第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
綾乃が、きめつ学園に転校してから一ヶ月。
慣れない暮らしと顔見知りばかりいる学園に、当初は転校した事を後悔していた綾乃。
「綾乃、学校はどうだい?お友達は作れたのかい?」
「学校にもだいぶ慣れたよ。友達も出来たし、先生達も皆んな優しいし」
「そうかい?でも……何か困った事とか…」
「ふふっ、もう、おばあちゃんは心配しすぎよ!大丈夫、学校は楽しいよ!」
しかし、伊黒から助言をもらったあの日以来、何かが吹っ切れたように綾乃はよく笑うようになった。
それは勿論、伊黒のように記憶を持ち合わせている者達の支えも大きいのだが、一番は彼女の前世での想い人……煉獄からの言葉があったからである。
『別れもあるだろうが当然出会いだってある!!いつまでも過去に囚われていては勿体ない!!……それよりも、再び出会えたのだから、今度こそその恩人とやらに自分の想いを伝えるべきだ』
あの日、彼が口にした言葉。
それは時を超えた今でも、煉獄に想いを寄せ続けている綾乃が望んでいたものとは少し違っていたのかもしれない。
しかし、その背中を押すには充分すぎる言葉だった。
「なら、いいんだけどねぇ……」
「おばあちゃんは体を治す事だけ考えていればいいの」
そう言って綾乃がクスクスと笑みをこぼせば、ここ最近で一番明るい表情を浮かべる綾乃の姿に、彼女の祖母も安心したようにほっと肩を撫で下ろす。
それに気づいた綾乃が優しく眉を下げた時、ふと祖母越しに、病室の窓から覗く桜の木々が視界に入る。
一ヶ月前、祖母が入院した当初はまだ花を咲かせていた桜も、今では青々とした葉だけとなっていた。
「おばあちゃん、それでこれからの事なんだけど……」
季節は少しずつ春から夏へと変わり始めていた。
******
翌日、綾乃は放課後の時間に、担任でもある煉獄の元を訪れていた。
「そうか、お婆さまの付き添いなら仕方あるまい……だが、山本は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ、私はただ側にいるだけですので……ご心配をおかけしてしまって、すみません」
昨日病院を訪れた際、医師から祖母の容態を伝えられた綾乃。
その内容は深刻なもので、投薬の効果が中々現れない為、高齢の祖母にはリスクもあるが、手術をしてみてはどうだろうと提案されたのだ。
勿論そのリスクを考えれば、直ぐに結論を出せるような話ではないが……
今のまま苦しむ姿を見守るくらいならと、その話を祖母に切り出し、手術を受けるようにと説得したのだ。
そして、決まった祖母の手術。
手術はなるべく早く行った方がいいだろうと、急遽決まった予定に合わせ、綾乃も学校を休む事を煉獄に伝えに来たと言う訳である。
「いや、何も謝る必要はないさ。それに君が付いていればお婆さまも安心だろう!……しかし山本も大変だろうからな。何かあれば一人で考え込まず、いつでも相談してくれ!」
「ありがとうございます」
眉を下げながらも健気に笑顔を浮かべる綾乃を、煉獄は心配そうに見つめて口を開く。
「……君は何でも一人で考え込んで無茶をする癖があるからな。いつでも俺を頼るといい」
「……え?」
その口ぶりはまるで綾乃の性格を以前から知っているかのようなもので。
声をかけられた綾乃は、そのおかしな言い回しに驚いたように彼を凝視した。
「……何か力になれるといいが」
しかし、その言葉を投げかけた張本人は腕を組みながら、何やら必死で考え込んでいるようで。
どうやらその言葉には、深い意味もなさそうだと綾乃は思わず笑みを漏らす。
「煉獄先生ありがとうございます。そう言って貰えるだけでも嬉しいです」
「む?あ、ああ……」
綾乃の呼びかけにハッと我に帰った煉獄は、クスクスと笑う綾乃を見つめ驚いたように目を見開く。
〝今のは何だ……?〟
先日と同じように、黒い服を着た少女の面影が一瞬綾乃と重なって見えた。
「……先生?」
「あ、ああ……」
「ふふっ、先生こそ大丈夫ですか?あまり無理しないでくださいね?」
「いや、そうだな……すまない」
珍しく歯切れの悪い返事を口にした杏寿郎に、綾乃は不思議そうに首を傾げた。