのに、授業にだけ平気で顔出せるわけないじゃない。
なんて、いえないけどさ。
「まったく・・・なんでスリザリンと俺がくまなきゃならなかったんだ…」
「相手がいなかったから」
しかもセブちゃんと組むとは…
なんともまぁ…。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・げ」
「…あら?」
教室を出た瞬間に、シリウスが小さく声を漏らした。
それもそのはず。
よく似た黒髪のお姉さまのお一人が。
「お久しぶりね」
「・・・・・・・ベラトリクス」
シリウスの声が瞬間、硬質な響きをもった。
「何用だ」
「シリウス、ご機嫌いかが?」
「何用か尋ねているが?」
「あいにくと、あなたに用事ではありませんの。あなたの友人をお借りできて?」
…ルシウスやブラック家にいたときとは違う緊張感が漂ってる気がする。
なんだろう…
何が違うのかしら…
「・・・・・・これか」
ちろり、と向けられた目が気に入らん。
がす。
「~~~~~~~~~っっ」
声もなく蹴られた脛をそれでもベラトリクスの手前、顔に出すことなく奥歯を食いしばって痛みに耐えるシリウスの横をすり抜けて、あたしはにっこりと笑った。
「あたしに、御用ですか?」
嫣然と笑って、ベラトリクスはきょとんとした顔になった。
「あら。朝はスリザリンカラーだったのに」
「今朝汚れたので着替えました!」
そりゃあもううきうきと。
大人しく外れてくれたネクタイとローブは洗濯に出したついでにしもべ妖精に言い含めてスリザリン生につけ届けてもらうことにした。
もう二度と!首は絞めさせなくてよ!!
「元気かしら?」
「ええ。レディ・ベラトリクス」
ついこないだお茶会に引っ張られたとき以外は。
「ルシウスとの仲は進展して?」
「何を進展させるんですか」
何一つ進展させたくありません。
「あら。ルシウスはあなたがお気に入りなのに。フラレたのかしら」
「フッたぐらいでいなくなってくれるなら喜んで」
いや、別に嫌いなわけじゃないんだけど。
なんというのかしら…敵?
ライバル?
顔を見ると対決したくなるというか…かまいたくなるというか。
会話のテンポが楽しいのよね。中身不吉だけど。
ただし。
セクハラだけはやめやがれ。
「サクラ」
「はい?」
「お昼を一緒にどうかしら?」
はあ・・・まあ・・・・・・
「喜んで」
といっても・・・大広間での昼食だけど・・・ね?
「シリウスと、仲が良いのね」
「そうですか?」
まあ、悪くはないと思うけど。
「ええ。…あの方があんな顔をしているのを初めて見たわ」
ぶは。
あ、あの方!?
「あんな顔を、出来る人だとは思わなかった」
「…あたしは、最初からあの顔しか見てないですから」
きっと、あたしたちといるときの笑顔だったり。
優しい目の色だったり。
悪戯っぽい、子どものような笑い方だったりするのだろう。
あのブラック家の屋敷で、どれも見ることのなかった顔。
「そう…グリフィンドールに入るというのは…そういうことなのかしらね」
ぼんやりとティーカップを満たす紅色の液体を眺める彼女の前に、食事らしい食事はない。
あたしは遠慮なくいただいてますが。
ご飯を抜くのはよくないよー?
まだまだ成長する時期なんだからさぁ。
「わたくしの知っているシリウス・ブラックは、ブラック家の跡取りにふさわしい人だった」
「今の彼は、ふさわしくないですか?」
「…ええ。あのような隙も、人を信用する態度も、ブラック家の当主にはふさわしくないわ」
「・・・・・・信用は、してないと思いますけど」
いつだって警戒心ばりばりで。
人懐こい顔を見せるときもあるけれど、彼は決して人懐こいわけではない。
むしろ、とんでもなく警戒心も猜疑心も強い。
だが、その壁を乗り越えれば…一度懐に入れれば、警戒することをしない。
その壁がとんでもなく高いだけ。
今のところその壁を越えているのは…
「ジェームズぐらいでしょう」
他はあくまでその他、だったり付属物だったりするような気がする。
ああ、あとはちょっと違う位置にいるのがリーマスかしら。
信用というよりは…側にいることを許しているというか…見せる変化にいちいち警戒はしてるみたいだけど、基本的には側にいても抵抗ないみたいね。
…あら?あたしも警戒ってされてないかも。
意外と簡単にさわらせてくれたりかまわせてくれてるわよね。
「そう…わたくしは、もっと凍りつくような目をしていたシリウスのほうが良かったわ」
…そうかなぁ…あたしは、今の方がいいと思うけど。
今のシリウスが、本質なのだと思うから。
ブラック家で感情も何もかも凍りつかせたような顔をしているよりも何倍も、今のシリウスのほうが楽しそうだ。
「…アンドロメダもよ」
思わず、スプーンを口に運ぶ手が止まった。
その声にこもっていたものは、何だったのだろう。
憎悪。愛情。悔恨。不安。
幾重にも重なった感情のようなものを集めて、氷で固めれば、今のような響きになるのだろうか。
こくん、と喉がなった。
カツン、とスプーンが皿のふちに当たって小さな音をたてる。
「・・・・・・あたしを呼んだのは、それ、ですか?」
「いけない?」
向けられたのは笑顔だけれど、その瞳の奥に、ちりちりとくすぶる感情が見えたような気がした。
「いけなくは、ないわ」
いけなくはない。
けれど、彼女はなぜあたしをその相手に選んだ?
理解に、苦しむわ。
「アンドロメダ。あの子は…怖いわ」
「なぜ?」
「なぜって…わからないから怖いのよ」
わからないから。
怖い。
その感情は、理解できる。
出来るけれど。
「Nobless Oblige」
「はい?」
「知ってる?」
言葉としては知っている。
「高貴なるものの責任と義務。高貴なるものは、それ相応の義務を果たす責任がある、という意味でしたよね」
「そうよ。ブラック家には、果たさなければならない義務がある。…わたくしから見れば、シリウスも、アンドロメダも…その責任から逃れようとしている卑怯者にしか見えない」
・・・・・・・・・・・・・・な、なんともコメントのしようが…。
「自ら剣を取り、戦いに赴きましょう。その、満たされた生活と引き換えに。ブラック家の歴史は、戦いそのもの」
「・・・・・・・・・マグルとの、ですか?」
「そうよ。中世魔女狩りがすべてではない。もっと過酷で、悲惨な迫害がどれほどあったか…だからこそ、その歴史を知り、その歴史とともに歩いてきたブラック家は、戦いに赴かなければならない。理想のために」
理想?
・・・・・だれの?
「レディ・ベラトリクス」
「なに?」
「あなたは、何を責任ととらえ、何を義務ととらえているの?シリウスは、責任を自覚してる。ブラック家の総領として生まれた自分の責任を。でも、あなたはそれがないと決め付けてる。目をふさいでいたって、何も見えないし、色眼鏡をかければ、すべてがその色でしか見えないわ。あたしには、あなたの言う責任と、シリウスの言う責任は、違うことのような気がする」
人間だから。
価値観は、皆違う。
何が一番正しいかなんて、答えが簡単に見つかるわけがない。
見つかるなら、世界中から争いなんてなくなる。
絶対的な正義も、価値観も、この世には存在しないのに。
「・・・・・・価値観が違うなら、分かり合えないとあなたは思う?」
「いいえ。話し合えば、理解は難しくないと思うわ」
心の底から共感することは出来なくても。
そのために、言葉は存在するのだとあたしは思う。
「…それなら…わたくしも、分かり合えるのかしら」
その、かすれた、力ない声は、とてもベラトリクスのものとは思えないものだった。
「アンドロメダと、分かり合えるのかしら」
不可能ではない。少なくとも。お互いが理解をしようと思ううちは。
「わたくしは…あの子と、何を話していいのかわからない…」
「ベラトリクス?」
「あの子が、わからないの」
あまりにも、いつもの彼女の顔と違いすぎて…あたしは、何一つ言葉を発することすら出来なかった。
あー・・・今日も疲れた…。
これから天文学があるなんて…げっそりよ…
お。なんか、啜り泣きが聞こえる。
一足先に戻ってきてよかった。
ベラトリクスと話し終わって広間を出たときまだいたものね、皆。
「リリー?」
どこかしらねえ…。
あ、発見。
「リリー・・・」
一瞬向けられた、真っ赤な目。
心臓が、止まるかと思った。
部屋のカーテンに隠れるみたいにして、肩を振るわせるリリーに、あたしは、声がかけられなかった。
何もいえない。
だって・・・家族に否定されるつらさなんて、あたしにはわからない。
なんて声をかけていいのか、わからない。
ただ…なにもしないで突っ立ってなんて、いられなかった。
だから…その肩を、そっと抱き寄せて。
背中を撫でてあげることしか、できなかった。
「…ごめんね…迷惑、かけて・・・」
「落ち着いた?」
「・・・うん」
綺麗な緑の目なのに、充血して真っ赤。
目元も赤く腫れて痛々しい。
「ペチュニア、ね・・・」
「うん・・・」
「二度と帰ってくるなって…友達も連れてくるなって…そう、言うの…ホグワーツなんかやめてしまえって…」
あらら。
う~ん…だろうねえ。
「わたしね、ホグワーツに来る前…いろんなことをやった。怒ったら物が壊れたり…喧嘩した友達が大怪我したり…両親にも、妹にも…いっぱい迷惑をかけて…だから、ここにくるって決まったとき…よかったって、思ったの…これで、もう傷つけなくてすむって…そう思ったの…」
「・・・・・・それがわからないペチュニアは大馬鹿よ・・」
あたしなら、どうしただろう。
家族が、もし、自分の子どもが…魔法を使える子だったら。
ハリーみたいに、ガラスを消したり、髪が一晩で伸びたり…そんな子だったら、どう思っただろう。
きっと、怖がった。
愛していても、怖いと思った。
それでも…それでも、あたしはペチュニアに腹が立つ。
リリーを、あたしの大切な友達を泣かせるペチュニアに、腹が立つ。
「・・・・・・化け物って、いうの・・・」
指が真っ白になるぐらい握り締めたその手の中の手紙に、そう書かれていたんだろうか。
だとしたら。
「貸して」
「え?」
「燃やす!」
「だ、だめよ!!」
なんで。
「…どんな手紙でも…ペチュニアがくれたものだから」
「・・・・・・いいわね。妹がいるって」
リリーがそういうのなら。
それでいい。
あなたが、泣かないなら。
そういえば、ブラック家の3姉妹も同じ姉妹なのよね。
だいぶ違うけど…。
「…ねえ」
「なーにー?」
「サク、妹は?」
「あたしは…一人っ子」
「そうなんだ…」
珍しくはない。
あたしたちの時代でも、もう一人っ子っていう家は結構あった。
「…昔みたいに…仲良くできるかな…」
「リリーがリリーであることを犠牲にしないなら」
「…私であることを、犠牲にしない?」
そうよ。
ホグワーツにいるリリーも、ペチュニアの姉であるリリーも、リリーなんだもの。
どちらかを犠牲にしなければなりたたない関係なら…無理に修復しないほうがいい。
それでも。
「新しい二人の関係を作ればいい。…時間は、かかるだろうけど」
それが、一番良い方法で…一番、難しいのかもしれない。
「…結局」
「リリー?」
「どっちからも…異端なのよね」
異端。
「マグルの中では、不気味な魔女。魔法使いの中では…マグル生まれ…」
「そんなこと…」
「私…期待してた。魔法使いの中に入れば、普通なんだって。当たり前のように受け入れてもらえるんだって。…でも…」
涙を隠すように膝に顔を伏せて、リリーは呟くように言った。
「どっちからも、私は、異端なんだね…」
あーもう!なんだって同時に両方の姉妹がこじれるかなあ!!
参った!
許容量いっぱいいっぱいです!!
「サク」
「なに!」
「サク」
「だからなによ!」
ぎろっと睨むと、リーマスとピーターが慌てたように身を引いた。
「…ごめん」
ちょっとやつ当たっちゃったよ…大人げなかった…。
「あのね…シリウスの従姉の…」
・・・・・・・・・は?
「レディ・アンドロメダが来てる。 サクに用事だって」
・・・・・・・・・・はい?
はい!?
まだあるんですか。
今日はまだ終わらないんですか!!
いいかげんにしてくれえ!!!!
「サク?」
「あーもう!はいはい!わかったわよ!」
今日はもう、かけこみ窓口に徹したげるわよ!
まったく…少しは平和に穏やかな日常を送らせてよ!
あたしが何したってのよ!
「レディ・ドロメダ?」
「…ごめんなさい。ベラトリクスが…あなたと話をしていたと聞いて…」
「しましたね」
「…あの、できれば…何を話していたのか、聞かせてもらえるかしら?」
「ええ。いいですよ。差しさわりのない部分であれば」
ほっとした顔で、アンドロメダはお願い、と笑った。
ああ…これで終わってください…神様…お願いします…
「・・・・・そう」
「ええ。分かり合えないかって」
「無理だわ」
…即答。
「ねえ、サクラ。あなたが理解できると思う価値観って、どの程度かしら」
「…そうですね。自分と重なる部分がある、似通っている部分がある、そんなものでしょう」
「では、全く重なり合わない価値観は理解のしようがある?」
それはなんともいえない。
理解できるかもしれない。
できないかもしれない。
色々な見方や考え方がこの世にはあるから、こんな価値観だ、と思っていても根底で違うことがあったり、ほんの少しずれる部分があったりするものだ。
「マグルに恋をしたわたくしの考えは、永久にあの人たちにはわからない」
吐き出すかのように、一気にそういったアンドロメダが、口を押さえる。
「そうかも、しれません」
おそらくは、それだけは…それだけは理解されない。
他の何を理解しても、それだけは。
「わたくしに、純血主義を貫くことと、ノブレス・オブリージュの違いを教えてくれた人なのよ」
「…優しい人ですか?」
「ええ。とても」
幸せそうに微笑んで、それでも、厳しい目をしていた。
「今の世で、ブラック家の義務とはなんなのか、考えたわ。ブラック家に生まれ育ったもの…純血の中の純血、ブラックの血を継ぐものとして…果たさなければならない義務とは、マグルとの和解と融合」
迷うことなく、きっぱりと。
「わたくしは、そう思った」
そういいきって、アンドロメダがあたしを見た。
「闇の帝王は、それとは逆を目指している」
「ヴォルデモートは」
びくり、とその肩を震わせて、アンドロメダは信じられないものを見るような目であたしをみた。
「ヴォルデモートは、マグルを狩ることを推奨していますよね?」
「・・・あなた、あの方の名前を呼んでは…」
「名前を呼んだら現れるわけでなし…呼んだって害はありません」
呼ばないことで妙な問答を避けられるなら喜んであの人と呼びますが。
今みたいな話のときに、呼ぶ気にはなれない。
「…今日、マグルの姉妹の話を聞きました」
「…サクラ?」
「妹は、姉が魔法使いであることを厭い、姉を忌避して」
何を話し出すのかって顔してる。
「姉は、妹たちマグルからも厭われ、魔法使いからもマグル生まれとさげすまれることに…ないていました」
「…それ、は…」
「そして、妹とわかりあいたい、といいました。…似てますよね。ブラック姉妹と」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あたしが感じたのは、どちらの姉妹も、お互いに歩み寄る心が足りないことです」
まだ、年齢が足りないのかもしれない。
人は、環境で変わる。
この狭い学校という世界に閉じ込められている限り、かわらない価値観というものはある。
それが広い世界に出ることで一気に変わることも。
あたしは、高校を卒業して、大学に入って…視点が一変したような気がした。
今まで縛られていた決まりや、ルール。
暗黙の了解。
そんなものの無意味さを、その有益さを見つめることが出来るだけの距離を間に置いて、ようやく見えたものがある。
そして、バイトを始めて…自分の力でお金を稼ぐという場に初めてさらされたとき。
その厳しさに、今までどれほど自分が守られていたのかを理解した。
守られていたから、狭い世界に閉じこもることが出来た、と。
世界を広げ、価値観を広げ、多くのことを取り込まなければ、それでも倒れない強さとしなやかさを持たなければならないのだということも。
エヴァンス姉妹も、ブラック姉妹も、まだまだ、視界が狭い。
この世代の1歳2歳の差は、大きい。
最も、イギリスの18歳と日本の18歳の差も、相当大きいけれどね。
「偽善とか、世迷言とか、本当はそんなこと、どうでもいいことです。形や大義名分に固まりすぎて、本当に願っていることは何なのか、見つめてみてはどうですか?」
本当の願いを。
それだけを。
「あなたはわかってほしくないわけじゃない。本当は…ベラトリクスにわかってほしいと思ってる。違います?」
「・・・その通りよ」
「でも、無駄だとあきらめている」
もう一度、同じ肯定の言葉が返ってくる。
「今のままなら、無駄だと思います。けれど…タイミングを計れば不可能ではない。理解しあうというのと、共感することは違う。そういう考え方もあるのだ、とその存在を認めることはできるはずなんです。そんなことできない、と頭から否定してしまうことが、最大の障害でしょう?」
努力もせずに、一歩踏み出す勇気もなしに、すべてを無理だ、不可能だと否定することは、自らすべてをあきらめること。
それこそ、言い訳にしかならないのだ。
傷つきたくない、無力だと感じたくない。
だから、どうせ無理だから、そんな言い訳を自分にして。
後から、もしかしたらあの時、と後悔をする。
そんなことの積み重ねが人生だといえばそれまでだけれど。
まだまだ、若いのだ。
傷ついても、間違っても、もう一度足を踏み出す時間がある。
やり直しが聞く。
言い訳なんて、後からすればいい。
「お互いに理解したい、されたいという気持ちがあるうちに、きちんと整理して話し合ったほうがいい。あたしは、そう思います」
生意気なことを言うようですけど、と付け加えて。
わかるはずなのだ。
頭のいい人だと思うから。
「ここは、どこかおかしい。お互いを、否定するんです。グリフィンドールだから。スリザリンだから。純血だから、混血だから、マグルだから。…そんなの、関係ないのに」
人間同士の関係を作るのに、そんなもの、関係ないのに。
「あなた・・・テッドと、同じことを言うのね」
「そうですか?」
「…ブラック家のことを何も知らないからそういえるのだわ」
「そうかもしれません。でも、知らないから見えることもあるかもしれません」
そろそろ天文学の時間だった。
「あたしがいえるのは、それだけです。決めるのは、それぞれですから」
ぱん、と座り込んでる間にローブについたほこりを払って。
「それでも、お互いを、大切に想ってるんです」
だから、歩み寄ろうとしたり、相手に要求したりする。
どうでもいい相手なら、それすらもせずに…どうでもいい、と揉め事を避けて表だけ笑顔で付き合うのだから。
うまく受け流し、笑顔を浮かべて、立場が変われば縁を切って。
そんなどうでもいい付き合いをするのだから。
「姉妹というのも、複雑なものですね」
あとを決めるのは、彼女の問題で。
あたしは、関われることではない。
そうして、振り返らずに…あたしは、あたしのやるべきことをするためにその場を立ち去った。