第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれからー……
しのぶに無理を言って、怪我の患部に水をかけないように湯浴みを終えた鈴は、案内された個室の寝台に座り、ほっと小さく息を吐いていた。
〝今日はなんだか色々な事があったなぁ……〟
鬼を何時間も追いかけまわした事も、
左足を怪我した痛みも、
何故だか上官に迫られた事も……、
その全てが、まさかこの半日に詰め込まれてくるなんて……と思わずため息を吐いてしまう。
寝台から立ち上がり、ひょこひょこと窓まで近寄れば、日も登り始め、もう随分と明るくなった庭が目に入る。
ふと視線を移せば、そんな庭の一角、大きく聳え立つようにして生えている大木の枝に止まる、自身の
それに気づいた鴉が、バサリと翼を広げ、此方へとゆっくりと近寄って来るのに気づき、鎹鴉が止まりやすいように窓を開けてやる。
「……大丈夫、大した怪我じゃないから」
そこに身を滑り込ませ、心配そうに自身を見つめる鴉に小さく笑みを漏らし、優しく背を撫でてやる。
「義勇に伝達をお願い。任務で怪我をしたから、二、三日蝶屋敷で療養する事と……その間、しっかりご飯は食べるようにと、伝えて貰える?」
鈴の言葉に、一鳴きして頷いてみせた鴉が飛び立つのを確認し、鈴は再び寝台まで戻っていく。
ごろりと横になれば、どっと疲れが押し寄せて来て
眠気に従い、鈴は静かに目を閉じた。
******
あれから、どれほどの時間が経ったのか分からないが、ふと何かが頬に触れる感覚に、鈴はゆっくりと瞼を上げた。
「おはよう、鈴!!」
寝起きで働かない頭のまま、パチクリと瞬きを繰り返した鈴は、満面の笑みを浮かべる目の前の男に頬を引き攣らせた。
「炎柱様、どうして此処に……」
「うむ。夜の警備の前に、鈴の様子を見に立ち寄ったまでだ!!この部屋へは、胡蝶が案内してくれた!!」
女性の病室に、本人の許可なく忍び込んだ事に対して、煉獄は全く悪びれる様子はない。
それに加えて〝しのぶが此処まで案内した〟と言う彼の発言。大方、彼の対応に面倒臭さが優ったしのぶが、鈴を生贄にしたのだろうが……。
ニコニコと笑顔を浮かべる煉獄に、鈴は早速頭痛を覚えた。
この笑顔の裏で、何を言い出すか分かったものじゃないと、無意識に身構えた鈴に、煉獄はふっと眉を下げ、優しい口調で問いかけた。
「鈴、あれから足はどうだ?……痛むか?」
「………へ?」
しかし、彼が口にしたのは明朝のおかしな話ではなく、鈴の体を心配する一言だった。
まさか、そんな言葉をかけられるとは思ってもおらず、コテンと首を傾げた鈴だったが、
自分の身を案じ、心配してくれている相手に対して、なんて不躾な態度をとってしまったのだろうと、今更ながらに後悔する。
「……しのぶちゃんの薬が効いているので、大丈夫です」
「そうか。ならいいが…… 君は、意外と無茶をするらしいからな」
「………い、いえ!無茶なんて」
「聞いた話によれば、以前にも高熱が出ているのを隠して任務に向かい、鬼の頸を斬り落とした直後、倒れたそうじゃないか」
「なっ、!誰から聞いたんです!?」
「甘露寺だ!!」
ハハハッと豪快に笑った煉獄に、鈴は恥ずかしそうに頬を染めた。
「今回はしっかり療養するように!!」
「……はい。あの、炎柱様……蝶屋敷まで連れて来てくださり、ありがとうございました。朝は……しっかりお礼も出来てませんでしたので」
「ハハハッ、気にする事はない!!当然の事をしたまでだからな!!」
そう言ってにこりと笑った煉獄に、鈴も自然と笑みをこぼした。
……もしかしたら、何か、勘違いをしていたのかもしれない。
明朝に見たのは、何か……そう、痛みと疲労による幻覚で。今の後輩思いの優しい彼が、本来の姿なのではないだろうか。
でなければ柱として忙しい彼が、態々夜の警備の前に、並の隊士でもある自分の為に見舞いになど訪れる筈もない。
そんな事を考えながらじっと彼を見つめれば、その視線に気づいた煉獄は、不思議そうに口を開いた。
「む?……どうした?」
「いえ……」
そこでふと、以前蜜璃から聞いた話を思い出す。
『煉獄さんはね、こう……かっこいいお兄様って感じでね!!稽古は辛い事もあったけど、随分と可愛がって貰ったの!!』
嬉しそうに話をしてくれた友人の姿を思い出し、鈴は小さく笑みを浮かべる。
〝なるほど、面倒見のいい人なのね〟
そんな風に、少し彼を見直し始めた鈴だったのだが……次に彼の口から出たのは、予想外の言葉だった。
「ところで鈴は、何色が好みだろうか?」
「色?………突然なんです?」
「うむ!鈴に簪を送ろうと思ったのだが、好みが分からなくてな!!」
「か、んざし……?それって………、」
唐突に変わっていく話に、鈴がなんとか声を絞り出せば、煉獄は満面の笑みで頷いた。
「任務などで多忙を極める為、鈴には寂しい思いをさせるかもしれないが、少しでも君の心の支えになればと思ってな!!」
「………」
「ああ!結婚してからも君が隊士を続けたいと言うならば、鈴の意見を尊重しよう!!」
「 ……思い違いだなんて……思った私が、馬鹿でした 」
「むう?何か言ったか?」
小声で呟いたその言葉に、煉獄は不思議そうに首を傾げた。
その姿を視界に捉え、鈴はプルプルと震え出す。そしてキッと彼を睨みつけると、静かな声でいい放つ。
「ですから……私は炎柱様とは結婚しませんから」
「む?ああ、そんなに照れなくても大丈夫だぞ!!」
「ち、ちがっ!……そうじゃなくて、」
「ハハハッ!!慌てる鈴も愛いな!!」
何を言っても敵うことがないだろう会話に、鈴が頭を抱え始めた時、病室に一際楽しそうな声が響く。
「気心知れた仲なのだから、炎柱などと他人行儀な呼び方は辞めて、是非名前で呼んでくれ!!」
……気心知れた、ですって!?
初めて会ってから、まだ幾日も経っていないのに。
彼の名前と、自分の上司であると言う事。……それから声が大きいのと、人の話を聞かないこと以外、私何にも知りませんから!!
心の中で盛大に突っ込みを入れた鈴は、名前を呼ばれるのを、今か今かと待っている目の前の男に、冷静を務めて口を開く。
「………呼びません」
「照れて「…ませんから!!」
彼の言葉に被せるように、鈴が咄嗟に大きな声を出せば、煉獄は楽しげに笑みを浮かべた。
「うむ!!それだけ大きな声が出れば大丈夫だろう!!元気なようで安心した!!」
そんな彼の一言に、鈴は力が抜けたようにがっくりと項垂れるのだった。