第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
窓から差し込む光。
それからカーテンを揺らした心地よい風に、煉獄は静かに顔を上げた。
「カーッ、面会ノ許可ガ取レマシタ」
そこへタイミングよく鎹鴉が降りたつと、煉獄は徐に立ち上がり相棒に向かって手を伸ばす。
「要、突然の申し出で驚いただろう」
「……杏寿郎様」
「だが俺の意見を尊重してくれたこと、感謝している。よく今日まで共に戦ってくれた」
そう言って優しく羽を撫でた煉獄は、ふっと口元を緩ませると後ろを振り向き口を開く。
「………鈴にも…気を遣わせてしまうだろうな」
あの任務より未だ目覚めぬ恋人を見つめながら、煉獄は静かに目を伏せた。
******
吉原での任務から2週間あまり。
あの任務で重傷を負った隊士達は未だ意識を取り戻していない者ばかり。
それは目の前で眠る恋人も同様でー……
一人仲間を守るために必死で刀を振り続けた鈴の背中。
その光景を思い出す度に、煉獄は自分の不甲斐なさを思い知る。
弱き人を守る為、大切な仲間と共に今まで何度も死闘をくり抜けてきた。
今回も傍から見れば上弦を討ち取ったという大きな成果ではあるのだろうが……
〝己の実力が上手く発揮出来ないばかりか、皆の足を引っ張ってしまうとは……柱失格だな〟
まさかこの任務で自分の限界を思い知るとは思ってもみなかった煉獄は、自分の自惚れが仲間を危険に晒したのだと目覚めてから何度も後悔の念に駆られてきた。
思えば、彼が炎柱を目指したきっかけは純粋に父への憧れから始まった。
父のような人になりたいと背中を追いかけて。
弱き人を助けなさい、と…
それが強く生まれた者の責務だと教えてくれた母の言葉も、その思いを後押ししてくれるものだった。
父が塞ぎ込んでからは、自分が父の跡を継ぎ炎柱となれば喜んでくれるのではないか……弟を守るためには自分がしっかりしなければと必死だった。
結果として炎柱に就任しようが父が喜ぶ事は無かったが………煉獄家の長男として、代々受け継がれてきた炎柱に自分もなれた事は、彼の自信にも繋がっていった。
炎柱として弱き人を助けたい。
鬼によって悲しい思いをする人をなくし、いつの日にかこの手で鬼舞辻無惨を討ち取るのだ、とー……
強い思いで、己の力を信じ煉獄は今日まで戦い続けてきたのだ。
しかし仲間を危険に晒してまで、柱の座に執着し続けるわけにはいかない。
それに今回の任務、鈴を初めとした若い隊士たちの活躍にも驚かされたのは事実で。
自分が柱を引退しても、彼らが自分の思いを繋いでいってくれると煉獄は確信していた。
だからこそ、これからは彼らの力になれる様なことをしたいと思ったのだ。
先日鈴の見舞いに来た同僚にも思わず本音を漏らしてしまったが……
『………先程の話、煉獄が思うようにすればいい』
去り際にポツリと一言落としていった冨岡は、決して煉獄の言葉を責めることなく、それどころか此方の意見を尊重してくれる助言までしてくれたのだ。
その言葉に、このまま何時までもうじうじと悩んでいるべきではないと思い立ち、その日のうちにお館様へと鴉を飛ばし今に至る。
因みに彼の負った怪我はまだ完治したとはいえない状態だが、自宅療養の許可が降りた為、明日にでも本部へと向かう予定なのだ。
「鈴、明日お館様に謁見してくる」
未だ目覚めぬ彼女から返事など返って来るはずも無いが、鈴の手を握りながら煉獄は俯き気味に口を開く。
しかし、その瞬間ぴくりと反応を見せた指先に、煉獄は驚いたように顔を上げる。
「……ん、」
「鈴!!分かるか!?」
「……煉獄さん?……あれ、私……」
薄らと瞼を開けた鈴は、煉獄の顔をぼーっと見つめた後、掠れた声で口を開いた。
だが、それに安心したのもつかの間、ゆっくりと体を起こし初めた鈴に、煉獄は慌てて声をかける。
「鈴、いきなり動かなくていい!!それより体はどうだ?何処か痛むか?」
その問いかけに鈴が首を横に振ると、煉獄は漸く安堵の息を吐く。
それから彼女の背を支えるように手を伸ばすと、これまでの経緯を簡単に話し始めた。
それはあの任務で上弦を倒したことや、まだ目覚めていない隊士もいるが皆一命を取り留めたこと。
それから最後に、あの任務から二週間程経ったことを説明し終えると、鈴は困ったように眉を下げた。
「すみません、ご心配をおかけしました……あの、煉獄さんの傷は大丈夫なんですか?」
「ああ、……俺は一番軽症だったからな」
苦笑いで答える煉獄に、鈴は最後に見た光景を思い出し眉を顰める。
彼は口から血を流し、その場から動けないほどの大怪我を負っていた筈。
幾ら毒がなくなったからと言って、そう簡単に傷が塞がる訳はない。
やはり、並の隊士とは鍛え方からして違うのだろう。
そんな事を考えながら、鈴は思った事を口にする。
「煉獄さんも音柱様も、すぐに意識を取り戻したんですよね。やっぱり柱は凄い人ばかりですね」
そう言って笑いかける鈴に、煉獄はぴくりと反応を見せる。
それからキュッと口元に力を入れると、意を決して口を開いた。
「………俺は隊士を引退する」