5年生(親世代) 製作中
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走り去る背中を見送った俺に、ため息と共にジェームズが近づいてきた。
「見事だったねぇ・・・。避けなかったんだな」
「・・・避けられねえって」
きっと見事な手形のついているであろう頬にジェームズが触れる。
「そうだね、サクは誰よりも君を殴る権利がある」
否定も肯定もしないで、シリウスは頭を振った。
「・・・俺、泣かしてばっかりだな」
泣かせて気分がいいわけがない。
まして、あいつの泣き方は嫌いなのだ。
「そうだねえ・・・こんなに泣かせるとは思わなかったし、泣くとも思わなかったなあ・・・」
「え?」
「だって、彼女強いだろ?いろんな意味で。なのに・・・ねえ?」
「・・・・・・人間、いつだって誰でも強くはいられねえだろ」
そう。誰だっていつも強くはいられない。
あいつだって、例外じゃない。
なのに。俺は、ずっとずっと、傷つけ続けていた。
あいつが、あんな形で爆発するまで、傷つけてきた。
「サクはさ、てっきり折れない強さだと思ってたんだ。いつだってしなやかにどんなに辛くても立ち上がってくるって。だけど、そうじゃなかったのかもなあ・・・」
「どんなにしなやかな強さだって、いきすぎりゃぽきっといくさ」
「じゃあ、どれだけ負担かけたんだい?」
ぐさっと、またなにかが突き刺さったような気がして、胸を押さえる。
だけど、こんなもの、あいつの笑顔を思い出せば、耐えられないわけがない。
あんな呪いを抱えて、あんな目に会わされてなお、笑っていた、あいつ。
あの笑顔を思い出すだけで、誰かの責める言葉や、ジェームズたちのお説教よりも、胸が痛くなる。
「今のは、気にしなくていいって、言いに来てくれただけだろ?」
「・・・無理言うなよ。あいつがああなったのも・・・あんなことをしたのも、俺のせいだ」
「だからそうじゃないって言いたかったんだ・・・」
「なんと言おうとそうだろうが。俺に関わったから、俺に近づいたから、ああなったんだから」
「・・・サクなら、それも自分の選んだことだって言いそうだけどな」
「・・・俺が甘かったんだよ」
あんなことをすると思っていなかった。
母が、あんなことまでするとは思っていなかった。
「・・・甘く、見すぎだ」
メドゥーサの呪いは生易しい術ではない。
完治したことがないという事実をあいつはどう捉えているんだ。
死んでもおかしくないっていうのに、なんだってのこのこ学校に来ている。
「スラグホーンが言っていたそうだ」
「スラグホーン?」
「彼女の精神力は敬服する。いくら薬で抑えているとは言っても、よくあの呪いを押さえ込んでいるものだ、とね」
「薬・・・?」
「メドゥーサの呪いに、そんな特効薬があったのかい?」
僕は知らない、と続けたジェームズの目が、語っていた。
それは、どんな劇薬だ、と。
「・・・・・・あいつは、手に入りにくい材料だとか言っていなかったか?」
「らしいね」
「くそっトリカブトか!」
「は?」
「トリカブトを使った劇薬だ。数年前に開発され、解く方法を探している間に中毒を起こして死亡したってやつだ」
「は!?サク、それ知ってるの?」
「知ってるに決まってんだろうが!」
あれはそれ以来、告知を必須とする薬だ。知らなきゃ処方されない。
ましてスラグホーンなんておしゃべりがしゃべらないわけがない。
「あのババア・・・!」
「今回ばっかりは君に同意するよ。・・・母上に、聞いてみる。なにか解決策がないか」
「あったらダンブルドアがとうの昔に出している。第一、俺が知らないわけがない」
「・・・そうだったね。君、ブラック家のおぼっちゃまだった」
その言葉に、胸に覚えた痛みをあえて無視する。
あの言葉を言わせたのも、俺だった。
「ねえ、シリウスさま?お話、終わった?」
「・・・いや」
とたん、ジェームズが嫌そうな顔になった。
「僕も、人のことは言えないからとやかく言う気はなかったけどね、シリウス。ちょっと、考えたほうがいいんじゃない?」
「・・・そう言うな」
婚約者がいない今、そろそろ妻を選ばなければならないのだ。
できるだけ、ブラック家に有利になり、誰もがうなずく妻を。
妻がこちらを理解してくれる必要などない。
賢ければいい。そして適度におろかであればいい。
妻の役割は、息子を産むこと。そして、育てること。
教育は自分がする。
息子を与えてくれ、名を貶めることのない行動ができ、愛されていないなど騒ぎ立てることもなく、自分の役割はブラック家の妻としてあることと、息子を産むことだと納得してくれる女がいい。
そのためには、一人でも多く深く付き合っておくことが大事だ。
レギュラスはあいつを妻に、なんていうけれど、そんな苦労をさせる必要なんてない。
あいつを、ブラック家に押し込めていいことなんて何もない。
むしろ、窒息させてしまうだろう。あの家の中で。
あいつは、あのままで、笑顔のままでいればいい。
太陽の下で笑っているのが、ふさわしい。
あの闇の家に取り込んではいけないのだ。
「本当に、とんでもないひとね」
「シリウスさまにあて付けるみたいに自殺なんてして・・・」
「どうせ誰かが助けてくれるって思ってたんじゃないの?」
そんな悪口が聞こえてくる。
誰のことかなんて、容易にわかった。
胸に、何かがこみ上げてくる。
何か言おうとしたジェームズを制して、にらみつける。
「やめろ」
不愉快だ。そう切り捨てたのに。
わかってますわよ、といわんばかりの顔で微笑む女達の顔は醜悪だった。
「シリウスさまがそうおっしゃるなら」
この女たちを、ここまで増長させたのも、道を誤らせたのも、自分だ。
自分の大切なものをあそこまで傷つけられるまで、何一つ気づかなかった。
だからもう、二度と、彼女を近づけない。
このまま自分のそばにいさせたら、あいつは、だめになる。
「いい加減にしろよ!」
立ち上がったのは、ひとりの男子生徒。
顔を真っ赤にして、机を殴りつけた。
「お前ら、最低だな。なんでそんな悪意に満ちた考え方しかできないんだ?」
ふん、といわんばかりの女たちをにらみつけたその視線がこちらにも向けられる。
「ブラック、お前もだ。サクラ・キリュウのなにを見ていたんだ?そんなことを言われても仕方ないような女なのか?お前の女たちぐらい抑えろよ」
ふん、と笑う。
これが、今俺がしなければならない役割だ。
あいつに向いた非難は、全て引き受ける。
俺が最低なやつだから、あいつが振り回されて傷つけられたのだと、みんなが思えばいい。
実際、そうなんだから。
「・・・お前に関係ないだろう」
そういうと、後ろに集まってきていた女たちがさざめいた。
「いやあねえ、シリウスさま」
「そうよ。シリウスさまがもういいっておっしゃってるんだから、いいのにねえ?」
「あんな女、どうでもいいじゃないの」
「こんなところにまで取り入って・・・これだから没落した家の人は・・・」
この女たちだけは妻に迎えるまい、と胸に刻み、笑う。
「余計な口出しはやめてもらおうか」
冷笑を浮かべてそういえば、相手の顔がこわばった。
「お前に、キリュウにかばってもらう資格も、大事にされる資格もない」
はき捨てるように言い捨てて去っていった
ぽつり、と呟いた言葉は誰にも聞かれることなく、消えた。
「言われなくても・・・わかってるさ」