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金烏と玉兎

「雨、ですわね」
「そうだな」
 後宮から連れ出されるようになって、地方まで連れてこられることも珍しくなくなったけれど、こんな雨の日に閉じ込められるのは初めてだった。
「とても久しぶりな気がします」
「上では雨は降らないからな」
「ええ・・・」
 雲海の上では雨は降らない。
 だから、雨は久しぶりだった。
 後宮に入る前はそれでも地上で雨に降られることはあったが、後宮に入ってからは・・・。
「雲の上にいると、人ではなくなった気がします」
 雨を知らず、曇りを知らず、晴れていること、雨が降ること、民が恵みと感じる全てを知ることなく、感じることなく、過ごし続ける日々。
「そうだな。人ではないのだろうよ。雲の上で暮らすなら」
「雨は嫌いではありません」
「俺もだ」
 そういって伸ばされた腕に収まって、その温かい胸に身体を預ける。
 ここが、一番安心する場所だった。
「ここに、いたいか?」
「主上と、一緒なら」
 今の緑花にとって、一番優先することは、尚隆だから。
「俺と一緒なら?」
「主上がいらっしゃるところに、わたくしはおります」
「俺と一緒に、ここにいるか?」
「いいえ」
 問われた言葉に、ふと考えた。
 言葉どおりだろうか。
 今、ここに一緒にいるか、という意味だろうか。
 違う気が、する。
「主上がいらっしゃるところに、わたくしがいるのです。主上がここにいらっしゃりたいなら、わたくしもここにいます。主上が王宮にいらっしゃりたいなら、わたくしもそこにおります」
 そう、それが、緑花の選んだ道だった。
 仕事も、官吏としての生きがいも、何もかも捨ててもいいから、と望んだこと。
「だから、わたくしはここにいます」
 返事はなかった。
 けれど、その腕が、ぎゅっと身体を抱きしめてくれた。
 それで、十分だった。
「・・・雨の、音」
 静かな空間に、雨の音が響く。
 身体の芯まで震わせるような、轟音。
「篠を束ねる、と言うな」
「しの?」
「そうだ。こんな雨のことを、篠を束ねるという」
 ふぅん、と相槌を打ちながら、そんなこと、と思う。
 耳元に唇を寄せたくなるような
「雨は、好きです」
「そうか」
 こうやって、身を寄せていられるから。
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