第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大声で叫ぶ宇髄の様子に、鈴も必死で速度を上げる。
だが、鈴が彼らに駆け寄るより先に、妓夫太郎の体から血の刃が溢れ出す。
「間に合えっ!水ノ呼吸……」
それを視界にとらえた瞬間、彼女は再び刀を握りしめ毒が回る事などお構い無しで大きく息を吸い込んだ。
「拾一ノ型 凪っ、」
そうして刀を構えた鈴は、間一髪の所で彼らの前に滑り込み、耐えまなく刀を振り続ける。
しかし、元々この大技は兄弟子である義勇が生み出したもの。
鍛錬を共に積んできた鈴も義勇から手解きこそ受けては来たが、満足出来る程の完成度は未だに見い出せていない大技だ。
それに加えて今は毒が回った満身創痍の体、技の精度もぐんと落ちる。
現に、防ぎきれない刃は容赦なく彼女の体を傷つけるが、それでも鈴が怯むことは決して無い。
仲間や大切な人を守るため、彼女は一人で刀を振り続けた。
「ぐっ…… 鈴、」
煉獄は毒が回りぼやける視界の中、皆を庇い傷ついていく鈴の背中へと手を伸ばす。
しかしその手が届く事はなく……
妓夫太郎の体から放たれた無数の刃が、鈴諸共辺りを巻き込んでいく様を最後に、彼の意識は遠のいて行った。
******
あれからどれだけの時間が経ったのか。
優しい温もりに包まれるような感覚に、煉獄は静かに目を覚ます。
「ムームー」
「君は確か竈門少年の………」
不思議なことに身体中に回っていた毒は消えていて。
傷自体が無くなることは無いが、毒が消えたお陰で幾分か痛みはましに感じた。
〝だが、一体どうして……〟
目の前で唸る禰豆子を見つめ、煉獄は不思議そうに首を傾げた。
「禰豆子!こっちだ!!こっちにも来てくれ!!」
そんな時、炭治郎の叫び声が聞こえてきた煉獄は、ハッと顔を上げ我に返る。
鬼の頸こそ斬ったものの、辺り一面瓦礫の山で甚大な被害も出ている。
何故毒が消えたのかは分からないが、仲間たちも自分と同じように毒にやられていた筈だ。
それに意識を失う寸前、皆を庇い必死で刀を振るい続けていた鈴はどうなった。
「竈門少年!他の皆は…… 」
痛む体に鞭打って炭治郎の元へと歩みを進めた煉獄は、炭治郎のその奥にだらりと投げ出された足を視界に捉えて息を呑む。
「鈴!!」
慌てて鈴に駆け寄るも血を流し倒れている彼女からは反応はない。
それに加えて紫に変色した皮膚や、今にも止まりそうなか細い呼吸。体温を失ったかのように冷たい体に、頭の中が真っ白になる。
〝考えろ!どうしたら鈴を助けられるっ、……そもそも何故俺の毒は浄化された〟
そうして煉獄が必死で考えを巡らせている隣に、禰豆子がひょこっと顔を出す。
それから徐に鈴の手を禰豆子が握ると、あろうことか鈴の体が炎に包まれた。
「なっ!?何をっ、」
「煉獄さん落ち着いて下さい!大丈夫ですから!」
禰豆子を止めに入る寸前で、炭治郎に呼び止められた煉獄はピタリと動きを止める。
衝撃的な光景で気づくまで時間を要したが、桃色の炎に包まれた鈴の体からは徐々に毒が消えていく。
それにこの温もりはどうにも覚えがあるような。
目の前で起きている光景に呆然とする煉獄だが、自分を助けてくれたのがこの少女の血鬼術である事を同時に理解した。
「……ん、」
「「鈴(さん)!!」」
微かに動きを見せた鈴に声をかければ、瞼がゆっくりと開かれる。
「あ、れ……私…なんで……」
虚ろな目で瞬きを繰り返した鈴は、状況がまだ飲み込めていないようで。
疑問を口にした彼女に、思わず目頭が熱くなる。
それから鈴の存在を確かめるように彼女へと手を伸ばせば、急に動いた反動か傷口がズキズキと大きく傷んだ。
だが、それ以上に鈴が目を覚ましてくれた事が嬉しくて、煉獄は痛みなど構わず鈴を優しく抱き締める。
「良かった鈴、本当に良かった」
「……煉獄さんこそ……、怪我は…大丈夫ですか?」
「ああ、鈴が守ってくれたからな。俺は平気だ」
「ふふ……良かったぁ、」
そう言って腕に擦り寄って来た鈴だが、その一言を最後に彼女は再び目を閉じた。
急に静かになった鈴に気づいた煉獄も慌てて顔を覗き込むが、安心したように寝息を立てる鈴の様子に漸くほっと一息をつく。
「竈門少年、皆は無事か?」
「はい。皆ボロボロですが、ちゃんと生きてます」
「そうか」
炭治郎の言葉に安心したように眉を下げた煉獄は、鈴を支えていない方の腕を禰豆子の頭へと伸ばす。
「皆を助けてくれた事感謝する!」
「ムー」
それに禰豆子が大きく頷いた後、炭治郎は鬼の頸を確認すると言って禰豆子の背に乗り去って行った。
「……長い夜だったな」
その背を見送った煉獄はぽつりと独り言を呟くと、ふと腕の中で眠る鈴へと視線を落とす。
お互い全身ボロボロで、お世辞にも手放しで喜ぶ状況ではないが……
鈴を失う恐怖から解放された途端に、体中の痛みがどっと襲ってきたような気がして。
煉獄は鈴を大事そうに両腕で抱きしめ直すと、彼女に寄り添うようにそっと瞼を閉じるのだった。