親世代 番外ss
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もう結びなれたネクタイを結び、ジャケットに腕を通す。
上質な生地はしゅるりと音をたてて腕を迎え入れた。
今日はくだらないマグルの政治家とやらとのオペラ鑑賞だそうだ。
その娘だか姪だかのエスコートをしなさいとの命令が来ていた。
ばかばかしい。だが、無視するわけにはいかない。
ブラック家の総領息子としての勤めとあらば。
「シリウス、出かけるのかい?」
厄介なのにつかまった。
最近、ジェームズは心配性にすぎる。
今日は特に、根掘り葉掘り聞かれたい気分ではなかった。
「ああ」
「また?」
黙っていれば、深いため息が聞こえた。
「今日はどこまで?」
「オペラ鑑賞だそうだ」
「ロンドンか」
ひょい、と肩をすくめて、白手袋を手に取る。
どうせまた寝るんだろうなと思いながらジェームズを振り返りもせずに歩き出した。
「シリウス」
「ん?」
「気をつけて」
「ああ」
「女の子ひっかけてくんなよ」
その台詞に、初めてジェームズを見た。
「相手はマグルだ。何をしろって?」
はあ、とため息をついて、肩をすくめたジェームズがぽん、と肩をたたいてきた。
「早く帰って来いよ。明日の悪戯は大掛かりなんだから」
「了解」
にやりと笑って、ひらひらと後ろに手を振りながら寮を後にした。
「はじめまして」
礼儀として取った手の甲に口付けを落とす。
それだけで頬を染めた少女は有頂天になったようだった。
舞台などそっちのけでシリウスばかり見ている。
ボックス席の反対側ではゆったりと椅子に腰掛けた母上と首相とやらが扇の向こうでひそやかに歓談していて、父上は首相夫人に微笑みかけている。
なにもかもが馬鹿馬鹿しかった。
だが、あの父上がまともに相手をしている間は相手をしなければならない。
それがシリウスの役割だった。
案の定、1幕も終わらないうちから眠気が襲ってきた。
舞台の上では下働きの少年を殺したとの疑いをかけられている粗野な男が新たな下働きとして雇った少年を自分の小屋へと追い立てていく。
筋などどうでもいい。
それなりに感銘は受けるが、興味はなかった。
なんとか耐えてたどり着いた幕間。
「お疲れですのね。シリウスさま」
「いえ、大変失礼いたしました。せっかくの好演だというのに、キャストにも失礼ですね」
「とんでもありませんわ。ご無理をされてはいけません」
ああ、そうですか。ありがたいことで。
「シリウスさまは学生でいらっしゃいますの?」
「ええ。寄宿舎生活です」
「まあ。パブリックスクールに・・・。イートンかしら、それとも?」
「ご想像にお任せします。イギリス国内であることは確かですよ」
「シリウスさまでしたらきっとどちらのパブリックスクールでも優秀な学生でいらっしゃるのでしょうね」
「さあ、それはどうでしょう」
にっこり笑えばそれ以上質問もしてこない。
もっとも、これ以上聞かれれば、耳元に顔を寄せて『秘密は秘密のままに』とささやいてやるか、すこし冷たくしてやればそれですむ。
案の定、機嫌を良くした少女を再びエスコートして席に戻る。
海から流れ着いた切れ端を手に「これは私が下働きの少年に作ってあげたセーター」と嘆く女のアリアにほろほろと涙を流す少女にチーフを差し出しながら、ふと思った。
あいつなら。
どんな反応をするんだろうか。
このオペラを、どんな風に見るのだろう。
この少女のようにシリウスを見ていることはないだろう。
だが。
こんな風に、泣くだろうか。
そう思った瞬間、心臓がはねた。
あいつの、泣き顔。
めったに見せない、泣き顔。
声を殺して泣くあいつの、声。
顔をしかめて、振り払う。
もう、関係ない。
断ち切ったのだ。シリウス自ら。
もう二度と、あんなふうに涙を見せることはないのだろうから。
夜の海に船を漕ぎ出せ、と告げる老船長の声を聞きながら、目を閉じる。
後、すこしで終わる。
ふと、思った。
あいつなら、怒りそうだな。
人の生き死にを勝手に決めないでよ!なにこの話!とか何とか言って。
むっとしている顔を思い出した。
なぜ、こんなにも輝かしく思い出せるのだろう。
あの時は、あの決定的な瞬間の前は、全てがいらだたしく思えたというのに。
勝手なものだ。
あそこまで傷つけて、全て見捨てられてから、彼女のことを思い出すなんて。
二度と手に戻らない面影を抱きながら、満場の拍手を遠く聞いていた。
上質な生地はしゅるりと音をたてて腕を迎え入れた。
今日はくだらないマグルの政治家とやらとのオペラ鑑賞だそうだ。
その娘だか姪だかのエスコートをしなさいとの命令が来ていた。
ばかばかしい。だが、無視するわけにはいかない。
ブラック家の総領息子としての勤めとあらば。
「シリウス、出かけるのかい?」
厄介なのにつかまった。
最近、ジェームズは心配性にすぎる。
今日は特に、根掘り葉掘り聞かれたい気分ではなかった。
「ああ」
「また?」
黙っていれば、深いため息が聞こえた。
「今日はどこまで?」
「オペラ鑑賞だそうだ」
「ロンドンか」
ひょい、と肩をすくめて、白手袋を手に取る。
どうせまた寝るんだろうなと思いながらジェームズを振り返りもせずに歩き出した。
「シリウス」
「ん?」
「気をつけて」
「ああ」
「女の子ひっかけてくんなよ」
その台詞に、初めてジェームズを見た。
「相手はマグルだ。何をしろって?」
はあ、とため息をついて、肩をすくめたジェームズがぽん、と肩をたたいてきた。
「早く帰って来いよ。明日の悪戯は大掛かりなんだから」
「了解」
にやりと笑って、ひらひらと後ろに手を振りながら寮を後にした。
「はじめまして」
礼儀として取った手の甲に口付けを落とす。
それだけで頬を染めた少女は有頂天になったようだった。
舞台などそっちのけでシリウスばかり見ている。
ボックス席の反対側ではゆったりと椅子に腰掛けた母上と首相とやらが扇の向こうでひそやかに歓談していて、父上は首相夫人に微笑みかけている。
なにもかもが馬鹿馬鹿しかった。
だが、あの父上がまともに相手をしている間は相手をしなければならない。
それがシリウスの役割だった。
案の定、1幕も終わらないうちから眠気が襲ってきた。
舞台の上では下働きの少年を殺したとの疑いをかけられている粗野な男が新たな下働きとして雇った少年を自分の小屋へと追い立てていく。
筋などどうでもいい。
それなりに感銘は受けるが、興味はなかった。
なんとか耐えてたどり着いた幕間。
「お疲れですのね。シリウスさま」
「いえ、大変失礼いたしました。せっかくの好演だというのに、キャストにも失礼ですね」
「とんでもありませんわ。ご無理をされてはいけません」
ああ、そうですか。ありがたいことで。
「シリウスさまは学生でいらっしゃいますの?」
「ええ。寄宿舎生活です」
「まあ。パブリックスクールに・・・。イートンかしら、それとも?」
「ご想像にお任せします。イギリス国内であることは確かですよ」
「シリウスさまでしたらきっとどちらのパブリックスクールでも優秀な学生でいらっしゃるのでしょうね」
「さあ、それはどうでしょう」
にっこり笑えばそれ以上質問もしてこない。
もっとも、これ以上聞かれれば、耳元に顔を寄せて『秘密は秘密のままに』とささやいてやるか、すこし冷たくしてやればそれですむ。
案の定、機嫌を良くした少女を再びエスコートして席に戻る。
海から流れ着いた切れ端を手に「これは私が下働きの少年に作ってあげたセーター」と嘆く女のアリアにほろほろと涙を流す少女にチーフを差し出しながら、ふと思った。
あいつなら。
どんな反応をするんだろうか。
このオペラを、どんな風に見るのだろう。
この少女のようにシリウスを見ていることはないだろう。
だが。
こんな風に、泣くだろうか。
そう思った瞬間、心臓がはねた。
あいつの、泣き顔。
めったに見せない、泣き顔。
声を殺して泣くあいつの、声。
顔をしかめて、振り払う。
もう、関係ない。
断ち切ったのだ。シリウス自ら。
もう二度と、あんなふうに涙を見せることはないのだろうから。
夜の海に船を漕ぎ出せ、と告げる老船長の声を聞きながら、目を閉じる。
後、すこしで終わる。
ふと、思った。
あいつなら、怒りそうだな。
人の生き死にを勝手に決めないでよ!なにこの話!とか何とか言って。
むっとしている顔を思い出した。
なぜ、こんなにも輝かしく思い出せるのだろう。
あの時は、あの決定的な瞬間の前は、全てがいらだたしく思えたというのに。
勝手なものだ。
あそこまで傷つけて、全て見捨てられてから、彼女のことを思い出すなんて。
二度と手に戻らない面影を抱きながら、満場の拍手を遠く聞いていた。
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