金烏と玉兎
「・・・あら?」
雲もないのに、霧雨のような雨が庭をぬらす。
煙るような雨が、回廊の外の緑を色鮮やかに染めていく。
「珍しい・・・」
外に差し出した手が、じんわりとぬれていく。
「緑花?あなた、なにをしているんです?」
「朱衡さま」
そこに、秋官の長が、いた。
なぜ、と思ってああ、と理解する。
彼は後宮に執務室があった。
「雨が・・・」
「・・・珍しいこともあるものですね、雲海の上で雨とは・・・」
「はい」
「天の気まぐれでしょう。主上と同じです」
言外に尚隆もきまぐれだ、と言い切った朱衡がじっと、緑花を見つめた。
「朱衡、さま?」
「後悔は、ありませんか?」
そのまま昇れば、地官長や宰相も夢ではなかった、能吏。
その未来の全てを奪い去るようにして、後宮に送り込んだ。
それを決めたときの帷湍の嘆きと怒りを、朱衡は忘れていない。
「朱衡さま。わたくしは、自分で決めたのです」
尚隆の傍にいることを、自分で望んだ。
自分で決めた。そういいきる彼女は変わらず美しかった。
その心が、その意思の強さが、きれいだと思った。
そうでなければ、尚隆の傍らに送り込んだりなどしない。
それは、いつか、王を止めるための、楔なのだから。
「雲もないのに降る雨って・・・なんだか、おかしいですね」
「天泣」
「はい?」
「天泣ですね」
天泣、と呟く緑花に朱衡は笑った。
博識な彼女が知らぬのか、と思うと少しおかしかった。
もしかして、下界ではこの言葉はとうに忘れられたのだろうか。
「空に雨を落とす雲がないのに降ってくる雨のことですよ」
なぜ天が泣くというのかは知らない。
「では、泣いていらっしゃるのは、天でしょうか・・・それとも」
「さあ・・・私にはわかりません」
感傷に満ちた緑花の言葉を一瞬で退けて、長い間を尚隆の側近として生きてきた男はさらりといつものようにその言葉を口にする。
「きっと気まぐれでしょうよ。なにしろ、あのお気楽極楽王が神ですからね」
あくまで辛辣な朱衡はそれきり、緑花に背を向けた。
雲もないのに、霧雨のような雨が庭をぬらす。
煙るような雨が、回廊の外の緑を色鮮やかに染めていく。
「珍しい・・・」
外に差し出した手が、じんわりとぬれていく。
「緑花?あなた、なにをしているんです?」
「朱衡さま」
そこに、秋官の長が、いた。
なぜ、と思ってああ、と理解する。
彼は後宮に執務室があった。
「雨が・・・」
「・・・珍しいこともあるものですね、雲海の上で雨とは・・・」
「はい」
「天の気まぐれでしょう。主上と同じです」
言外に尚隆もきまぐれだ、と言い切った朱衡がじっと、緑花を見つめた。
「朱衡、さま?」
「後悔は、ありませんか?」
そのまま昇れば、地官長や宰相も夢ではなかった、能吏。
その未来の全てを奪い去るようにして、後宮に送り込んだ。
それを決めたときの帷湍の嘆きと怒りを、朱衡は忘れていない。
「朱衡さま。わたくしは、自分で決めたのです」
尚隆の傍にいることを、自分で望んだ。
自分で決めた。そういいきる彼女は変わらず美しかった。
その心が、その意思の強さが、きれいだと思った。
そうでなければ、尚隆の傍らに送り込んだりなどしない。
それは、いつか、王を止めるための、楔なのだから。
「雲もないのに降る雨って・・・なんだか、おかしいですね」
「天泣」
「はい?」
「天泣ですね」
天泣、と呟く緑花に朱衡は笑った。
博識な彼女が知らぬのか、と思うと少しおかしかった。
もしかして、下界ではこの言葉はとうに忘れられたのだろうか。
「空に雨を落とす雲がないのに降ってくる雨のことですよ」
なぜ天が泣くというのかは知らない。
「では、泣いていらっしゃるのは、天でしょうか・・・それとも」
「さあ・・・私にはわかりません」
感傷に満ちた緑花の言葉を一瞬で退けて、長い間を尚隆の側近として生きてきた男はさらりといつものようにその言葉を口にする。
「きっと気まぐれでしょうよ。なにしろ、あのお気楽極楽王が神ですからね」
あくまで辛辣な朱衡はそれきり、緑花に背を向けた。
