5年生(親世代) 製作中
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48
とんとん、と荷物をそろえる。
もういらないもの、いるもの。
ざくざくと整理しながら、意外と冷静な自分に笑う。
銀の花がついたヘアピン。変色している部分もあるし、いらない。
やわらかい革のブックカバー。はじっこ擦り切れてきたし、いらない。
赤いサシェをいらない、とごみ箱に落としたときだった。
サク、と手招きされてリリーにかぶせられたのは透明マントだった。
「え、なになに?」
「いいから、これ持って」
なにやら、小さなゴムのようなものをべったりと耳につけられた。
とたんに聞こえてくる声に、びっくりした。
これ、あたしの声じゃない。
「さ、大広間にいくわよ」
つけてない左側の耳だけ、リリーの声が聞こえる。
「ど、どういうこと??」
「いいから、見てらっしゃい」
ずるずると引きずられるようにして、つれていかれた大広間に入ったとたん、入り口近くに、押さえつけられた。
もちろん、リリーは寄りかかるふりで、あたしを動けなくさせている。
「さ、いいわよ」
「O.K」
ん?誰だこれ、という聞きなれない声に視線をやれば、やたら軽い足取りでブラックに歩み寄っていくのは・・・あたし、だ。
いや、あたしにポリジュース薬で化けた、ジェームズだ。
「ねえ?」
そう言った声に背筋があわ立った。
なんだ、いまの声。ほんとにあたしの声!?
「まだ怒ってるの?」
「なんの用だ」
「あてつけなんかじゃないのよ?だってあなたも悪いじゃない?」
ちろり、とサクラ(ジェームズ)を見たブラックがため息をついて、手を振り払うのをやめた。
そのサクラ(ジェームズ)の腕がブラックの首にしゅるりとからみつく。
とてもじゃないけどまねできない女らしさと色っぽさってのはどうなんだろう。
あ、あたし女やめるべき・・・?
右耳から、あの二人がしている会話が聞こえてくる。ひそひそ声で、周りには聞こえないぐらいの声。多分、当人とあたししか聞こえていない。
「(なんのつもりだ)」
「(あわせてよ。そもそも、あなたのせいでしょ?)」
「(なに?)」
ブラックが顔をしかめているのが見える。
「(あなたの恋人だと思われて嫌がらせされてたんだけど?しかもあなたがかばわないから日に日にエスカレートしてたのよ)」
「(サクラ?)」
「(もうベッドの中に血まみれふくろうも、レポートやものがなくなるのもたくさんなのよ)」
ひそひそという声がぴたり、とやむ。
多分傍目には、ブラックの耳に噛み付いていたようにしか、見えない。
うん。見えない。
っていうか見えたくない!!!!
「だって」
はっきりと左耳にも聞こえてきた声に、はっとする。
あたし(ジェームズ)が、えらく色っぽい顔を浮かべている。
ぎゃー!やめてー!いやー!!
誰だあれ、誰だあれ!もういやっ!!
じたばた暴れたいあたしをリリーが笑顔で押さえつけている。
結構イタイです、リリーさん・・・。
「あの子ったら、あたしに退学しろ、なんて言うんだもの。なんの権利があるのかしらね?でも、あなたが結構気に入ってるみたいだったし、放っておいたのよ」
「誰が気に入ってたって?」
「あら、違ったの?3,4回寝てたって聞いてたから、結構気に入ってたのかと思ったわ」
嫌そうに顔をしかめたブラックがあたし(ジェームズ)をにらみつける。
「気に入ってないなら、もっと早く黙らせたかったのに。挙句に、おかしな演技はするし。なにを始めたのかと思ったわ」
「・・・それで?」
あたし(ジェームズ)がにっこり笑ったのがわかった。
「あなたに任せればよかったな、と思って。ねえ、もう浮気はやめて?」
甘えきったその声音にぞわわと悪寒がした。
自分ののどって、こんな声、出たのか、出せたのか、ってかまじめに気持ち悪い。
ありえない。
「(仲直りしたふりしないと、いろいろうるさいのよ。呪いの借りもあるんだし、これぐらいは言うこときいてくれない?)」
べったりとしなだれかかってあたし(ジェームズ)ささやいた声にブラックの眉がぴくりとつりあがった。
「シリウスったら・・・あたしじゃ、そんなに不満?」
あたし(ジェームズ)の首をかしげての言葉に、ブラックが口元だけで笑った。
それは、劇的な変化だった。
不機嫌で、今にも怒り出しそうだったブラックが、笑ってる。やさしくじゃなく、エロく。
「お前に不満?」
ぐい、と背中に添えられたブラックの手があたし(ジェームズ)を引き寄せた。
「そんなこと、あるわけがない」
その流れに逆らわず、あたし(ジェームズ)はブラックのひざの上・・・上・・・!?
なにあの、いちゃつきモードカップル!!
「(捨て身だな)」
「(平和な学校生活のためですから)」
ひざの上で、ブラックの首に手をまきつけ、抱き寄せられているあたし(ジェームズ)に大広間中の注目が集まっていた。
ぎゃーいやーやめてー!!
これでカップル認定になるじゃないの、なるじゃないの!!いやよー!そんなの!!
あの男とカップルなんて、ぜったいに嫌!!
鳥肌たつ、吐き気する、絶対顔みたくないのに!!
「じゃあ、これで仲直り、よね?」
「そうだな」
にっこり笑ったあたし(ジェームズ)に、とてつもなく嫌な予感がした。
「仲直りのキス、して?」
「(代償はたかくつくからな)」
「(いいわよ?)」
唇の端にしようとしたキスはブラックの手で思いっきりキスにかわった。
ジェームズが鳥肌たててるのがさすがにわかる。
中身だけなら、わーい、生ボーイズラブーとか楽しめるんだけど、見た目がねー・・・自分じゃねー・・・あ、鬱っぽい気分になってくるわー・・・。
「ん・・・っ」
ちょっとまて、なんでここでディープキスしてるのかなーかなー?
旗から見ててわかるぐらいはっきりディープキスをこんなところでかますのやめてくれないかなー?
しかもあたしの外見で!!!!!!
さっきからの演技の延長で逃げることもできないあたし(しつこいけどジェームズ)をがっしりとだきしめて固定して、ブラックはこれでもか、としつこくキスをしたあとにぽいっと放り投げやがった。
ひどい。
「シリウス!」
抗議の声を上げたあたし(ジェームズ)を見やって赤くぬれた唇をぐい、とぬぐったブラックがにやりと笑った。
やったらエロくさい笑顔にむかっとする。
「たかくつくぞって言っただろ?」
もう、と怒るあたしはまだ床に座ったままで、リリーがあたしから離れてあたし(ジェームズ)に
近づく。
「・・・は?立てない?」
「リリー、起こして?」
どうやら、腰が抜けたらしい。
そんな会話に大広間中があきれたような、ほっとしたような、馬鹿にしたような、面白がるような雰囲気になった。
どうやら痴話げんかだったらしいぞ、仲直りしたみたいだぞ、女たちは捨てられた、などなどあまり聞きたくないせりふが飛び交っているのが聞こえて、いたたまれない。
どっちにしろ姿も現せないし、帰ろうか、と出たとたん。
腕をつかまれた。
何事だ。
あたしまだ、透明マントかぶってるんですけど!?
見上げれば。
「ブラック・・・」
名前を呼んだだけで、声が震える。
ブラックの顔が、険しくなった。
そのまま、無言でずるずると引きずるように連れて行かれる。
数メートルもいかないうちに、うっとうしくなったのか、透明マントをはがされた。
何か言われるかと思ったのに、そんなことすらなく、ブラックはただ歩いていく。
行き着いたドアは、必要の部屋。
前にも、来たことはある。
あるけれど、その部屋の中には、何もなかった。
どん、と部屋の中に突き飛ばされる。
痛くは、ない。
石造りのはずの床はふかふかのじゅうたんで覆われていた。
さすが必要の部屋。
っていうかなんでこれが必要だったのだろう??
近づいてきたブラックから遠ざかるようにあとずさる。
「な、なに?」
足を止めたブラックが、あたしの足元にひざをついて、のしかかって、きた。
「ちょっと!?」
押しのけようとした手がブラックの手で床に縫い付けられ、振り上げようとした足はひざで押さえつけられる。
巧みにあたしのひざの上あたりにまたがって押さえつけて、あたしは、身動きができなくなった。
ただ、身体だけがブラックを拒否するように、がたがたと震える。
「お前が、やれっていったの?」
「な、なにを?」
「ジェームズのアレ」
二重の意味で驚いた。アレがジェームズだと、気づいていたのか。さらに、あたしがやってくれと頼んだと思われてるのか。
「まさか」
「・・・そうか・・・で、あいつが言ったことはほんと?」
「言ったことって・・・」
「ごまかすなよ。これ、聞き耳だろ」
ぐい、と引っ張られたのはさっきリリーにつけられたなにか。
ピンク色の、小さな耳の形をしたおもちゃのような感じだった。
「この前、俺たちで開発した聞き耳だ。片割れをつけたやつが聞こえた音が聞こえるようになってる」
そうなのか。そんなものまで作ってるのか、この人たち。
「へ、へえ・・・」
「それで?本当なのか?」
「・・・え、と・・・」
完璧に押さえつけられ、身動きもできずに、見下ろされる。
逃げ出したいのに、逃げ出すこともできなかった。
「お前が、俺のせいでいじめられてたって?」
「・・・」
「しかも退学しろとか言われて、嫌がらせ?その後に何されてた?」
「な、なにも・・・」
「ごまかすなよ。あいつが言うってことはそれなりの根拠があるんだろうが」
鋭い視線に耐えられなくて、視線をそらした。
ちっと舌打ちが聞こえて。
顔が、近づいてくる。
「ちょ・・・っいや!」
押しのけたいのに、押さえつけられた手はびくともしない。足だって、振り上げることも、動かすこともできない。
力では、完全にかなわないのだと、思い知らされているような気がした。
近づいてきた顔は、のど元に、伏せられて。
堅い感触に、歯を立てられたのを知った。
噛み付かれた。
「ブラック・・・っ」
やわらかい皮膚に歯型がつくのでは、と思えるほど歯を立てられた後、ぺろりと、なめられて背筋がぞわっとした。
「吐け」
「・・・・・・っほんとよ!ほんとだからっ!」
次は何をされるんだろう。
そう思ったら、そう叫んでいた。
「で?」
「あの子にも、そう脅されて・・・っブラックと、別れろって・・・っ」
「別れろ。そういわれてどうしたんだ?」
やさしい声だ。やさしくて優しくて、背筋が凍る。
猫なで声というのにふさわしい声だった。
「つ、付き合ってないから別れられないって・・・」
「そう。あいつらはそれで怒ってたわけだ」
うなずこうにも、ブラックの顔があまりに近すぎて、できない。
「そ、そう・・・」
「なんで俺に言わなかった?」
「え、と・・・」
「母上も同じ用件か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、よ・・・」
正確には、違うけど。
「そうか。よくわかった」
ふいに、押さえつけられていた手が放されて、ブラックがあたしから離れた。
「ジェームズに免じて、人前でだけは取り繕ってやるよ。恋人としてな」
「な・・・っ」
「本当にするのはごめんだな。お前相手じゃたたねえよ」
声も出なかった。
よかった、と思った。
本当に、気晴らしとか、腹いせに犯されるのかと思った。
だから、本当によかった、と思った。
「関わるな、と言っても無駄なことが、よく、わかった」
ため息をついて座り込んだブラックががしがしといらだたしげに髪をかきむしる。
「母上の、用件を話せ」
「え?」
「正確に、母上がお前にしたことを、話せ」
「嫌」
ブラックの目がつりあがる。
「お前・・・っ」
どう、言葉を選んでいいのかなんて、思いもつかなかったけれど。
「あたしが、選んだの」
「いい加減に・・・っ」
「あなたのお母様は、あたしに、あなたと別れろ、と言った。付き合ってないのに、別れるなんてできない、と言ったわ。そうしたら・・・愛人にならなってもいいと言ってくれたわね。愛人になんてならないし、あなたが心から愛するひとなら、喜んで祝福するといったわ」
ブラックの顔が理解できない、というようにゆがんでいく。
「あたしは、あなたに恋愛感情は持っていないし、今後、結婚を迫ることも、愛人になることもない。そう言ったら、確約をよこせ、とこの呪いをかけた」
案外、するりと言葉が出てくる。
なんでこんな単純なことを、ためらっていたんだろう。
「それが、どうしてお前が選んだ、という話になる?」
「あなたの婚約者としてふさわしい人物を探してるそうよ。それで、相手としてふさわしいと思う魔法使いの名前をあげろ、と言われた。残念ながら思いつかなかったのよ。・・・だから、あたしは言わなかった。あなたの相手の名前を。言えば、逃れられたんでしょうけどね」
「言えばよかったのに」
「・・・仮にも、4年間友人として過ごしてきた相手をみすみす不幸にするなんてごめんだと思ったの。だから、呪いをかけられることを選んだのは、あたしだわ」
それだけは、変わらない。
なにがあったとしても、譲らない。
これはあたしの意思。あのときのあたしが、紛れもなく望んだこと。
「わかってもらえた?だから、これはあたしの責任。あたしの選択の結果。いつか解かれるかもしれないし、解く方法がみつかるかもしれない」
だからそれまで、あがいても仕方ない。
そう、割り切った。
「母上に、すべては誤解で、お前は関係がないことを伝える。だから・・・っ」
なぜあせっているのだろう。
何を焦っているのだろう。
何も、焦ることなどないのに。
馬鹿な女だと、そう思って笑っていればいいだけだろうに。
「いらないわ」
「サクラ!」
「知ってしまったから」
「は?」
「あなたが、あたしに距離を置くようになったのは・・・今年度が始まって、2ヶ月ぐらい、たってからだった」
少しずつ、疑うような目をしだした。
そして、ある日、レギュラスに協力をストップするよう命じた。
それから、坂を転げ落ちるように、仲はこじれていった。
「理由が、ようやくわかったから。もう二度と、あなたと友達でいようとは、思わない」
「サクラ?」
いぶかしげに顔をしかめるシリウス。
「だから、この呪いは、あたしの責任。あたしが、自分で招いたこと。あたしが、選んだこと。だから、ブラックには、関係ない」
「サクラ・・・?」
伸ばされた手を振り払う。
「キリュウ、よ。ブラック」
愕然と手を落としたブラックに、あたしはゆっくりと立ち上がって、身なりを整えた。
「あなたに責任をとってもらうって、あなたに関わるってことよね?そんなの、いらないわ。あたしのやったことだもの、あたしの責任でいいの。だから、関わらないで。卒業するまで他人でいましょ。卒業したら、進路は分かれて二度と会うことはなくなるんだし」
「サクラ・・・っ」
「あたしは、あなたをブラック家のシリウスじゃなくて、シリウスっていう人間だと思っていた。でも、あなたは違ったのね。あなたは、キリュウ家のサクラとしてあたしを見てた。あなたの血筋を自分のために利用しようとする薄汚い連中と同じだと思っていた」
「ちが・・・っ」
「好意は見返りを期待して渡すものじゃないわ。でもね、仇で返されてまで、送り続けようとは誰も思えないのよ」
ブラックはまるで途方にくれた子どものように見えた。
もう、そんな風にしなくてもいいのに。
「人間としてのあたしを馬鹿にされた気分だわ。あたしは、そんなに馬鹿にみえたのね」
言いたいことはそれだけだった。
言いたい放題いったあたり、あたしもまだまだ子どもだけどね。
まあ、これぐらいは我慢してもらうとしよう。
振り返ることも、足を止めることもなく、あたしはさっさとその場を後にした。
引き止める声も、言葉も、何もなかった。
とんとん、と荷物をそろえる。
もういらないもの、いるもの。
ざくざくと整理しながら、意外と冷静な自分に笑う。
銀の花がついたヘアピン。変色している部分もあるし、いらない。
やわらかい革のブックカバー。はじっこ擦り切れてきたし、いらない。
赤いサシェをいらない、とごみ箱に落としたときだった。
サク、と手招きされてリリーにかぶせられたのは透明マントだった。
「え、なになに?」
「いいから、これ持って」
なにやら、小さなゴムのようなものをべったりと耳につけられた。
とたんに聞こえてくる声に、びっくりした。
これ、あたしの声じゃない。
「さ、大広間にいくわよ」
つけてない左側の耳だけ、リリーの声が聞こえる。
「ど、どういうこと??」
「いいから、見てらっしゃい」
ずるずると引きずられるようにして、つれていかれた大広間に入ったとたん、入り口近くに、押さえつけられた。
もちろん、リリーは寄りかかるふりで、あたしを動けなくさせている。
「さ、いいわよ」
「O.K」
ん?誰だこれ、という聞きなれない声に視線をやれば、やたら軽い足取りでブラックに歩み寄っていくのは・・・あたし、だ。
いや、あたしにポリジュース薬で化けた、ジェームズだ。
「ねえ?」
そう言った声に背筋があわ立った。
なんだ、いまの声。ほんとにあたしの声!?
「まだ怒ってるの?」
「なんの用だ」
「あてつけなんかじゃないのよ?だってあなたも悪いじゃない?」
ちろり、とサクラ(ジェームズ)を見たブラックがため息をついて、手を振り払うのをやめた。
そのサクラ(ジェームズ)の腕がブラックの首にしゅるりとからみつく。
とてもじゃないけどまねできない女らしさと色っぽさってのはどうなんだろう。
あ、あたし女やめるべき・・・?
右耳から、あの二人がしている会話が聞こえてくる。ひそひそ声で、周りには聞こえないぐらいの声。多分、当人とあたししか聞こえていない。
「(なんのつもりだ)」
「(あわせてよ。そもそも、あなたのせいでしょ?)」
「(なに?)」
ブラックが顔をしかめているのが見える。
「(あなたの恋人だと思われて嫌がらせされてたんだけど?しかもあなたがかばわないから日に日にエスカレートしてたのよ)」
「(サクラ?)」
「(もうベッドの中に血まみれふくろうも、レポートやものがなくなるのもたくさんなのよ)」
ひそひそという声がぴたり、とやむ。
多分傍目には、ブラックの耳に噛み付いていたようにしか、見えない。
うん。見えない。
っていうか見えたくない!!!!
「だって」
はっきりと左耳にも聞こえてきた声に、はっとする。
あたし(ジェームズ)が、えらく色っぽい顔を浮かべている。
ぎゃー!やめてー!いやー!!
誰だあれ、誰だあれ!もういやっ!!
じたばた暴れたいあたしをリリーが笑顔で押さえつけている。
結構イタイです、リリーさん・・・。
「あの子ったら、あたしに退学しろ、なんて言うんだもの。なんの権利があるのかしらね?でも、あなたが結構気に入ってるみたいだったし、放っておいたのよ」
「誰が気に入ってたって?」
「あら、違ったの?3,4回寝てたって聞いてたから、結構気に入ってたのかと思ったわ」
嫌そうに顔をしかめたブラックがあたし(ジェームズ)をにらみつける。
「気に入ってないなら、もっと早く黙らせたかったのに。挙句に、おかしな演技はするし。なにを始めたのかと思ったわ」
「・・・それで?」
あたし(ジェームズ)がにっこり笑ったのがわかった。
「あなたに任せればよかったな、と思って。ねえ、もう浮気はやめて?」
甘えきったその声音にぞわわと悪寒がした。
自分ののどって、こんな声、出たのか、出せたのか、ってかまじめに気持ち悪い。
ありえない。
「(仲直りしたふりしないと、いろいろうるさいのよ。呪いの借りもあるんだし、これぐらいは言うこときいてくれない?)」
べったりとしなだれかかってあたし(ジェームズ)ささやいた声にブラックの眉がぴくりとつりあがった。
「シリウスったら・・・あたしじゃ、そんなに不満?」
あたし(ジェームズ)の首をかしげての言葉に、ブラックが口元だけで笑った。
それは、劇的な変化だった。
不機嫌で、今にも怒り出しそうだったブラックが、笑ってる。やさしくじゃなく、エロく。
「お前に不満?」
ぐい、と背中に添えられたブラックの手があたし(ジェームズ)を引き寄せた。
「そんなこと、あるわけがない」
その流れに逆らわず、あたし(ジェームズ)はブラックのひざの上・・・上・・・!?
なにあの、いちゃつきモードカップル!!
「(捨て身だな)」
「(平和な学校生活のためですから)」
ひざの上で、ブラックの首に手をまきつけ、抱き寄せられているあたし(ジェームズ)に大広間中の注目が集まっていた。
ぎゃーいやーやめてー!!
これでカップル認定になるじゃないの、なるじゃないの!!いやよー!そんなの!!
あの男とカップルなんて、ぜったいに嫌!!
鳥肌たつ、吐き気する、絶対顔みたくないのに!!
「じゃあ、これで仲直り、よね?」
「そうだな」
にっこり笑ったあたし(ジェームズ)に、とてつもなく嫌な予感がした。
「仲直りのキス、して?」
「(代償はたかくつくからな)」
「(いいわよ?)」
唇の端にしようとしたキスはブラックの手で思いっきりキスにかわった。
ジェームズが鳥肌たててるのがさすがにわかる。
中身だけなら、わーい、生ボーイズラブーとか楽しめるんだけど、見た目がねー・・・自分じゃねー・・・あ、鬱っぽい気分になってくるわー・・・。
「ん・・・っ」
ちょっとまて、なんでここでディープキスしてるのかなーかなー?
旗から見ててわかるぐらいはっきりディープキスをこんなところでかますのやめてくれないかなー?
しかもあたしの外見で!!!!!!
さっきからの演技の延長で逃げることもできないあたし(しつこいけどジェームズ)をがっしりとだきしめて固定して、ブラックはこれでもか、としつこくキスをしたあとにぽいっと放り投げやがった。
ひどい。
「シリウス!」
抗議の声を上げたあたし(ジェームズ)を見やって赤くぬれた唇をぐい、とぬぐったブラックがにやりと笑った。
やったらエロくさい笑顔にむかっとする。
「たかくつくぞって言っただろ?」
もう、と怒るあたしはまだ床に座ったままで、リリーがあたしから離れてあたし(ジェームズ)に
近づく。
「・・・は?立てない?」
「リリー、起こして?」
どうやら、腰が抜けたらしい。
そんな会話に大広間中があきれたような、ほっとしたような、馬鹿にしたような、面白がるような雰囲気になった。
どうやら痴話げんかだったらしいぞ、仲直りしたみたいだぞ、女たちは捨てられた、などなどあまり聞きたくないせりふが飛び交っているのが聞こえて、いたたまれない。
どっちにしろ姿も現せないし、帰ろうか、と出たとたん。
腕をつかまれた。
何事だ。
あたしまだ、透明マントかぶってるんですけど!?
見上げれば。
「ブラック・・・」
名前を呼んだだけで、声が震える。
ブラックの顔が、険しくなった。
そのまま、無言でずるずると引きずるように連れて行かれる。
数メートルもいかないうちに、うっとうしくなったのか、透明マントをはがされた。
何か言われるかと思ったのに、そんなことすらなく、ブラックはただ歩いていく。
行き着いたドアは、必要の部屋。
前にも、来たことはある。
あるけれど、その部屋の中には、何もなかった。
どん、と部屋の中に突き飛ばされる。
痛くは、ない。
石造りのはずの床はふかふかのじゅうたんで覆われていた。
さすが必要の部屋。
っていうかなんでこれが必要だったのだろう??
近づいてきたブラックから遠ざかるようにあとずさる。
「な、なに?」
足を止めたブラックが、あたしの足元にひざをついて、のしかかって、きた。
「ちょっと!?」
押しのけようとした手がブラックの手で床に縫い付けられ、振り上げようとした足はひざで押さえつけられる。
巧みにあたしのひざの上あたりにまたがって押さえつけて、あたしは、身動きができなくなった。
ただ、身体だけがブラックを拒否するように、がたがたと震える。
「お前が、やれっていったの?」
「な、なにを?」
「ジェームズのアレ」
二重の意味で驚いた。アレがジェームズだと、気づいていたのか。さらに、あたしがやってくれと頼んだと思われてるのか。
「まさか」
「・・・そうか・・・で、あいつが言ったことはほんと?」
「言ったことって・・・」
「ごまかすなよ。これ、聞き耳だろ」
ぐい、と引っ張られたのはさっきリリーにつけられたなにか。
ピンク色の、小さな耳の形をしたおもちゃのような感じだった。
「この前、俺たちで開発した聞き耳だ。片割れをつけたやつが聞こえた音が聞こえるようになってる」
そうなのか。そんなものまで作ってるのか、この人たち。
「へ、へえ・・・」
「それで?本当なのか?」
「・・・え、と・・・」
完璧に押さえつけられ、身動きもできずに、見下ろされる。
逃げ出したいのに、逃げ出すこともできなかった。
「お前が、俺のせいでいじめられてたって?」
「・・・」
「しかも退学しろとか言われて、嫌がらせ?その後に何されてた?」
「な、なにも・・・」
「ごまかすなよ。あいつが言うってことはそれなりの根拠があるんだろうが」
鋭い視線に耐えられなくて、視線をそらした。
ちっと舌打ちが聞こえて。
顔が、近づいてくる。
「ちょ・・・っいや!」
押しのけたいのに、押さえつけられた手はびくともしない。足だって、振り上げることも、動かすこともできない。
力では、完全にかなわないのだと、思い知らされているような気がした。
近づいてきた顔は、のど元に、伏せられて。
堅い感触に、歯を立てられたのを知った。
噛み付かれた。
「ブラック・・・っ」
やわらかい皮膚に歯型がつくのでは、と思えるほど歯を立てられた後、ぺろりと、なめられて背筋がぞわっとした。
「吐け」
「・・・・・・っほんとよ!ほんとだからっ!」
次は何をされるんだろう。
そう思ったら、そう叫んでいた。
「で?」
「あの子にも、そう脅されて・・・っブラックと、別れろって・・・っ」
「別れろ。そういわれてどうしたんだ?」
やさしい声だ。やさしくて優しくて、背筋が凍る。
猫なで声というのにふさわしい声だった。
「つ、付き合ってないから別れられないって・・・」
「そう。あいつらはそれで怒ってたわけだ」
うなずこうにも、ブラックの顔があまりに近すぎて、できない。
「そ、そう・・・」
「なんで俺に言わなかった?」
「え、と・・・」
「母上も同じ用件か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、よ・・・」
正確には、違うけど。
「そうか。よくわかった」
ふいに、押さえつけられていた手が放されて、ブラックがあたしから離れた。
「ジェームズに免じて、人前でだけは取り繕ってやるよ。恋人としてな」
「な・・・っ」
「本当にするのはごめんだな。お前相手じゃたたねえよ」
声も出なかった。
よかった、と思った。
本当に、気晴らしとか、腹いせに犯されるのかと思った。
だから、本当によかった、と思った。
「関わるな、と言っても無駄なことが、よく、わかった」
ため息をついて座り込んだブラックががしがしといらだたしげに髪をかきむしる。
「母上の、用件を話せ」
「え?」
「正確に、母上がお前にしたことを、話せ」
「嫌」
ブラックの目がつりあがる。
「お前・・・っ」
どう、言葉を選んでいいのかなんて、思いもつかなかったけれど。
「あたしが、選んだの」
「いい加減に・・・っ」
「あなたのお母様は、あたしに、あなたと別れろ、と言った。付き合ってないのに、別れるなんてできない、と言ったわ。そうしたら・・・愛人にならなってもいいと言ってくれたわね。愛人になんてならないし、あなたが心から愛するひとなら、喜んで祝福するといったわ」
ブラックの顔が理解できない、というようにゆがんでいく。
「あたしは、あなたに恋愛感情は持っていないし、今後、結婚を迫ることも、愛人になることもない。そう言ったら、確約をよこせ、とこの呪いをかけた」
案外、するりと言葉が出てくる。
なんでこんな単純なことを、ためらっていたんだろう。
「それが、どうしてお前が選んだ、という話になる?」
「あなたの婚約者としてふさわしい人物を探してるそうよ。それで、相手としてふさわしいと思う魔法使いの名前をあげろ、と言われた。残念ながら思いつかなかったのよ。・・・だから、あたしは言わなかった。あなたの相手の名前を。言えば、逃れられたんでしょうけどね」
「言えばよかったのに」
「・・・仮にも、4年間友人として過ごしてきた相手をみすみす不幸にするなんてごめんだと思ったの。だから、呪いをかけられることを選んだのは、あたしだわ」
それだけは、変わらない。
なにがあったとしても、譲らない。
これはあたしの意思。あのときのあたしが、紛れもなく望んだこと。
「わかってもらえた?だから、これはあたしの責任。あたしの選択の結果。いつか解かれるかもしれないし、解く方法がみつかるかもしれない」
だからそれまで、あがいても仕方ない。
そう、割り切った。
「母上に、すべては誤解で、お前は関係がないことを伝える。だから・・・っ」
なぜあせっているのだろう。
何を焦っているのだろう。
何も、焦ることなどないのに。
馬鹿な女だと、そう思って笑っていればいいだけだろうに。
「いらないわ」
「サクラ!」
「知ってしまったから」
「は?」
「あなたが、あたしに距離を置くようになったのは・・・今年度が始まって、2ヶ月ぐらい、たってからだった」
少しずつ、疑うような目をしだした。
そして、ある日、レギュラスに協力をストップするよう命じた。
それから、坂を転げ落ちるように、仲はこじれていった。
「理由が、ようやくわかったから。もう二度と、あなたと友達でいようとは、思わない」
「サクラ?」
いぶかしげに顔をしかめるシリウス。
「だから、この呪いは、あたしの責任。あたしが、自分で招いたこと。あたしが、選んだこと。だから、ブラックには、関係ない」
「サクラ・・・?」
伸ばされた手を振り払う。
「キリュウ、よ。ブラック」
愕然と手を落としたブラックに、あたしはゆっくりと立ち上がって、身なりを整えた。
「あなたに責任をとってもらうって、あなたに関わるってことよね?そんなの、いらないわ。あたしのやったことだもの、あたしの責任でいいの。だから、関わらないで。卒業するまで他人でいましょ。卒業したら、進路は分かれて二度と会うことはなくなるんだし」
「サクラ・・・っ」
「あたしは、あなたをブラック家のシリウスじゃなくて、シリウスっていう人間だと思っていた。でも、あなたは違ったのね。あなたは、キリュウ家のサクラとしてあたしを見てた。あなたの血筋を自分のために利用しようとする薄汚い連中と同じだと思っていた」
「ちが・・・っ」
「好意は見返りを期待して渡すものじゃないわ。でもね、仇で返されてまで、送り続けようとは誰も思えないのよ」
ブラックはまるで途方にくれた子どものように見えた。
もう、そんな風にしなくてもいいのに。
「人間としてのあたしを馬鹿にされた気分だわ。あたしは、そんなに馬鹿にみえたのね」
言いたいことはそれだけだった。
言いたい放題いったあたり、あたしもまだまだ子どもだけどね。
まあ、これぐらいは我慢してもらうとしよう。
振り返ることも、足を止めることもなく、あたしはさっさとその場を後にした。
引き止める声も、言葉も、何もなかった。