第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「かはっ、はっ……」
崩れた瓦礫の中で目を覚ました炭治郎は、荒い呼吸を繰り返しながら徐ろに辺りを見渡した。
「……酷い、こんな事になるなんて……」
建物は至る所で崩壊し、あちこちで火の手が上がっている。昨日までのあの賑やかな街並みが嘘の様に、今は人の気配も感じられない。
〝ここに住む住人達は皆避難できたのだろうか……〟
そんな事を考えながら辺りを見渡していた炭治郎は、ハッと思い出したように振り返る。
「禰󠄀豆子っ、…」
禰豆子が入った木箱を見つけホッと息を吐いたのも束の間、顔を上げた炭治郎は思わず息を呑む。
「なんだ、お前まだ生きてんのかぁあ?……運の良い奴だなぁぁ」
「……っ!」
顔を上げた先で見えたのは綺麗な月とこちらを覗き込む鬼の顔で。
驚きのあまり固まった炭治郎に、運がいいだけなんだろうなぁぁと妓夫太郎は口元を吊り上げた。
「可哀想になぁ…お前以外の奴は皆もう駄目だろうしなぁぁ……」
同情するような言葉を並べてこそいるが、その口ぶりはまるで炭治郎達鬼殺隊を嘲笑うかのようなもので。
「猪は心臓を一突き、あの女も全身に毒が回ってもう駄目だなぁ?黄色い頭は瓦礫に押し潰されて苦しんでるから死ぬまで放置するぜ?虫みたいにモゾモゾしてみっともねぇよなぁぁ」
「っ、……」
「柱も弱かったなぁ、威勢がいいだけで……毒にやられて心臓も止まって死んじまった……片目の奴なんて、なぁ?自分の事を炎柱だとかなんとか言っていたが、あれは本当に柱かぁぁ?あれから一向に起き上がる気配もねぇぇ」
そう言って口元を歪めた鬼に、炭治郎は言葉を失った。
その反応に気を良くした妓夫太郎は、お前は特にみっともないと目を細める。
それから炭治郎が背後に隠す木箱を指さし、そこからはみ出ているのは血縁者かと問いかける。
「そりゃあ姉か?妹か?」
「………禰豆子は…俺の妹だ」
禰豆子が炭治郎の妹だと分かると、妓夫太郎は腹を抱えて笑いだす。
兄貴なら妹を守ってやれよと馬鹿にしたように顔を覗き込むと、何も言い返すことのできない炭治郎の指をありえない方向へ折り曲げる。
「ぐっ、ぁあ″……」
「くくっ、ははははっ……なぁおい、今どんな気持ちだぁ?一人だけみっともなく生き残ってぇ」
指の痛みに、炭治郎は堪らず苦しそうな声を漏らす。
そんな彼の頭を鷲し掴みにした妓夫太郎は、虫けら、ぼんくらと暴言を吐きながら炭治郎を責めたてる。
「どうする?弱い弱いボロボロのみっともねぇ人間の体で、俺の頸を斬ってみろ!……なぁ?なぁ?なぁ?」
「っ、………」
その瞬間、背後に隠していた木箱を引っつかみ炭治郎は振り返る事なく駆け出した。
それには流石の妓夫太郎も、二人のやり取りを屋根の上から見物していた堕姫ですらも驚きのあまり一瞬反応に遅れてしまう。
しかし、どんどん遠ざかっていく炭治郎の背中に気づくと、兄妹は声を上げて笑い出す。
敵前逃亡は予想していなかったが……
壊滅的な状況に、圧倒的な実力差。
これ程までの絶望は、人間のような弱者では耐えられないだろう。
「ふはは、はははは!そうか、そうか!土壇場で心が折れたか!みっともねぇなぁぁ、本当にみっともねぇぇ!!」
妓夫太郎はゲラゲラと笑いながら、逃げ惑う炭治郎を蹴り飛ばす。
その攻撃をもろに食らった炭治郎は、燃え盛る建物の中まで吹き飛ばされるが、衝撃で建物が崩れる前に何とか転がりながら外へと逃げる。
しかし足取りはおぼつかず…すぐに膝をついてしまう。
それでも何か抵抗をしなければと、ゆっくりと歩み寄って来る妓夫太郎目掛け、炭治郎は手当り次第その辺にあるものを投げつける。
勿論、木材の破片や小石、遊女の匂い袋なんかで鬼が怯むはずもないのだが、その必死な姿が滑稽に思えて妓夫太郎は口元を吊り上げる。
「みっともねぇが、俺は嫌いじゃあねえ……俺は惨めでみっともなくて汚いものが好きだからなぁぁ?」
目の前までやって来た妓夫太郎は、炭治郎の額の痣へと手を伸ばし愛着が湧くと笑みを漏らす。
それから、さも名案を思いついたように声を上げる。
「そうだ!!お前も鬼になったらどうだぁぁ?妹の為にも!!」
仲間になるなら守ってやると声高らかに言い放つ妓夫太郎に、すかさず堕姫からは野次が飛ぶ。
だが、そのどちらにも炭治郎は反応を見せず……
終いには、上を向いて肩で大きく息をし始めた炭治郎に、妓夫太郎は小馬鹿にしたように語りかけた。
「っふ、くく……悔しいんだなぁ?自分の弱さが……人は嘆く時天を仰ぐんだぜぇ?涙があふれねぇようになぁぁ?」
「俺は……俺は……」
だが、その問いかけにゆっくりと顔を向けた炭治郎は、油断しきっている妓夫太郎をキッと睨みつけ大きな声で言い放つ。
「準備してたんだ!!」
「っ、……」
その瞬間、勢いをつけて頭突きを繰り出した炭治郎に妓夫太郎は完全に不意をつかれた。
しかし、高々人間の頭突き。
そんなもの鬼である彼には通用する筈がない。
「お兄ちゃん何してるの!!早く立って!!」
そう、そんな攻撃が通用する筈はないのだ……
それなのに、妓夫太郎の視界は揺れ、尻もちを着いたまま立ち上がる事すらままならない。
〝おかしい……たかが人間の頭突きだぞ……っ、〟
困惑する妓夫太郎の目に飛び込んできたのは、自身の足に刺さったクナイで。
頭突きをすると見せかけて毒付きのクナイを刺された事や、毒の匂いを撹乱させる為に遊女の匂い袋を投げつけられた事を理解する。
炭治郎が逃げ出したように見せたあの行動は、絶望した訳でも、ましてや諦めた訳でもなかったのかと顔を歪める。
そんな妓夫太郎を見下ろし、炭治郎は刀を大きく振りかぶるとー……
渾身の力を込めて、その頸へと日輪刀を振り下ろした。