第三章
夢小説設定
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数日間続いた雨が、まるで嘘のように晴れた、その日ー……。
煉獄家には沢山の鬼殺隊関係者が訪れていた。
その中には、普段は忙しい日常を送っている柱の面々や、鈴の育てであり、元水柱を務めた鱗滝。
更には当主代理として、あまね様までもが姿を連ねた。
そして、そんな彼らを見渡して口角を上げた杏寿郎は、徐に頭を下げて口を開く。
「今日は俺たちの為に集まってくれたこと、心から感謝している!!まだまだ至らぬ所もあるだろうが、これからは夫婦で支え合い、少しでも鬼殺隊の力になれるように精進していこうと思う!!本当に今日はありがとう!!」
そう言って杏寿郎が顔を上げると、その清々しい笑みに吊られて、参列者からも笑みが溢れる。
「いいぞー!煉獄、派手にやれー!」
「……宇髄さん、今日はいつにも増して五月蝿いですね」
「仕方ないわよ、しのぶちゃん!!鬼殺隊一、お似合いの二人だもの!長年、煉獄さんの恋路を応援してきた私としても、二人の結婚には胸が踊るわ!!ドキドキしちゃう!!」
「……甘露寺さんまで……まぁ、でも、そうですね。お二人を見守って来た身としては、確かに感慨深いものがあります。思えばあの熱烈な求婚から、随分と鈴さんも苦労されて…」
「熱烈な求婚ッ!?しのぶちゃん!!その話、もっとよく聞かせて!!」
皆に聞こえるほどの大声で、それぞれの思いを口にし始めた友人達に、杏寿郎の隣に座る鈴は恥ずかしそうに頬を染める。
この日、煉獄家では、沢山の参列者に見守られる形で、杏寿郎と鈴の祝言が執り行われていた。
皆が皆、笑顔で二人を祝福し、今だけは戦いを忘れて幸せな未来の話に花を咲かせる、そんな中。
……ただ一人。
煉獄家当主である、父、愼寿朗だけは、何処か緊張した面持ちで終始顔を俯いていた。
それというのも、つい数ヶ月前まで酒に溺れ、全てのことから目を背けていたのだ。
命懸けで鬼と戦い続ける彼らを前に、愼寿朗は後ろめたい気持ちで一杯だった。
そして、そんな父の姿を時折気にする杏寿郎の姿には、鈴も勿論気づいていて。
心配そうに眉を下げた鈴は、俯く愼寿朗を見やると、彼と交わした言葉を思い出していた。
******
数日前。
鈴は愼寿朗に呼び出され、彼の部屋を訪れていた。
「日中の稽古で疲れているところ、急に呼びつけてしまって申し訳ない」
「いえ、そんな…稽古と言っても少しずつ体を動かし始めただけですし。それに今は任務もありませんから、丁度暇を持て余していたところです」
そう言って鈴が笑いかければ、愼寿朗はぽりぽりと頬をかきながら、少しぶっきらぼうに話し始めた。
それは鈴の怪我の具合を心配する言葉から始まり、この数日、杏寿郎から鈴の話ばかりを聞かせられていた事。
さらには、千寿郎が姉ができたと喜んでいた事など、たわいもない話ばかりだったが、その言葉はどれも節々に優しさを感じるものばかりで。
最後にチラリと鈴を見やり、煉獄家での暮らしで不便はないかと問いかけた愼寿朗に、鈴はふっと口元を緩ませた。
少し前まで塞ぎ込んでいたとは聞いていたが……
面倒見がよく優しい所は杏寿郎にそっくりで、流石は親子だと、鈴は一人感心する。
「杏寿郎さんも千寿郎君も、とても良くしてくれていますし、愼寿朗様もこうして気にかけて下さって……こんなに素敵な家族の一員として迎えて下さったこと、感謝しかありません」
「……大袈裟だな。そんな大した事はしていないと思うが」
「ふふっ、そうかもしれません。でも、私にとってはとても幸せで、特別な事でしたので」
そう言って頬を染める鈴の様子に、愼寿朗は面食らったように彼女を見つめた。
それから、ふっと口元を吊り上げると、彼女を呼びつけた本題を話し始める。
「今日呼び出したのは他でもない…… 鈴さんにお願いがあってな」
「……お願い、ですか?」
「ああ、少し待っていてくれ」
そう言って立ち上がった愼寿朗は、部屋の隅にある箪笥から鮮やかな着物を手にして戻ってきた。
それを鈴の前へ差し出すと、懐かしむように着物を撫でた。
「愼寿朗様、これは?」
「これは、杏寿郎の母……瑠火が、私との祝言の時に着ていたものだ。妻が亡くなってから、妻のものはずっと箪笥に仕舞い込んでいたが……もし良ければ、杏寿郎との祝言でこれを着てくれないだろうか?杏寿郎も、……妻もきっと喜ぶだろうから」
「え……でも、そんな大切なものを私が着てしまって良いのでしょうか?」
「ははは、鈴さんだからだよ……私にとっても、鈴さんが私たち家族の一員となってくれることが、幸せで特別に思えたから、これを鈴さんに託したいと思ったんだろうな」
そう言って笑みを深くした愼寿朗は、やっぱり杏寿郎にそっくりで。
でも彼とは何処か違う……まるで全てを包み込むような優しさに、きっとこれが父親というものだろうと、あの時は胸が熱くなった。
******
優しくて、不器用な人だから、きっと全てを一人で抱え込んで…
暗闇に閉じこもってしまったことを恥じ、負い目を感じているのかもしれない。
そんなことを考えながら、鈴が心配そうに愼寿朗を見つめていれば、俯く彼に近寄るあまね様の姿が目に入る。
賑わいを見せる会場では、二人の会話までは分からないが、くしゃりと顔を歪ませた彼に優しく笑いかけるあまね様。
それを隣で困ったように……、でも何処か嬉しそうに見つめる千寿郎の姿と、そんな彼らに、自身の師である鱗滝が近寄って行くのを視界に捉え、鈴は肩を撫で下ろす。
結局、部屋の隅にいる彼らがどんな会話を交わしたのかは分からない。
しかし、何度もあまね様に頭を下げる愼寿朗と、笑顔で何やら受け答えをする千寿郎。そして、腕を組みながら頷く鱗滝の姿に……
これを機に少しでも彼の中のわだかまりが減っていけばと、鈴は口元を緩ませる。
それから、ふと、すぐ横にいる杏寿郎を見上げれば、彼の目にも同じ光景が映っていたようで。
「ふふっ、杏寿郎さん良かったですね」
「む?……ははっ、そうだな!!」
何がとまで言わずもがな、笑顔で返事をした杏寿郎は、鈴を抱き寄せ楽しそうに口を開く。
「わっ、きょ、杏寿郎さん!?」
「ハハハ!!鈴に出会ってから、俺の人生は色鮮やかになった!!鈴に出会えて、俺は本当に幸せ者だ!!」
皆が見ている前で抱きしめられた鈴は、もうそれは真っ赤な顔をしていたが、彼女を抱き寄せる杏寿郎は呑気に高笑いをしているだけ。
「はぁ……、また杏寿郎は調子に乗って」
「ははっ、ですがそう言う父上も、嬉しそうに見えますよ」
「誰が、そんな……」
照れ隠しで千寿郎の言葉を嘲笑う素振りをみせた愼寿朗だったが……、
「まぁ、今日くらいなら多めに見てやるか」
「はい!兄上もあんなに嬉しそうですしね」
幸せそうな二人の姿を盗み見た愼寿朗は、ふっと小さく笑みを溢した。