第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
なんとも言えない複雑な思いに、鈴が小さくため息を漏らしていると……
「……さーんっ、鈴さーんっ!!」
「ん?千寿郎君?」
背後から自分を呼ぶ声が聞こえてきて、鈴はピタリと歩みを止めた。
「鈴さん、良かったっ……追いつけてっ、…」
はぁはぁと肩を大きく揺らしながら駆け寄って来た千寿郎に、鈴は戸惑いながら口を開く。
「……あれ?……もしかして、私何か忘れてたかな?」
「い、いえ。お忘れ物はありませんが……その、兄の事でお礼をと思いまして……」
そう言って、大きく深呼吸をした千寿郎に、鈴はキョトンと彼を見つめた。
「…‥お礼?」
「はい。……私は、兄の努力をずっと側で見て来ました。だからこそ、鈴さんが兄の思いに応えて一緒に稽古して下さるのが嬉しくて……」
頬を緩めながら、ありがとうございますと更に続けた千寿郎に鈴は思わず眉を下げる。
わざわざお礼を言うために、こんな所にまで追いかけて来てくれた千寿郎は、なんて健気で兄思いの青年だろう。
そう思うと同時に、先程まで自分が考えていたことは、千寿郎が言う兄の思いに応えているとは違うのではないか、と表情を曇らせる。
「……そんな、……千寿郎君が思ってるほど私はいい人じゃないよ?」
そして、気づけば鈴は余計な一言を口にしていた。
目を丸くした千寿郎を見つめ、口にしてしまったものは仕方がないと鈴は小さく苦笑いを浮かべる。
それからまだ当人にも言えていない、自分の本音をぽつりと漏らす。
「………本当は、煉獄さんにこれ以上無理をして欲しくはないの。……煉獄さんを失うのが怖くて……でも同じ鬼殺隊士として、彼の気持ちも分かるから……結局何も言えないまま、こうして中途半端に稽古に顔を出すしかできないだけで……」
「……鈴さん」
「ごめんね?折角追いかけて来てくれたのに、落胆させちゃったよね……」
そう言って眉を下げる鈴に、千寿郎は静かに首を横に振る。
「私だって兄を失いたくないと思っています。もうこれ以上傷ついて欲しくもありません」
「……そう、よね」
「はい。……鈴さんの言葉は、兄を大切に思っているからこそでしょう?それでも兄の側にいてくれるのは、兄の気持ちを尊重しているのと同じではないでしょうか?」
「……」
「私は鈴さんが兄の側にいてくれる事が嬉しいんです。きっと辛い思いや、悔しい思いもしている筈ですが……貴方がいてくれると、兄は穏やかに笑うんです。兄を支えてくれてありがとうございます」
「そんなっ、……支えて貰ってるのは寧ろ私の方で……」
そんな彼の言葉に、鈴が慌てて口を開いた瞬間、頭上から第三者の声が響く。
「ふーん………。煉獄とくっついたって噂は、本当だった訳か!」
「「えっ?」」
突然現れた声の主に、二人は驚き顔を上げる。
そんな二人の様子に、ド派手な飾りをつけた男が陽気な声で笑いかける。
「よぉ!尾上と、……煉獄んとこの弟か!珍しい組み合わせだな!」
「………ご無沙汰しております………ところで、音柱様はどうしてそんな所に?」
そんな宇髄の姿に、上官相手に失礼だとは思いつつ鈴は呆れたように彼を見上げた。
よぉ!なんて陽気に声を掛けて来た彼は、人様の家の屋根の上に腰を下ろし、こちらをじっと見つめている。
いつからそこにいたかは定かではないが……
恐らく、此方の会話を盗み聞きしていたのではないか。そんな事を思っての態度である。
「俺が何でここにいるかって?」
しかし、それを気にするそぶりもなくニカッと笑った宇髄は、その場に音もなく立ち上がると、次の瞬間には鈴達の隣に降り立った。
〝こんなに装飾をつけているのに、音すら立てないなんて……上背もあるのに、なんとも身軽だなぁ〟
宇髄が移動する様を呑気に眺めていた鈴だったが、お前に用があったんだよ!と口を開いた宇髄に、ひょいっと持ち上げられて慌てて声を上げる。
「わっ、わわ!ちょっと音柱様!?」
「おい、暴れんな!!」
いきなり米俵のように担がれれば誰だって暴れるし、そんな二人のやり取りを見ていた千寿郎も、どうしたものかと慌て始める。
だが、千寿郎が止めに入る前に、宇髄はくるりと振り返ると、彼に向かって笑いかけた。
「煉獄弟!コイツを暫く借りるって、兄貴に伝えといてくれ!」
「え?借り……え?」
え?と戸惑いながら首を傾げる千寿郎に、ふっと口元を吊り上げた宇髄は、くるりと向きを変えるとそのままもの凄い勢いで走り出す。
「じゃあなー!!」
「ちょっ、説明してくださいよぉぉーー……」
「ハハハッ!!」
その後には鈴の間伸びした叫び声と、豪快に笑い飛ばす宇髄の声がこだましていた。
それをポカンと口を開けて見送った千寿郎は、小さな声で呟いた。
「……兄上、鈴さんが攫われてしまいました」