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金烏と玉兎

 緑の庭園の真ん中。
 小さな飾り気のない東屋で本に目を落とす娘が一人。
 時折結い上げた髪を揺らす風に身を委ねるように、まどろむ風情で見るとは無しに書物を広げている。
 ちちち、と小さな鳴き声にふと、その娘は顔を上げた。
 白を基調にした衣装に身を包んだ娘が笑う。
「まあ、お前どこから迷い込んだの?」
 本に止まった小さな小鳥に白い指を差し出して。
 手のひらに乗った緑の小鳥に微笑みかけた。
 かわいらしい、無邪気さを感じさせる微笑。
 それに答えるように、小鳥が小さく鳴き声を上げた。
「ここは主上のお庭なのよ?あなたのご主人様はどこなの?」
 くちばしのあたりを撫でながらたずねる声は優しい。 
「見つかったらきっと食べられてしまうわよ?」
 何を言われたのかなどわかるはずもない小鳥に怖い顔をして見せて…娘はふふっと笑った。
「嘘よ。主上はそんな酷い方ではないもの。とても優しくて、懐の深い方」
 どこか遠くを見るように、さびしそうな瞳になった娘に小鳥が指に頬を摺り寄せた。
「わたしを慰めてくれるの?…ありがとう。優しい子ね」
 ちちっと鳴いた鳥が首をかしげ…ふわり、と飛び立った。
「あ・・・っ」
 突然手元から去った鳥を見送って、娘はその姿をじっと見送った。
 手を伸べるでも、誰かを呼ぶわけでもなく。
「・・・・・元気でね」
「自分の手元から去ったのにか?」
 がさり、と音をたてて現れた人物に、娘は目を丸くした。
「まあ、主上」
 立ち上がった娘を抱きしめながら、雁王君尚隆はうっそりと笑う。
 娘は表向きは后妃も妾妃も持たぬこの王の。
 たった一人の。
 《後宮を暖めるもの》だった。
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