親世代 番外ss
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困惑。
それが、彼女を迎えた職員全員の正直な気持ちだった。
死んだはずだった。
いや、死んでいてくれなければ、あの名家を地に落とした我らの罪は。
妻を殺し、嫡男を死に至らしめ、同じく名家の親友をその妻ともども・・・あの闇の帝王にささげた、裏切り者。
それを排出した、かつての・・・王族ともいえる、あの家を。
その名を地に落とし、かつて、あんなにも栄華を誇ったあの家を没落させたのだから。
シリウス・ブラックの罪は、あの帝王に仕えたというだけならば簡単に逃れられてしまうものだった。
12人のマグルを殺した罪とて、ブラック家の力を持ってすれば逃れられてしまうものだった。
なにしろ、被害者のピーター・ペディグリューは死んでいる。
いくらでも言い訳できる。
彼の力と、ブラック家に連綿と伝えられてきた数々の術をもってすれば、目撃者の記憶をあの場ですりかえることも、それを聴取した係官たちに黒を白と言い含めることも、たやすい。
勘違いしたピーターに追われ、マグルに魔法使いであることがバレた。
その彼らが魔法使いである自分を迫害しようとした。
そう言い逃れされてしまえばそれ以上追求も出来ない。
それこそが、ブラック家の持つ力。
いかに縁を切られていようとも、あの家がレギュラスの死で跡取りを欠いているのは事実で。
最後の跡取りとなれる純血の若者が、それも2歳になる同じく純血の息子を得ていれば、いずれは現当主夫人が何を言おうと他の親族たちが彼を祭り上げるはずだった。
だから、ブラック家は守ろうと思えば守れたはずだった。
自分達の名も、名誉も。
だが、それをさせなかったのは、シリウス・ブラック本人だった。
それでも、最初は黙秘を貫いた。
問い詰めても笑うばかり。
あの冷笑に聖マンゴに通う羽目になった同僚もいたほどに。
それを突き崩したのは、あの妻と息子の、知らせ。
あれほどに冷然としていた彼が、青ざめて、係官をおびえさせることをしなくなった。
それが。
生きて、いた。
それも、これが証言者になれるというのだから冷や汗も出ようというものだ。
「それでは、その・・・10年前の状況をもう一度お話ください」
「わたくしは予見をいたしました。あの二人が危ない、と。それを受けて夫はポッター夫妻の様子を見に行くべく、わたくしとリゲルに先に隠れ家へ逃げるようにと言い置き、出かけてまいりました」
「それが・・・」
「23時ごろでございました。それまではわたくしたちはずっと共におりました。次の日はリゲルの誕生日。せめてそれだけは皆祝いたいと夫もわたくしも家におりましたわ。その後、夫からの知らせにリゲルを一時・・・安全と思われますマグルの元にあずけ、わたくしも夫を助けるべく谷へ向かいました。その途中で・・・あれは、おそらく帝王の手の者たちだったのでしょうね。襲われましたの。その後のことは先ほどお話いたしました通り、わたくし、界をわたってしまいましたのよ。ようやくこちらへ帰るための術を編み出して先日帰還いたしましたわ」
「証拠・・・や、証言は出来ますでしょうか?」
「渡界のでございますか?それともその夜に夫がわたくしたちと一緒にいたことでございますか?」
渡界もそうだが、その夜にだ、と答えればまあ、とあきれたようにいわれた。
「わたくしたちは帝王に対抗すべく隠れておりましたのよ?しもべ妖精のスクィークでしたら証言できるかと思いますが、すでにお尋ねの後でございましょう?」
泰然とその表情のよくわからない面にうっすらと笑みさえ浮かべて品良く話す彼女はまさしくブラック家の妻として、名家出身の令嬢としてふさわしい女性と言えた。
だが、怖い。
このままではあの有罪がひっくり返されない。
そんな予感がするのは何故だ。
間違い、では済まされない。
あの家をつぶした瞬間、世間にあふれたのは歓喜ではない。非難でもない。
魔法省に対する、無言の抗議だった。
魔法界を長らく支え続けたあの名家の当主たるはずであった青年。
そして、その家を貶めるだけの権利があるのか、という・・・ブラック家に深いつながりを持つ数々の家からの圧力。
もっとも、そのなかでも力を持つ家のほとんどが凋落するか、自分の保身に走った。
あの一件ではそれほど多くの家がつぶれるか、衰えた。
それでも、ホグワーツに通う間、スリザリンに君臨し続けていたブラック家の人々を敬愛していた人の数もまた、ひどく多かったのだ。
それが、いまさら無罪でしたなどといえるはずもない。
飛ぶ首はひとつではすまないのだ。
「ですが・・・ねえ?そうおっしゃられましても、奥様。誰も渡界など見たこともありません。おとぎ話を信じるものはいませんよ。それより、本当のことをおっしゃってはいかがです?帝王の没落に夫を見捨てて逃げた、と」
やばい。
誰もがそう思った。
それは、確かにそのへんの雑魚なら効くだろう。
だが、目の前の女性の庇護者は他でもないダンブルドアだ。
うっすらとその唇を笑みの形にゆがめて、女性はころころと麗しく笑った。
「まあ。そうおっしゃられるのでしたら、ご自分で経験されてみるのがよろしいのではありませんこと?」
「はい?」
「経験してみるとよろしいわ」
すっとあまりに自然に取り出された杖が見たこともない形に動き、その唇が聞いたことのない呪文を呟いた。
声にならない悲鳴。
突然現れたあまりに禍々しい色の渦が抵抗する間もなく、不用意な発言をした男を飲み込んでいく。
「これで信じていただけます?」
飲み込んで満足したとでもいうかのようにきれいさっぱり消えた渦を気にもとめず、にっこりと笑った女性はそれはそれは恐ろしかった。
同僚はいったいどうなったのか。
そしてこれ以上逆らえば、間違いなく自分達も二の舞だ。
そのことが痛いほど理解できてしまった。
「あ、あの・・・彼、は・・・」
「ああ・・・そうですわね。あちらに帰せる術者がいれば帰ってこられるのではないかしら?」
あちら、とはどこなのだ。
「ど、ど、どこに送り込まれたので・・・っ!?」
「さあ・・・どこでしょう?どこに、と特定しないで送ってしまいましたわ」
ほほほ、となんでもないことのように笑う彼女を逮捕しようというつわものは・・・一人もいなかったのである。