第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鈴が食事を用意する間、居間にて見つめ合うようにして座る煉獄と冨岡の間には、なんとも言えない空気が漂っていた。
「冨岡に幾つか聞きたい事があるのだが、 鈴は、……こうしてよく、君に料理を振る舞うのだろうか?」
「…………ああ」
「一緒に、稽古をしたり?」
「…………そうだな」
「よもや、一緒には暮らしてはいないだろうな?」
何故煉獄が、険しい表情で妹弟子について問いかけてくるのかが理解できず、冨岡は不思議そうに首を傾げた。
「…………一緒には暮らしていない」
「そうか!!ならば安心「たまに泊まっていくだけだ」
冨岡のその一言で、煉獄は完全に固まってしまった。
そんな彼を見つめて、冨岡は考えを巡らせる。
……もしかしたら、煉獄も近くまで立ち寄った際には、此処に泊まりたい……と言う意味だっただろうか。
しかし、人を招く……とは、一体何をしたらいいのだろう。それこそ鈴がいれば、きっとテキパキと世話を焼くのだろうが、生憎いつも彼女がいる訳ではないのだ。
……だが、煉獄にはいつも声をかけて貰ったりと、普段から世話になっている訳だし……出来ることなら泊めてやりたいが、どうしたものか……
全くの見当違いの考えを巡らせる冨岡と、そんな冨岡と鈴の距離感にひどい嫉妬心に駆られている煉獄は、お互い無言のまま、それぞれ別々の問題に頭を悩ませていた。
******
そんな可笑しな空間に、明るい鈴の声が響く。
「煉獄さん、お待たせしました。義勇、運ぶのを手伝って貰える?……って、あれ?二人とも、どうかした?」
ひょこっと扉から顔を出した鈴は、何やら険しい表情の二人を交互に見やり、首を傾げた。
「えーっと……ご飯ができたんですが、難しい話をしているなら、もう少し後にしますか?」
「いや、大丈夫だ!!それより、一人で食事の準備をさせてしまって、すまない。俺も運ぶのを手伝おう!!」
「い、いえ。そんな事お気になさらないでください。煉獄さんはお客様なんですから」
そう言って眉を下げた鈴は、未だに座ったままの冨岡に気づき、呆れたような視線を送る。
「………鮭大根」
その一言にピクッと動きを見せた冨岡に、鈴は一つため息を落とした。
「折角作ったのに…「よし、手伝おう」
「ふふっ、最初から素直に手伝ってくれればいいのに……煉獄さん、今お持ちしますね」
「む?あ、ああ……」
突然すくっと立ち上がり、スタスタと部屋を出て行った冨岡に、煉獄が呆気に取られていれば、鈴から声をかけられて、煉獄は曖昧な返事を返す。
しかし、鈴はそれを気にすることなく、冨岡の後を追うように部屋を出ていき、何やら大きな鍋を手に帰ってきた。
「すみません、お待たせしました!!」
「いや、わざわざすまないな……それにしても、大きな鍋だな」
「ああ、これは義勇の好物なんです。いつもこれだけはおかわりするので、煉獄さんもいらっしゃるし、今日は多めに作りました。」
そう言ってニコリと微笑んだ鈴の後ろからは、冨岡もお盆を片手に持ち、反対の手にも器用におひつを支えながら帰ってきた。
それらを受け取った鈴が、いそいそと器を並べていけば、よくまぁ短時間でこんなに作ったものだと感心してしまう。
山盛りに盛られた米に、漬物や、味噌汁、鮭大根に、魚の干物と……ご馳走を前に、腹の虫も暴れ出す。
「む?これは?」
「あ、煉獄さんもご存知ですか?最近私も知ったばかりなのですが、大学芋って言うらしいです。作り方を聞いたので、試しに作ってみました……上手くできてればいいんですが」
「初めて作ったとは思えんな!!とても美味そうだ!!」
「お口に合えばいいんですが……さぁ、煉獄さんも、温かいうちに召し上がって下さい。」
そう言って柔らかく微笑んだ鈴から視線を逸らせば、もう既に黙々と料理へと箸を伸ばす冨岡が目に入る。
「では、お言葉に甘えて、早速頂くとしよう!!」
煉獄も目の前の男に習い、一口料理を口にした。
「うまい!!」
「わっ、……び、びっくりしました。」
次の瞬間、煉獄が大声で叫ぶものだから、鈴は軽く悲鳴を上げた。
そんな鈴を気に留めることもなく、彼の箸はもの凄い勢いで、料理を口へと運んでいく。その度に、うまい!うまい!と連呼するその姿に、鈴は驚いて彼を凝視する。
「む?どうかしたのか?」
「いえ、……あまりにも、美味しそうに食べていただけるので」
「ああ!君の料理はどれも美味いな!!特にこの大学芋とやらは、とても優しい味付けで、気に入った!!」
「そう言って貰えると、作った甲斐があります。まだまだ沢山ありますので、おかわりが必要でしたらお申し付け下さい」
「うむ!!早速頂こう!!」
ぱあっと満面の笑みを浮かべて、空の茶碗を差し出す煉獄に、鈴はクスクスと笑みを漏らす。
「義勇も、鮭大根おかわりする?」
「頼む」
はいはい、と笑いながら鈴がそれらを盛り付ければ、受け取った二人はまた料理へと箸を伸ばす。
〝そういえば、初めて煉獄さんに会った時も、蜜璃ちゃんと沢山ご飯を食べてたっけ……〟
つい最近の筈なのに、余りにも濃い出来事が続きすぎた為、すっかり忘れ去っていた。
鈴がチラリと横を盗み見れば、モグモグと口を動かしている煉獄は、勢いこそ凄いものの、行儀良く料理を口に運んでいる。さすがは、代々鬼殺隊の柱を継承している名家の御坊ちゃんである。
そんな彼を見つめていれば、ふと顔を上げた煉獄は、兄弟子を見つめて目を見開いた。
「……冨岡が笑っているところを初めて見た」
ぽつりと呟かれたその言葉に、鈴は堪らず吹き出した。
「ふふっ、義勇は、鮭大根に目がないんです」
鈴がクスクスと笑っていれば、どこで不機嫌になったのかは知らないが、突然煉獄は眉間に皺を寄せた。そのまま険しい表情の彼はむむ、と腕を組んで唸り始める。
「…‥煉獄さん、どうされたんですか?」
「薩摩芋の味噌汁」
「へ?」
「俺の好物は薩摩芋の味噌汁だ!!」
「そ、そうなんですか……」
何故その話になったのか、と鈴が戸惑いながら相槌を打てば、煉獄はパッと顔を上げた。
「次、手料理をご馳走してくれる時は、是非俺の好物を振る舞って欲しい!!」
「あ、はい…」
「それから是非我が家にも遊びに来てくれ!!」
「えーっと、考えておきます」
「弟の千寿郎を紹介しよう!!泊まって行ってくれても、構わないぞ!!」
「それはちょっと……「君が来てくれれば、千寿郎も喜ぶだろう!!」……あの、煉獄さん?聞いてます?」
戸惑う鈴を置いてけぼりに、煉獄は豪快に笑い声を上げる。
そんな二人を眺めながら、ふむと頷いた冨岡は……
〝此処に泊まりたいのかと思ったが、まさか煉獄家に招きたいと言う話だったのか……今度近くまで行く事があれば、立ち寄るとしよう〟
やはり見当違いな解釈をしているのだった。