第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
吉原での任務から数日ー……
鈴達が上弦を倒した吉報は、鎹鴉を通じて瞬く間に隊士達の間にも広まった。
その内容は、音柱、並びに炎柱の合同任務にて上弦を討ち取った事や、それに関わった隊士達が蝶屋敷で療養中とのもので、それを聞きつけた隊士達が連日蝶屋敷へと見舞いに訪れていた。
それは多忙である柱の彼も例外ではなく…
「あ、水柱様。今日もいらしていたんですね」
廊下でなほに話しかけられた義勇は、静かにこくりと頷いた。
******
あの任務から二週間ー……、
未だに眠り続ける鈴の元へ度々見舞いに訪れている義勇は、自然と蝶屋敷の少女達から話しかけられる事も増えていた。
まあ、会話が弾むなんて事はないのだが、それもこれも……全て鈴のおかげだと思うと、なんだか可笑しな話である。
「鈴さん、早く目覚めるといいですね」
「……そうだな」
普段はあれこれと世話を焼きたがる妹弟子だが、今回はかなり無茶をしたようで一時は危険な状態だったのだとか。
今は少女達の手厚い看病もあり順調に回復をしているようだが、寝たきりという事もあり病室はいつも静かなものである。
しかし、そんな病室に今日は先客がいるようで、扉の前で鈴とは別の気配を感じた義勇はぴたりと動きを止める。
暫く考え込んだ後、見知らぬ隊士なら面倒だからと引き返す判断をした彼に、なほが不思議そうに首を傾げた。
「入られないんですか?」
「………いや」
「しのぶ様が言ってました。鈴さん、今はまだ眠っていますが、いつ意識を取り戻してもおかしくないようですよ?沢山話しかけてあげるといいって言ってました」
そう言ってなほがにこにこと笑うものだから、引くに引けなくなった義勇は結局それに頷いて。
なほに背中を見送られながら、仕方なく病室の扉を開けた。
******
だが義勇の予想に反して、扉の先にいたのは見慣れた炎色の頭の同僚で。
人知れず安堵のため息を漏らした義勇は、鈴同様、先日の任務で大怪我を負った筈の煉獄へと口を開く。
「煉獄、もう動いて平気なのか?」
「……ああ。皆に比べれば、俺はまだ軽症だからな」
だが、言葉を交わしてからふと違和感を覚える。
いつも明るい同僚が珍しく背中を丸め、何処か思い詰めた表情をしているのだ。
てっきり上弦を倒して活気付いているかと思ったが、どうやらそういう訳ではないらしい……
まぁ、今回は怪我人が多く出た訳だし、恋人が未だ目覚めていないのだから当たり前なのかもしれないが。
表情こそ変わりはしないが、同僚の意外な一面に内心驚きながら義勇は煉獄をじっと見つめた。
その視線に気付いたのだろう。
鈴を見つめていた煉獄が徐に顔を上げたかと思えば、
「謝って済むことではないだろうが……鈴を守り切ることも出来ず、本当に申し訳ない」
そう言って頭を下げ始めた煉獄に、義勇は何と返すべきかと思い悩む。
鈴や未だ目覚めぬ若い隊士達は、煉獄のせいでそんな状態になった訳では決してない。
今回だって全面的に悪いのは鬼である事に変わりはないし、一度ならず二度までも大怪我を負いながら上弦と対峙した彼を誰が責めるだろうか。
しかし、義勇が上手く励ませられない間にも、煉獄からは今回の任務の詳細が語られていく。
それは今回の任務で自分は足手纏いにしかならなかった事から始まり、最後は鈴に守られたことを悔やむものだった。
「本当はずっと分かっていた。前回の任務で負った傷は当に治った筈なのに……思う様に呼吸を使えない事から目を背け、柱である事にこだわった……その結果がこれとはな」
俯きながら自傷気味な笑みを落とした煉獄に、義勇はぐっと拳を握る。
自分の無力さを思い知り打ちひしがれる煉獄に、姉や大切な友人を失った過去の自分を重ね合わせる。
大切な人に守られた。目の前で傷つくのを見ている事しか出来なかった不甲斐なさは、義勇だって痛いほど理解している。
だがその上で自分とは違い、彼は最後まで戦ったのだと義勇は安堵の息を吐く。
「煉獄の言いたい事は理解した。その上で言うが、何を謝る必要がある?煉獄は出来うる限りの事をした。だが、それはあの場にいた全ての者が同じではないのか?」
「だが……」
「それに煉獄は鈴に守られたと話すが……鴉から聞いた話では、鈴が最後に放った技はまだ未完成の技だ。本来ならそれを戦いに使うべきではなかったし、成功しなければ全員あそこで死んでいたかもしれない」
「それはっ、…」
「それだけ皆が無我夢中で戦った結果が今なのだから、誰かが責任を感じるのは可笑しな話だ」
普段口数が少ない義勇がまさか励ましてくれるとは思ってもみなかった煉獄は驚いた様に顔を上げる。
そんな彼の様子に義勇は鈴へと視線を移すと、淡々と言葉を続けた。
「鈴が目を覚ました時、そんな顔をしていては怒られるぞ」
「……ああ、そうだな」
「鈴は大概、世話焼きだからな」
それだけ言って口を閉ざした義勇は一見いつも通りの無表情にも見えるが……
鈴を見つめるその眼差しに何処か優しさも込められているような気がして、煉獄は口角を上げるのだった。