第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「音柱様!!何処に行くんですか!?…ちょっと!ちゃんと説明して下さい!!」
ぎゃーぎゃーと耳元で喚く鈴に、宇髄はピタリと歩みを止め、心底面倒臭いといった様子で口を開く。
「うっせえーな!!重てェんだからじっとしてろ!!」
「んなっ!重っ、……」
「たくっ、暴れたら落とすだろうが!!」
突然現れて、用件も言わずに連れ去られた訳だから、鈴が暴れるのは最もなのだが。
宇髄の強烈な一言に、鈴は思わず言葉を失う。
勿論、上背もある筋骨隆々の宇髄にとって、鈴なんて大した重さでもないのだが、その一言は彼女の心に深く突き刺さる。
途端に大人しくなった鈴を軽々と抱え直した宇髄は、大きなため息を吐いた後、徐に言葉を続けた。
「任務だ」
「………任務?音柱様と、ですか?」
それに鈴がピクリと反応すれば、宇髄は口角を吊り上げる。
「まあな……喜べよ?派手な色男と合同の任務を組めるんだからな!ハハハッ!」
「………」
それに鈴が口を閉ざしても、宇髄は気にせず豪快に笑い声を上げるだけ。なんとも自分勝手な人だと、思わず呆れてしまう程である。
しかしよくよく考えてみれば、煉獄だって始めは鈴の気持ちを全く無視して求婚してきたではないか。
兄弟子の義勇は会話を勝手に終わらせてしまう所もあるし、親友の蜜璃に至っては妄想が膨らんで聞く耳を持たない事もある。
〝……柱って、皆んなこうなのかしら〟
そんな失礼な事を考える鈴に対し、宇髄も顎に手を置き何やら考え込み始める。
「音柱様、とりあえず降ろして貰えますか?」
「……って言っても、まだ人数を増やす必要はありそうだな」
「あの、‥‥聞いてます?」
鈴に返事を返す事もなく、宇髄は何やらぶつぶつと独り言を呟いている。
かと思えば、突然前置きもなく走り始めるものだから、鈴は危うく舌を噛みかけて文句を口にする。
「っちょ、音柱様!聞いてます!?私自分で歩けますから、いい加減降ろしてっ!!」
「うっせーな!!こっちのが早いんだからいいんだよ」
「よくないです!!そもそも何処へ向かってるんですか!?」
「だぁーっ、耳元でピーピー喚くな!!任務に必要な人員を集めに行くんだよ」
その後も結局二人はギャーギャーと言い争いを繰り広げながら、目的地まで宇髄は鈴を担いだまま、もの凄い勢いで道なき道を駆け抜けていくのだった。
******
それから数十分かけて蝶屋敷へとやってきた宇髄は、完全に黙り込んでしまった鈴を地に下ろすと呆れたように口を開く。
「お前なぁ、ただ担がれてただけだろうが……なんでそんな青白い顔してやがる」
そんな事を言われても……
鈴は内心そう思ったが、それを口にするほどの余裕は彼女になかった。
と言うのも、ここまで来る間、宇髄は屋根を伝い、駆け降りたかと思えば、また登り……
道なき道をひたすら突き進み、最短の道のりで蝶屋敷を目指していた。
その間、ずっと鈴は肩に担がれたまま。頭を下にした不安定な体制で、彼が家家の隙間を飛び越えるたび、胃に軽い衝撃が走る。
まるで荷物のような扱いを受けた鈴は、ここに着くまでの間に完全に酔ってしまったのだ。
〝……そういえば、初めて音柱様にあった時もこんな感じだったな〟
思い出したくもなかった過去の失態を思い出し、鈴は小さく息を吐く。
「………音柱様、水を貰ってきます」
「ったく、情けねェなー!」
そんな鈴に、ふんっと鼻息を荒立てた宇髄は「人員確保は俺がやっとくから、お前は早くその顔をなんとかしろ!」と何とも偉そうに指示を出す。
誰のせいでと思うところはあるけれど、そんな元気は今の鈴には残されていないようで、力なくそれに頷くとゆっくりと蝶屋敷へと入って行った。
******
それから直ぐにすみを見つけ、お水を貰えるか尋ねた鈴に、すみは快く食堂へと案内した。
「鈴さん、お顔が真っ青ですけど何処か体調が悪いんですか?」
「いや、そう言うわけじゃないんだけど」
「駄目ですよ!無理をしたらしのぶ様に言いつけますから」
「………すみちゃん」
そう言って眉を吊り上げたすみに、鈴は困ったように彼女を見つめた。
しかし、すみが次のお説教の言葉を述べるよりも前に、庭の方が騒がしくなり、彼女は小さくため息を吐いた。
「ちょっと庭の方を見てきますから、鈴さんはここで少し休んどいてください」
「あ、でも「いいですね?」
「………はい」
その有無を言わせぬ物言いは、まるでしのぶを怒らせた時のようで。
鈴は思わず頷いてからハッとする。
「音柱様も来てるから………って、聞こえてないか」
パタパタと駆けて行く背中に慌てて声をかけた鈴だが、すみに聞こえていないと気づくと、水を口に含み、力なく机に突っ伏した。
〝多少強引だけど、味方だし……上官だし……
音柱様に任せておけば大丈夫かな……〟
そんな事を考えて、鈴は静かに目を伏せる。
そして今は少しでも早く、この吐き気が鎮まるように……と、深い呼吸を繰り返すのだった。