第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
人を脅かす鬼がいれば、刀を握り人々をその悲しみから救おうとする者達もいるーー。
「綾乃、其方の鬼は君に任せる!!……くれぐれも無茶だけはしてくれるなよ」
「はい。杏寿郎さんもお気をつけて」
そう声をかけ合うと、チラリと視線を合わせた彼らは別々の方向へと駆け出した。
******
鬼殺隊ーー。
それは人に仇をなす鬼を日夜狩る者達のこと。
その存在を知る者達からは鬼狩り様と崇められ、深く感謝されている。
それこそ親の代から、子の代まで、代々その話が受け継がれて行くほどに。
それが、政府非公認組織〝鬼殺隊〟である。
「杏寿郎さん、お疲れ様です」
「うむ!其方も粗方片付いたか?流石は俺の自慢の継ぐ子だ!!」
「……ありがとうございます」
そして、ほんのりと頬を染めたこの少女、山本 綾乃もまた、鬼殺隊に属する隊士である。
だが、それは今よりもずっと昔ー……、
俗に言う〝前世〟という奴で、彼女はこの世に再び生まれ変わった今もまだ、過去の記憶に囚われたまま……
何一つ忘れることなく、今世の山本 綾乃として過ごしているのだ。
「え……あれ?編入テストはないんですか?」
「その事なら気にすんなァ……既にお前は、四月からこの学園の生徒になる事に決まってるからなァ」
「えっ!?そんな、特別扱い……いいんですか?」
「うむ!!うちの理事長は心優しいお方でな!!君の事をとても気にかけていたからな!!」
そして、今ー……
目の前で腕を組む傷だらけの男や、満面の笑みで頷いた派手な髪色の男も、彼女の前世の記憶には登場していて、綾乃はなんとも言えない感情のまま彼らの会話に耳を傾けていた。
前世の彼らは、綾乃の上官にあたる鬼殺隊士で、見た目は勿論、そのやり取りはあの頃と何ら変わらない。
そんな二人の会話に懐かしさを感じながら、綾乃はチラリと視線を移す。
歴史の教師をしていると挨拶をしてくれた彼は、綾乃の記憶の中では、自身の恩人で、師範で、恋人で……
煉獄は何も覚えてはいないのだろうが、綾乃が彼を忘れたことなど、今の今まで一度もありはしなかった。
******
それは昔、綾乃がまだ大正の時代を生きていた頃ー……
綾乃は幼い頃、両親を流行病で失い、祖母と二人で暮らしていた。
祖母はとても厳しい人で、まだ幼い綾乃に家の事をあれこれと手伝わせ、自分の事は自分でしなさいと口癖のように、毎日綾乃に言って聞かせた。
それは将来綾乃が一人でも生きて行けるようにと、生い先短い祖母が、綾乃の為にと教え込んだ優しさだった。
それを理解できるほど当時の綾乃は大人ではなかったが、よくやったねと大好きな祖母に褒めてもらえるのが嬉しくて、嬉しくて……
世の子供達が、母や父に甘えるような……そんな微笑ましい幼少期の思い出はなくとも、綾乃にとって、祖母との暮らしは本当に幸せなものだった。
しかし別れというものは、本当に突然訪れる。
綾乃が十五になる年、
祖母は鬼に襲われ命を落としたのだ。
あの日、二人で畑から帰る途中、突然鬼に出会した二人は、必死で納屋に身を隠した。しかし、すぐに鬼に追いつかれ、祖母は綾乃を守るため、納屋から一人飛び出したのだ。
絶対に出ては行けないと優しく笑いかけ、自慢の孫だと頭を撫でてくれたあの時の祖母の表情は、今でも忘れる事はない。
祖母が飛び出して数秒、響き渡る叫び声……
ケタケタと笑うきみの悪いその声に、綾乃の頬を涙が伝う。
だが、大好きな祖母の最後の言いつけを守り、息を押し殺し涙を呑む綾乃を、鬼は最も簡単に見つけ出した。
「可哀想にィィ……そんなに泣いてどうしたァァァ?」
そう言ってニタリと笑った鬼の姿に、もう駄目だと、綾乃が諦めかけたその瞬間、
「炎ノ呼吸 壱ノ型 不知火!!」
それを助けてくれたのが、今目の前で豪快に笑っている煉獄杏寿郎、その人だった。
彼は、祖母を失って自暴自棄になっている私に、生きる意味ならこれから探せばいい!と励ましてくれた。
私に生きる意味を与えてくれた。
身寄りのない私を家に招き入れ、自身の継ぐ子にと剣術を教えてくれた。
復讐ではなく人を守る為に振るう刀だと、弱き人を助けることは強く生まれた者の責務だと、彼は心のあり方を教えてくれた。
「綾乃は、人の心に寄り添える……優しく強い心の持ち主だ!!」
そう言って笑いかけてくれる彼の笑顔に、私の心はいつも救われていたのだ。
「山本、四月から君に会えるのを楽しみにしているぞ!!君も、歴史の授業を楽しみにしていてくれ!!」
「はい。きょ、う……煉獄先生」
だから、こうして彼が自分のことを何も覚えていない事実は、綾乃の心に深く、深く突き刺さる。
あの頃と何も変わらないようで、全て変わってしまった関係に、綾乃は思わず眉を下げた。
そして、そんな二人のやり取りを静かに見守る不死川もまた、綾乃を心配そうに見つめて、人知れずため息を漏らすのだった。