第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「はぁ……」
綾乃が鬼滅学園に編入して一ヶ月。
新学期が始まったばかりだと言うのに、綾乃は重苦しいため息を落としていた。
しかし、今は授業中。
炭治郎は慌てて綾乃へと声をかける。
「……綾乃!前、前っ」
「ん?何?前がどうかした…の……」
だが時すでに遅し……
綾乃の目の前には白衣がチラつき、恐る恐る顔を上げれば此方を見下す青緑と黄の二色の瞳に射抜かれる。
「…ほう。俺の授業で余所見をするとは、よほど貴様は科学に自信があるようだな」
「………へ?いや、あの……すみません」
「何故謝る?ああ、そうか。俺に教わる気はないとでも言いたいのか。それとも、貴様の耳は飾り物で、俺の声が届かないとでも言うのか。」
「そんなっ、ちがくて……これは……」
「ふん……言い訳を聞く気はない。放課後、またここに戻ってこい。」
綾乃の言葉を一刀両断にした伊黒はくるりと背を向け教卓へと戻って行く。
それを呆然と見送った綾乃は、放課後に待ち受けるであろう嫌味の数々を想像し、顔を青褪めるのだった。
******
「ではまた明日!!皆んな気をつけて帰るんだぞ!!」
元気よくホームルームを締め括った杏寿郎の一言に、綾乃は小さくため息を吐く。
「綾乃、今から伊黒先生の所へ行くのか?」
「だ、だ、だ、大丈夫!?伊黒先生って赤点取る生徒を磔にしてペットボトルロケットをぶつけるようなヤバい教師で………俺達も一緒に着いて行こうか?」
そのため息の訳を知る炭治郎や善逸は、綾乃を心配し声をかけるがそれが返って彼女の不安を煽っていく。
因みに伊之助は、里親のひささんが今日は天ぷらを揚げてくれるとかで、ホームルームが終わるや否や我先にと教室を飛び出して行った。
「二人ともありがとう。でも一人で大丈夫だよ?流石に伊黒先生もそんな仕打ちはしないだろうから」
「そうだよな。いくら伊黒先生でも女子生徒相手にそんな事はしない筈だ、きっと………でも、もしも何かあったら大声で助けを求めるんだぞ?」
「え………」
頬を引き攣らせる綾乃に、炭治郎は何とも不吉なアドバイスをして善逸と共に帰って行った。
だが、そんな事を言われれば、不安と言うのばどんどん増すばかり……
重い足取りで第一物理室の前までやってきた綾乃は、自分を落ち着かせるために深呼吸を繰り返すと、緊張した面持ちで扉を小さくノックした。
「山本です。…‥伊黒先生、入ってもいいですか?」
本当は入りたいくない気持ちを押し殺し、遠慮がちに問いかければ、遅い…と返された小さな声。
それからスッと開かれた扉の先に、目を細めて此方を睨みつける伊黒の姿を捉え、綾乃は顔を青褪めた。
「一体いつまで待たせるつもりだ……」
「す、すみません……」
スタスタと扉に背を向け歩き出した伊黒に釣られ綾乃も慌てて扉を閉めると、彼が座った席の向かいに戸惑いながら腰掛けた。
その際、彼の首元にいる白蛇に思わず視線を奪われていれば、じーっと此方を観察していた伊黒は目を細めながら口を開く。
「それで?」
「え……あ、えっと」
「授業に集中出来ない理由はなんだ?本当に耳が飾りな訳では無いだろう」
そこまで言って視線を逸らした伊黒は大きなため息を落とすと、鼻から分かりきっていたように呟いた。
「どうせお前の事だ……煉獄の事で頭がいっぱいだったんだろう」
「っ、」
「ふん、その顔は図星か。お前たちは昔から手が掛かる奴らだったが……まさか時代が変わった今も迷惑を掛けられるとはな」
此方の身にもなって欲しいものだ、
そう続けた伊黒の言葉に綾乃は驚きのあまり動きを止めた。
だがそんな綾乃に構う事なく、彼は饒舌に語り始める。
やれあの時は、もどかしいお前達の関係に甘露寺がヤキモキして大変だったとか。煉獄の仇を討つと躍起になったお前を、甘露寺が心底心配していたとか。
どう考えても前世を覚えているかのような発言の数々と、その言葉の端々に登場する彼の思い人の名前に、綾乃も漸く口を開く。
「伊黒…先生も、記憶をお持ちなんですね」
「なんだ、そんな事すら気づいていなかったとは……やはりお前はつめが甘いな」
呆れたように呟いた彼に曖昧な笑みを返しながら、綾乃は静かに口を開く。
「そう…ですね。私はいつも最後の最後で誰かの助けを借りながら生きてきましたから……きっと爪が甘いんでしょうね」
「ふん、何を今更言っている」
「ははっ、……本当に。皆の助けがなければ、私なんてヘナチョコですから」
そう呟いて俯いた綾乃に、彼は大きくため息を吐くと、それが分かっているなら周りを少しは頼る事だなと口を開いた。
「この学園には記憶を持ち合わせた者も多くいるが、煉獄のように忘れ去っている者達も勿論大勢いる。」
「……はい」
「しかし、その想いを諦める必要もなければ、それを一人で抱え込む必要もない」
その一言に綾乃はピクリと反応を見せた。
それを視界に捉え、無意識に口角を上げた彼はどうせそんなに器用でもないんだからな…と続けると眉を再び吊り上げて、ネチネチと小言を口にし始める。
「これで授業に集中できる筈だろう。……全く何故俺がこんな役回りをやらなくてはいけない」
「…ふっ、ふふ」
無意識に煉獄のことを諦めようと力んでいた体から自然と力が抜けていく。
それに釣られて無意識に口角を吊り上げれば、調子に乗るなと怒鳴られて、綾乃は思わず吹き出した。