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金烏と玉兎

 彼女が何者なのかはよくわかっていた。
 あの廷臣たちが、なんの意図もなく女をあてがうわけがないのだ。
 それも、この国におれをつなぎとめておくために、なんて。
 いざとなったときに、おれを止められるほどに近くに入り込み。
 俺と馴れ合わずに冷静に物事を見つめることが出来るような女。
 そうでなければ送り込まれるはずがない。
 そんなことぐらい、承知の上で、あいつを側に置いた。
 けれど、コレは聞いていない。
 さすがにコレは想像すらしなかった。
 しなかった俺が甘いといえばそれまでだけれど。
 少し詐欺じゃないかと思うのだが。
「いいたいことがそれだけでしたらさっさと決済をしてください」
「・・・朱衡。お前、少し思いやりが足りないではないか?」
「そんなものは就任3日目で使い果たしました。さあ、御璽を押してください」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 ぺこっと差し出された書類に御璽を押して、ふぅ、とため息をつく。
 まさかこんなに有能な人間を妾妃にあてがっていたとは。
「人材の無駄遣いだろう・・・」
 妾妃に仙の位を与える気などなかったが、緑花は最初から仙だった。
 だから、きっと下位の仙で、女史とか、その辺だろうと思っていたのだ。
 甘かった。
 よもや、帷湍直属の側近だったとは。
 後宮の奥まで押しかけてきて仕事を迫る側近たちについ、緑花が秘書をしてくれるならやってもいい、と答えてしまったのが運の尽き。
 きっと優しい声で休憩を促し、お茶を入れ、書類を整えてくれるだろうと思っていた。
 そんな淡い期待は一瞬で奪い去られたけれど。
「少し休憩を・・・」
「主上、まだ始めて3刻ほど。主上でしたらまだまだ大丈夫でございましょう?」
 そうにこやかに言われてしまってはぐうの音もでない。
 しかも、彼女の手は休みなく書類の整理に動いているのだ。
 んで、彼女の元上司は、といえば、緑花に任せておけば大丈夫だなどと言ってさっさと自分の仕事に戻ってしまった。
 確かに、地官においても、尚隆が最初に帷湍を置いた遂人の位に自力で就任し、出世街道を歩み続けていた女傑がこの程度の仕事で疲れるはずもない。
 地官をそのような体質にしてしまったのも全ては尚隆自身のせいだから仕方ない。
「主上は神なのですから、わたくしたち仙よりもまだ長く働けます。大丈夫ですとも」
「主上が彼女を秘書にと申し出てくださって助かりましたよ」
「彼女ならば、仕事もよくわかり、かつ能率的ですからな。主上のお仕事の補佐にはまったくぴったりです」
「白沢・・・覚えていろよ」
 負け惜しみもそこまでしか出てこない。
 それにしても。
「やっかいな嫁をもらってしまったのかもしれんなぁ・・・・・・」
「は?」
「なんとおっしゃいましたかな?」
「・・・なんでもない」
 まあ、そんな風に思うにままならないことがあってもよいのかもしれない。
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