第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……腕を、紐で縛って」
肩に深傷を負いながら、背後にいる男性へと声をかけた炭治郎は、その光景に怒りで体が震えていた。
「待て……許さないぞ、こんな事をしておいて!!」
「何?まだ何か言ってるの?もういいわよ……あんたの仲間だって、私の攻撃をモロに喰らって消し飛んだのよ?醜い人間に生きてる価値なんてないわ」
それに腹立たしそうに言葉を続けた鬼は、先程花魁達を庇って吹っ飛ばされた鈴を馬鹿にするように鼻で笑った。
そして、もう興味もないと言った様子で、鬼がその場を立ち去ろうとした瞬間……
「失われた命は回帰しない……二度と戻らない……生身の者は鬼の様にはいかない……なぜ奪う?なぜ命を踏みつけにする」
再び炭治郎が立ちはだかった。
******
「……っい、」
鈴は瓦礫の中で薄らと目を開け、背中の痛みに顔を歪めた。
あの時……
花魁達へと伸びる帯の攻撃を防ぐので精一杯で、自分に迫る攻撃を押し殺す事が出来なかった。
気づけば勢いそのまま吹っ飛ばされて、建物諸共瓦礫の中。幸い、柱に背を打ちつける形で気を失っていた為、瓦礫に押し潰される事はなかったようだが……
辺り一面惨状とかした花町に、鈴は思わず唇を噛み締めた。
「早く炭治郎君と合流しないとっ、……」
背中の痛みを押し殺し、その場に立ち上がった鈴は、戦闘音が聞こえる方向へと駆け出した。
******
だが、その足はすぐに止まる事となる。
「……ね、ずこちゃん?」
そこにいたのはいつもと明らかに様子の違う禰󠄀豆子の姿。
足元には、先程まで対峙していた筈の上弦が踏みつけられており、その姿はまるで防戦一方……再生すらままならない様子で、禰󠄀豆子に蹴り飛ばされた鬼は、そのまま建物を破壊しながら吹き飛んでいく。
辺りを見回しても炭治郎の姿はなく、兄を守る為…はたまた、人々を守る為に木箱から飛び出して来たのだろうが……
その口元は、戦うことを楽しんでいるかの様に吊り上げられていて、鈴は目を疑う光景に息を呑んだ。
だが、禰󠄀豆子と目が合ったと思った瞬間。
驚きで固まる鈴に、物凄い勢いで禰󠄀豆子は飛び掛かってきた。
「っ、……禰󠄀豆子ちゃん、どうしたのっ?ぐっ、炭治郎君は何処に…っ、」
咄嗟に鞘ごと刀を構えた鈴だが、禰󠄀豆子は構わず拳を振りかぶり、後方へと吹っ飛ばされる。
幸い受身を取る事には間に合ったが、体制を崩した鈴に禰󠄀豆子は躊躇なく覆いかぶさった。
「禰󠄀豆子!!」
しかしその瞬間、今度は背後から炭治郎が飛びかかり、鈴に噛みつこうとしていた禰󠄀豆子の動きを封じた。
そこで漸く禰󠄀豆子の姿をまじまじと見た鈴は、禰󠄀豆子自身も血まみれで、傷を負いすぎた故に我を忘れている事に気がついた。
「禰󠄀豆子ちゃん、……しっかりしてっ、」
「禰󠄀豆子、ごめん……一人で戦わせてっ、…兄ちゃんが誰も傷つけさせないからっ、………眠るんだっ……」
それを二人で必死に宥めていれば、蹴り飛ばされた筈の上弦が、青筋を浮かべながらもう此方へと近づいて来ていた。
辺りを見れば、逃げ遅れた一般人の姿もある。
〝ここは炭治郎君に禰󠄀豆子ちゃんは任せて、上弦の相手は私がする他ない……〟
思わぬ事態に鈴が奥歯を噛み締めた瞬間、背後から突然、聞き覚えのある声が響く。
「むう……随分と様子がおかしいが、これはどういう状況だろうか!!」
「「……れ、煉獄さん」」
その声に驚き顔を上げれば、しっかりと隊服を着込んだ煉獄の姿。
今日は来ないようにと鴉に言伝まで頼んだというのに、何でこの人はここにいるのか……
鈴が反応に困っていれば、更に増えた馴染みの声。
「おい、これ竈門禰󠄀豆子じゃねーか?派手に鬼化が進んでやがる」
「お、音柱様……」
「お館様の前で大見得切ってたくせに、なんだこの体たらくは!!誰も鬼化を派手にやれなんて言ってねェーぞ!!」
上弦が背後にいるというのにそれを無視して話を進める柱二人に、鈴は困惑した様に彼らを見上げた。
「柱ね?そっちから来たの。手間が省けた」
案の定鬼も二人へと敵意を向けるが、宇髄は振り返る事もせず、鬼の言葉を適当にあしらった。
「うるせェなー、お前と話してねーよ。失せろ……お前上弦の鬼じゃねェな?」
先程まで、鈴達が手こずっていた鬼を相手に、宇髄は更に弱すぎると言葉を続けた。
それに煉獄も同感する様に頷いていれば、ポトリと鬼の頸が落ちた。
「……え?」
「うむ!!流石だな、宇髄!!」
恐らく、先程彼らが現れた一瞬の内に、宇髄によって鬼の頸が斬られていたのだろうが……
煉獄以外のこの場にいた者達、鬼本人ですら、斬られた事に気がついていなかったのだ。
呆気に取られる鈴や炭治郎に、宇髄は近づき口を開く。
「おい、戦いはまだ終わってねェぞ」
「禰󠄀豆、子……っ」
その間も、炭治郎の腕の中では禰󠄀豆子が暴れ回っている。それを必死で宥めようとする炭治郎に、宇髄は静かに言い放つ。
「ぐずり出す様な馬鹿ガキは、戦いの場にいらねェ。地味に子守唄でも歌ってやれよ」
その瞬間、床を強く蹴った禰󠄀豆子と共に炭治郎は屋敷の外へと落ちて行く。
「…炭治郎君っ、」
「鈴、大丈夫だ!!妹のことは、竈門少年に任せておこう!!」
鈴が慌てて起き上がれば、煉獄は鈴の肩に手を置き、ゆっくりと首を振る。
炭治郎を信頼しての行動だろうが、本当に大丈夫だろうか。鈴が心配そうに眉を下げていれば、突然、後ろから耳をつん裂くような泣き声が上がり始める。
「死ねっ!死ねっ!みんな死ねっ!!わぁぁああっ」
「……な、なんでまだ消えないの?」
戸惑う鈴が声の方へと視線を移せば、頸を斬られた筈の鬼が未だに灰にならず、泣き喚いていた。
その怪奇な状況に皆が首を傾げた瞬間、鬼は大きな声で不気味な言葉を口にした。
「頸斬られたぁ…頸斬られちゃったぁあ……