第三章
夢小説設定
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昼前から行われていた祝言も無事に終わり、参列していた柱達は、夜の警備に備え、煉獄家を後にする。
それを見送りに煉獄家の面々が部屋を出て行ったところで、手伝いに訪れていた隠達は、漸く肩を撫で下ろした。
「いい祝言だったよね?煉獄様も鈴さんも、幸せ一杯って感じだったし」
「ああ!鈴さんも、めちゃくちゃ綺麗だったしな〜」
「しーー!!……煉獄様に聞こえたら大変よ?」
「そりゃあ、
片付けのために部屋に残った隠達は、どうやら緊張の糸が切れたようだ。
ペラペラと……
文字通り、手よりも口を動かしている彼らは、「恋柱の食べっぷりにはいつも驚かされる」やら、「煉獄家の遺伝子はどうなっているのか」などと、到底柱には聞かせられない話題に花を咲かせていた。
豪快に笑い声を上げる彼らは、当分誰も帰って来ないとたかを括っていたのだ。
「でもよ〜柱があんなにいちゃ、なあ?こっちの心臓がもたないぜ……現柱に加えて、先代の水柱と炎柱も一緒だなんてな」
「ふふっ、そうよね?私も凄い緊張しちゃったわ」
「だよな、……?って、ええ!?鈴さんっ!?」
当然、自分たち以外の存在に気づいていなかった隠達は、びくっと肩を跳ね上げる。
そんな彼らの様子に、部屋の入り口から顔を覗かせた鈴は、くすくすと小さく笑みを浮かべた。
それから後ろ手に襖を閉めると、スタスタと彼らの元へ近づいていき、固まる隠達を他所に、慣れた手つきで食器を片し始める。
「鈴さん!?ど、どうかされたんですか?」
「片付けは俺たちがやりますんで、鈴さんはゆっくりしていて下さい」
それに、慌てて隠が声を上げれば、鈴はきょとんと彼らを見つめた。
「皆んなで片付けた方が早いでしょう?それに、今日はあんなに沢山の料理を作って貰ったんだもの。皆んなの方が疲れているでしょう?」
そう言って満面の笑みを浮かべる鈴に、今度は隠達がきょとんとした表情で彼女を見つめた。
今日は鈴達の祝言で。
彼女は花嫁。今日の主役だ。
それなのに彼女ときたら……
先程部屋を出て行ったばかりだと言うのに、花嫁衣装から見慣れた隊服へと着替えているし、何食わぬ顔で自分たちの手伝いをし始めている。
隠達が驚くのも無理はない。
「じゃあ、私は先に台所でお皿を洗ってるわね」
しかし、彼女はそんなことお構いなしで。
腕まくりをして、大量の皿を手に部屋を出て行った彼女を見送り、隠達は互いに顔を見合わせる。
「……そういえば鈴さんも、煉獄様に負けないくらい面倒見がいい人だったな」
「ふふっ、そうね。似たもの夫婦ってやつじゃないかしら」
そう言って隠達は、くすくすと笑みを溢すのだった。
******
「皆んな、今日は本当にありがとう」
隠たちを見送るため、玄関先まで来ていた鈴は彼らへ深く頭を下げる。
「いえ、俺たちはただお二人の幸せを分けて貰いに来ただけですから!鈴さん、本当におめでとうございます」
「今井さん、…それに皆んなも、本当にありがとう。あ、そうだ!もうそろそろ私も任務に復帰する予定だから、また任務で一緒になる事があったら、その時はよろしくね」
「勿論です!じゃあ、俺たちはこれで失礼します」
そんな鈴に、隠たちは改めて祝福の言葉を送ると、見送ってくれる鈴に何度も手を降りながら、ゆっくりと屋敷を後にする。
そうして皆が見えなくなったころで、彼女は玄関へと振り、ふっと口元を吊り上げた。
「今日は本当に素敵な1日だったな」
そんな独り言を呟きながら、皆の顔を思い浮かべる。
親友の蜜璃をはじめとした柱の皆から、祝福の言葉をもらったこと。
久しぶりに恩師でもある鱗滝に会えて、兄弟子の義勇も嬉しそうにしていたこと。
あまね様と談笑する愼寿朗や千寿郎の姿や、何よりそれを見て嬉しそうに笑う杏寿郎の姿に、自分まで嬉しくなったこと。
「煉獄鈴、か……ふふっ。なんだか照れ臭いなぁ」
幸せな一時を思い出し、鈴は笑みを深くする。
「くっ、…」
しかし、その瞬間、何処からか小さな笑い声が聞こえて、鈴はピタっと足を止める。
そしてキョロキョロと辺りを見まわし……
「きょ、杏寿郎さん!いつから、そこに……」
建物の陰で、にこにこと笑みを浮かべる杏寿郎と目が合い、鈴は反射的に彼に問いかける。
しかし、すぐさま先程の恥ずかしい独り言が聞かれたことを悟り、鈴は思わず頬を赤らめる。
「ん?鈴を探していたら、千寿郎から隠たちの見送りだと聞いてな」
「そう、だったんですか…あ、あの……何か、私に御用でしたか?」
「いや、ただ何処にいるのかと探していただけだが……今日は疲れただろう?千寿郎も今日は家のことは忘れて、ゆっくりするように言って「あ!私、千寿郎君に夕飯の準備、任せっきりでした」
あまりの恥ずかしさに、杏寿郎の言葉を遮るようにして、鈴はこの場を逃げるように玄関の戸に手を伸ばす。
「こらこら、何処へ行くんだ」
「きゃっ、」
だが、そんな鈴の後ろから伸びてきた腕に、あっという間に捕まって。
杏寿郎に後ろから抱きしめられている事に気づいた鈴は、驚きのあまり短い悲鳴をあげた。
「俺の妻は、気配り上手で面倒見がいいからな。それが君の長所なのも勿論分かっているつもりだが……」
「きょ、杏寿郎さん……こんな外で……」
「だが、捕まえておかなければ隠の次は、千寿郎の元へ行ってしまうだろう?やっと鈴を独り占めできたんだ。もう少し一緒にいてくれないか?」
しかし、杏寿郎からの可愛らしいお願いを断れる筈もなく、鈴は恥ずかしそうに小さく頷いた。
そんな彼女の様子に、ありがとうと礼を口にした杏寿郎は、先程の鈴と同じように、祝言での出来事を思い浮かべる。
「今日、俺は、この世で一番の幸せ者だと思い知った」
「…一番?」
「ああ。仲間や、あまね様にも祝福されて…千寿郎も、父上も嬉しそうで」
「ふふっ、そうですね」
「そして、横を見れば優しく笑う鈴がいる。これ以上の幸せはないだろうな」
「杏寿郎さん」
「……鈴、父上を気にかけてくれて、ありがとう」
最後にぽつりと呟いた杏寿郎は、その想いを伝えるように、ぎゅーっと彼女を抱きしめる。
それに応えるように鈴もその腕に自身の手を乗せ、笑みを溢す。
「私こそ、一番の幸せ者ですよ。素敵な家族に迎えて貰えて、杏寿郎さんの隣にいられるなんて……幸せすぎて夢じゃないかと思うくらい」
「む?夢にしてもらっては困るな」
杏寿郎からの突っ込みに、鈴は肩越しに彼を見上げる。
「ふっ、ふふふっ、そうですねっ、……夢じゃっ、こまりますね」
それから堪え切れず笑い声を上げた鈴に、杏寿郎も吊られて笑い出す。
そうして笑い合う二人は、本当に幸せそうで。
玄関先であることも忘れて、暫く抱きしめられたまま、鈴はこの幸せな時間を噛み締めていた。