第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鈴達が遊郭に潜入して二日目の夜。
「ええっ!私にお客っ!!?そんな……こ、困ります」
「何が困るってんだい!遊女になったんだからね、あんたもいい加減腹括りな!さっ、お客を待たせるんじゃないよ!」
「え、いや、あの…女将さんっ」
早く鬼を見つけて帰らないと…と焦る鈴に「お客がついた」と、ときと屋の女将は笑みを溢した。
それに鈴が顔を青褪めるのと、同じ頃……
「…さて、どんな言い訳をするのだろうな」
腕を組み、嫉妬の炎を燃やす男がここに一人。
口元には笑みを浮かべている筈なのに、その目はまるで笑っていない。
そんな彼が部屋の戸をこれでもかという程見つめるに至るその理由ー……、
それは、時遡ること一日前。
宇髄一行が、蝶屋敷で一悶着起こしている頃から始まった。
******
昨日ー……
煉獄は鍛錬に付き合ってくれた鈴と共に千寿郎が作ってくれた昼食をとり、昼過ぎ頃に屋敷を後にする彼女の背を見送った。
鈴は忙しい任務の合間を縫って、殆ど毎日のように鍛錬に付き合ってくれている。
元々、あの冨岡の世話を焼いてやれるほどの面倒見のいい彼女なのだ。こうして寄り添ってくれる優しさには感謝しかない。
しかし幾ら怪我は癒えようが、未だに体の感覚は元に戻らぬままである。
いつになればまた刀を握れるのか……
何ヶ月も柱の席を空けたままでは、お館様にも申し訳が立たない……
そんな事ばかり考えては、焦りばかりが生まれてしまう。
がむしゃらに足掻いて、足掻いて……
鈴や千寿郎に心配をかけてしまっている事くらい、勿論理解はしているが、それでも早く調子を取り戻さなければと、再び竹刀へと手を伸ばした。
「……八十八、ハ十九、九十」
庭に風を切る音が響く中、黙々と素振りをこなしていく。
先程までの鍛錬も相まってか、割と早めに上がり始めた息遣いに、思わずため息を漏らした。
そんな時だった。
普段穏やかな千寿郎が血相を変えて飛んできたのは。
「あ、兄上……大変ですっ!」
「む?そんなに慌ててどうした?」
「それが……鈴さんが攫われてしまいました」
そう言って慌てて事の成り行きを話し始めた千寿郎は、用事がありあの後鈴を追いかけた事や、二人で話をしていた所へ突然宇髄が現れた事。その後、何の説明もないまま鈴を肩に担いで宇髄が走り去って行ってしまった事を説明した。
「宇髄さんからは、 鈴さんを暫く借りると兄上に一言だけ言伝が………すみません、私がいながら止める事すらできなかった」
最終的に顔を青褪めながら謝罪を口にした千寿郎に、煉獄は小さくため息を吐いた。
「そうか……宇髄が……」
小さくボソボソと呟いた兄の言葉に、恐る恐る千寿郎が顔を上げれば、まるで目元が笑っていない表情の兄がそこにいた。
それに千寿郎が固まる内に、煉獄は自身の鴉を呼びつけると、宇髄宛の伝言を託し、千寿郎へと笑いかける。
「千寿郎、少し野暮用が出来た。今から出かけて来る」
「兄上…えっ、と「千寿郎、すまないが後は任せたぞ!!」
兄の笑顔に戸惑いながら口を開いた千寿郎だが、結局その有無を言わせぬ物言いに、ますます顔を青褪めながら千寿郎は何度も頷いたのだ。
******
それから、鴉を送って家を出た煉獄だが……
音柱邸を訪ねても家主どころか、奥方達も皆不在。戻って来た鴉によれば「今は手が離せない」と此方の話も碌に聞かず、門前払いされたと言う。
ならばと、今度は鈴の鴉を探し出し彼女の元へと案内させれば……
「んなっ!お前っ、伝言聞いてねェーのか!?」
鈴に辿り着くよりも早く、物陰から飛び出して来た宇髄に呼び止められた。
珍しく慌てた様子で煉獄へと駆け寄って来た宇髄は、開口一番、事の成り行きを話すでもなく、何故ここに来たのかと非難の言葉をツラツラと並べた。
しかし、それにスッと笑みを無くした煉獄が、額に青筋を浮かべたのを見て、すぐさま宇髄は〝あ、やべェ……〟と心の中で呟いた。
時すでに遅しだが……
「伝言とは、鈴を借りるとのアレか?」
「いや、まぁ……なんつーか、な……」
「あれが伝言だとしたら答えは否だ!!君に貸す訳ないだろう!!そもそも彼女は物じゃない!!」
「あー……そうだな、悪い悪ぃ」
これ以上事を荒立てたくない宇髄は、早々に謝罪の言葉を口にすると、任務に女の隊士が必要だったと素直に打ち明けた。
勿論、そこまで説明したのだから、煉獄はきっちり任務の内容や潜入場所まで聞き出した訳だが。
「先に行っておくが、合同任務だと先に伝えてあったんだ。のこのこついて来た尾上にも非があるぜ?」
怒りに震える煉獄に、なんとも余計な一言を口にした宇髄は、これ以上怒らせるのはまずいとでも思ったのだろう。
「もしも尾上の所へ押しかける気なら、目立つ事はするなよ?一応潜入中なんだからな!」
最後にそう言い残し、そそくさと姿を消して行った。
******
あれから一日。
昨日は宇髄まで辿り着くのにかなりの時間を要した為、煉獄は一度家へと戻り、再び街へと繰り出した。
昨日と違うのは、彼が身につけている服が隊服から着物へと変わっていること。そして、迷いなく一軒の店を目指している事である。
そんな彼は目的の店の前で足を止めると、煌びやかな扉を開き、満面の笑みで口を開いた。
「実は昼間に此処らを歩いていたら、可愛いらしい女性を見かけてな!確か〝鈴〟と呼ばれていたのだが……そのような女性はいるだろうか?」
「鈴でしたらうちの見習いですが……」
「では、その鈴とやらにお相手を頼めるだろうか?」
「ですが、あの子にお客相手だなんて……とてもじゃないですが」
あまりの勢いに戸惑う女将に、煉獄は大金を差し出して、にっこりと口元を吊り上げる。
「勿論、見習いの彼女を指名するのだから、行儀や作法には捉われない。お願いできるか?」
「‥‥勿論です!すぐ呼んで参りますね」
それに数秒動きを止めた女将も、ハッと我に帰ると、満面の笑みで奥の部屋へと彼を案内した。
「…さて、どんな言い訳をするのだろうな」
鈴を呼ぶために女将が出て行った部屋で一人、煉獄はぽつりと独り言を溢すのだった。