第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ここは小中高一貫の私立校、きめつ学園ー……。
この学園に通う生徒達は個性豊かな者が多く、それを指導する教師達もまた、曲者揃い。
そんな学校は、本来ならば賑やかな声が溢れる場所なのだがー……
週末を迎えた今日ばかりは、しーんと静まり返っている。
そんな中、外から聞こえる野球部の掛け声に耳を傾けながら、不死川は気怠そうに長い廊下を歩いていた。
******
本日は土曜日。
本来ならば学校も休みなのだから、教鞭をとる彼もまた楽しい休日を迎える予定でいた。……といっても、下の弟妹達の面倒で忙しくしているか、趣味で飼っているカブトムシを眺めて過ごしている事が多かったりするのだが。
……とまぁ、そんな計画だったのだが、数日前突然校長室に呼び出された不死川は、校長のみならず理事長直々に、転校生を受け入れる事になった為休日出勤してくれないかと頼み込まれてしまったのだ。
……そして、昔からどうにも産屋敷一族に頭が上がらない不死川はというと、それに迷う事なく頷いて、今に至るという訳である。
〝この時期に転校生かァ……どうせまた、前世に縁がある奴なんだろうが……〟
どうしてこうも顔馴染みばかりが集まってしまうのかと、隣を歩く同僚に視線を移し、人知れず大きくため息を落とした。
「んで、その生徒はいつ来る話になってんだァ?」
「うむ!校長の話では、そろそろの筈だが……」
そう言って窓の外へと視線を移した煉獄は、どうやらあの少女のようだな!!と満面の笑みを浮かべて頷いた。
それに釣られて窓の外を覗き込んだ不死川は、その少女の顔を確認し、思わずピタリと動きを止めた。
「不死川、どうした!!……よもや、あの少女と顔見知りなのか?」
「……いや、……そうじゃねーがァ……まぁいい。生徒が来てんだ、早く行くぞォ」
珍しく歯切れの悪い不死川の様子に、煉獄は不思議そうに首を傾げる。
そんな彼の視線の先では、他校の制服に身を包む、整った顔をした少女がキョロキョロと忙しく首を動かしていた。
……きっと新しい学校に不安がっているのだろう。
そう思い至った煉獄が、それに大きく頷くのを尻目に、不死川は再びため息を落とした。
〝……アイツも全部忘れてるといいんだがな〟
前世の記憶と変わらぬ少女の姿に、不死川は重い足取りで校舎の入り口を目指すのだった。
******
職員呼び出し用のボタンを押し、校舎入り口で待機していた綾乃は、此方へと歩いて来た二人の姿に、思わず目を見開いた。
あの頃同様傷だらけで、首元のボタンも止めていない不死川の隣で、………誰よりも焦がれた優しい笑みを浮かべる彼に、息を吸う事も忘れてその顔を凝視する。
「すまない!待たせてしまったな!!」
「っ、……」
「君が校長の言っていた山本 綾乃君で間違いないか?」
「……え?……あ、私はその……」
「ああ、自己紹介が遅くなって申し訳ない!!俺はこの学校で歴史を教えている煉獄杏寿郎だ!!それから此方にいるのが数学教師の不死川だ!!」
そう言ってニカッと満面の笑みを浮かべた煉獄に、綾乃はオロオロと視線を彷徨わせた後「…… 山本 綾乃です」と小さな声で挨拶をした。
……あの頃と何も変わらない。
太陽のように心を照らしてくれた最愛の彼が、自分のように再び生を享け、今、目の前にいること。
だけど、きっと……彼には自分のように前世の記憶があるわけではないこと。
にこにこと笑いながら、この学校の説明をし始めた煉獄を眺めながら、綾乃は困ったように眉を下げた。
再び会えて嬉しいような……
自分を覚えていてくれなかった事が悲しいような……
だけどやっぱり、前世の壮絶な死を覚えていなくて良かったような……
そんな複雑な感情が入り混じり、綾乃は何だか泣きそうになって俯いた。
すると、ふいに頭にぽふっと乗った軽い重み。
そのまま乱暴にガシガシと頭を撫でていった掌に、綾乃が驚いたように顔を上げれば、それに大きくため息を落とした不死川は、呆れたように口を開いた。
「……あんま、無茶ばかりすんじゃねーぞ!」
「……え?」
その一言に驚いて不死川を見上げた綾乃は、心配そうに眉を下げた彼の表情に、もしや自分と同じように彼にも昔の記憶があるのでは?という考えが過ぎる。
「………実弥、さん?」
ぽつりと名前を呟けば、すぐ様先生だと呼び方に注意をされたが、そのまま頭をぽんと撫でて離れていったその腕に、その表情に、やはり記憶があるのだろうと確信する。
「不死川、やはりその少女と知り合いだったのか!!」
「あァ?」
そんな彼らを見守る煉獄が、キョトンと首を傾げれば、彼はまぁな……と言葉を濁し、再び綾乃へと声をかける。
「校長から、家庭の事情は聞いてる。何かあれば、相談しろよォ?…遠慮なんかすんじゃねーぞ」
「不死川の言う通り!!ご家族の事、新しい暮らし、……心配事は多いだろうが、少しでも困った事があれば俺達を頼るといい!!」
不死川に釣られて、綾乃へと煉獄も言葉を続けた。
「……ありがとうございます」
それに、小さくお礼を口にした綾乃が、ゆるりと頭を下げたのを確認し、煉獄は大きく頷いた。
「……では、編入についての説明をしていこう!!」
そう言って、くるりと背を向け歩き出した煉獄に、綾乃もゆっくりと歩き出す。
「不死川、知り合いだからと言って、生徒とあまり距離が近すぎるのは感心しないな!!」
「そんなんじゃねーよ、安心しろォ……」
先を行く彼の隣では、不死川が呆れたように口を開く。
その後ろを、あの頃のようについて歩いている筈なのに……
あの頃とは全く違う……
彼は私の恋人でもなければ師範でもない。
今は唯の生徒と教師なのだ。
予期せぬ出会いに綾乃の心境はぐちゃぐちゃのままで……、
昔の想いに押し潰されそうになりながら、前を歩く煉獄の背中を見つめるのだった。