第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
春ー……、
桜が舞うこの季節ともなれば、学生達が通うこの学舎も、一層と賑やかさを増すものだ。
……出逢いがあれば別れもある。
人と人とを繋ぐこの季節に心躍らせる者もいれば、
「えっ、綾乃さん!?」
「……炭治郎君」
彼女のように頭を悩ませる者もいる。
生徒も教師も……
見知った顔ばかりの学園に、綾乃は思わず頬を引き攣らせていた。
******
新学期を迎えた生徒達は、新しいクラスに少々浮かれ気味だった。
それはここに居る彼も同じ。善逸は興奮気味に口を開いた。
「聞いたか炭治郎〜っ!!このクラスに転校生が来るらしい……しかも女の子ぉぉ〜っ!」
「善逸、分かったから少し落ち着いたらどうだ?」
「これが落ち着いていられるか!?もしも、もしもだよ?転校生の隣になっちゃって〝……お友達になって貰えませんか?〟なんて言われたら……俺どうしたらいいんだぁぁぁあ〜」
頬を赤く染め自身の体を抱きしめた善逸が、くねくねと奇妙な動きをするのを尻目に、炭治郎は大袈裟なほど大きなため息を吐いた。
きっと耳のいい善逸の事だ。
先生達の会話が聞こえてきたのだろうが……、
「そうか、じゃあ禰󠄀豆子には俺から言っておくよ!善逸が転校生に鼻の下を伸ばして「わぁぁー…駄目だめっ!!冗談だってば!!」
ぎゃーぎゃーと浮かれている善逸に、炭治郎が呆れながら口を開けば、教室の戸がガラリと開き、担任の煉獄が顔を出す。
「やあ、皆んなおはよう!!今年一年よろしく頼むぞ!!さあさあ、君たちに紹介したい生徒がいる、皆席に着いてくれ!!」
そう言って教室に入ってきた煉獄に、生徒たちはそれまでの喧騒はどこへら……
興味津々といった様子で慌てて席に着いていく。
そして、程なくしてしーん…と静まった教室。
何とも入りづらい状況に、綾乃は思わず頬を引き攣らせたのだが、結局は煉獄に促され、恐る恐るといった様子で教室内へと足を踏み入れ……
「えっ、綾乃さん!?」
そして、冒頭の台詞に繋がるわけである。
ガタンッと椅子を鳴らしながら、突然立ち上がった炭治郎に、皆の視線も集中する。
「……炭治郎君」
一方の綾乃はというと、ぽつりと彼の名前を呟いたかと思えば、困ったように眉を下げていた。
そんな彼らを眺めて、満面の笑みを浮かべた煉獄は綾乃にワハハと笑いかける。
「よかったな、山本!竈門少年とも知り合いとは……何か分からない事があれば、竈門少年に色々と聞くといい!!」
「……はい」
「皆にも紹介するが、家庭の事情でこの春から新しくきめつ学園に通うことになった山本だ!!」
「……あ、えと山本綾乃です。……宜しくお願いします」
煉獄に促されるまま静かに頭を下げた綾乃は、その後彼の計らいで、炭治郎の隣の席へと案内された。
「竈門少年宜しく頼んだぞ」
最後にそう一言呟いて、今年度の学級委員の取り決めについて話し出した煉獄に、綾乃は小さくため息を漏らした。
******
朝のホームルームが終わるまで、炭治郎からの視線に耐え続けた綾乃は、漸く訪れた休み時間に、徐に彼へと口を開いた。
「炭治郎君、あの時は……ごめんなさい」
「綾乃さん、謝らないといけないのは俺の方です……貴方を守れなかった。謝って済む事じゃないけれど、ずっと後悔していました」
その言葉に綾乃は自ずと理解した。
やはり炭治郎も前世の記憶を持ち合わせ、あの最後の決戦を覚えていたのだろう。
彼は心優しい少年だ。
あの時、炭治郎の制止を振り切り、命を落としたのは自業自得で。彼は1ミリたりとも悪くないのに、思い詰めたように頭を下げるものだから、綾乃は思わず眉を下げた。
「炭治郎君が謝る事なんて、何もない筈よ?……それより、折角こうしてまた会えたんだもの。再会を喜びましょう?」
「……綾乃さん」
「あ!それから、綾乃さんなんて他人行儀じゃなくていいし、敬語もいらない。今はただの同級生なんだから」
「はい、いや……うん、そうだな!これから宜しく綾乃!!」
そう言って炭治郎が笑いかければ、それまで黙って聞き耳を立てていた善逸が、すかさず後ろから声を上げる。
「おい、炭治郎!!なんでお前綾乃ちゃんとお知り合いなんだよ〜!」
「え?……善逸は綾乃さんの事、知らなかったのか?同じ鬼殺隊士だった筈だけど」
「なっ、そんな……俺は「おい、綾乃!!」ふぎゃっ」
善逸が炭治郎に詰め寄った瞬間、横から前をはだけさせた美少年が突っ込んできて、善逸を弾き飛ばした。
その際、善逸から短い悲鳴と、ゴンッ…となんとも痛そうな音が響いたが、やってきた本人は気に留める事はない。
「綾乃!今度こそ俺の子分になれ!!」
「へ?」
「……伊之助、やめないか!綾乃が困ってるだろう?」
戸惑う綾乃を庇い炭治郎が口を開けば、聞き覚えのある名前に綾乃は思わずフリーズする。
……イノスケ?……いのすけ?……伊之助?……って、あの猪の?
昔何度か任務を一緒にこなした後輩隊士の名前だが、あの頃猪の頭の下を見たことがない綾乃は、じーっと伊之助を観察する。
「あ?なんだよ、ジロジロと……ああ、ツヤツヤのどんぐりが欲しいのか!!子分になるなら上げてやってもいいぜ?」
そう言ってズボンのポッケからどんぐりを取り出した彼は、どう見たってあの時の猪君で、綾乃はクスクスと笑みを漏らした。
「ふふ、ありがとう親分!これから宜しくね?」
悪戯に笑ってみせた綾乃の様子に、炭治郎も釣られて口元を吊り上げた。
「なんで伊之助まで知り合いなのォォ〜!!」
「うるせーな、紋逸!騒ぐんじゃねェ!!」
「善逸な、ぜ・ん・い・つ!!」
「あ?そんなのどっちでもいいじゃねーか」
それから暫く、善逸はぐすんと泣き真似をしながら臍を曲げていたのだが……、
綾乃に友達になろうと提案されると、あっという間に機嫌を取り戻し、嬉しそうに高く飛び跳ねていた。