第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
煉獄が無限列車の任務に就いてから四ヶ月。
あれから鈴の周りの環境は、目まぐるしく変化していた。
まずは勿論、想いを寄せていた煉獄と恋仲になったこと。これは、鈴の中でもかなり大きな変化だった。
彼が目を覚ました翌日には彼の父親にも挨拶を済ませているし、今では自宅療養となった彼の見舞いに何度も煉獄家へとお邪魔している。
その為二人の仲は最早、鬼殺隊公認となっているのだ。
そんな幸せ絶頂の筈の鈴だったが、彼女は時折浮かない表情をする事がある。
それは煉獄から聞かされた彼の病状に原因があった。
重症とは言え、呼吸を極めた筈の煉獄が今回の怪我の治療に苦労している原因は、彼の肺に大きな問題があった。
上弦の参からの激しい攻撃に彼の肋骨は折れ、肺の一部を傷つけていたのだ。
勿論、風穴を開けられた腹の傷が一番大きな怪我であることは間違いないが、隊士として一番重要な呼吸を思うように使えない。
これは彼にとって一番深刻な問題だった。
傷の治りが思ったよりも遅く感じたのは、全て肺の機能が著しく落ちてしまったことが原因だったのだ。
「胡蝶にも復帰は難しいと言われたが、何も可能性がない訳じゃない。元の感覚を取り戻すにはそれなりに時間を有するが……」
そう言って眉を下げた彼に、鈴は任務なんかよりも自分の体を大切にしてほしいと内心思った。
死にかける程の重傷を負い、損傷した肺のせいで呼吸も上手く使えこなせない。そもそも、片目が潰されただけでも、かなりの深手だというのに……
それでも、彼の父も言っていたが、煉獄さんは必死で鍛錬を積み柱に昇り詰めたのだ。それはきっと相当な覚悟と信念の上で成り立っていて。
それが分かるからこそ、鈴が容易く引退を進めることなど出来なかった。
「再び任務に復帰できるよう、鈴も稽古に付き合ってくれないか?」
心配な気持ちは勿論あるものの、結局鈴は何も言えずに、その問いかけに頷いたのだった。
******
それからと言うもの、鈴は煉獄家へと頻繁に足を運んでは、彼と共に稽古を送る日々を過ごしていた。
しかし、軽い鍛錬であれば卒なくこなす煉獄も、鈴へと激しい打ち込みを繰り返す内に、次第に息が上がり始める。
勿論、柱の打ち込みを受け流す鈴だって、汗を流し呼吸はいつもより上がっているが、健康体の彼女と病み上がりの煉獄では、訳が違うのだ。
「………あまり無理はしないで下さい。煉獄さん、少し休憩しましょう?」
大粒の汗を流す煉獄を見つめ、鈴は心配そうに口を開く。
それが聞こえたのだろう。同じように眉を下げながら、二人の打ち込みを見守っていた千寿郎も、手拭い片手に駆け寄ってくる。
「兄上……あまりご無理をされては傷に障ります」
二人に声をかけられて、ハッと顔を上げた煉獄は困ったように眉を下げると「……すまない」と苦笑いを浮かべた。
******
とぼとぼと帰路に着く鈴は、悩ましげに眉間に皺を寄せて今日の稽古を思い返していた。
「すまない、調子に乗りすぎてしまったようだ……鈴も任務があるのに、いつもありがとう。今日はこれで終いにしよう」
結局あの後、煉獄の一言で今日の稽古は打ち切りとなった。
きっと本人も無理をしている自覚があるのだろう。
心配をかけてしまったことに謝罪をし苦笑いを浮かべた彼だが、悔しそうに竹刀を握りしめているのを目撃してしまった鈴は、なんとも言えない複雑な感情を抱いた。
同じ隊士として、力を取り戻すのに必死にもがいている彼の姿には、鈴だって胸が痛む。
できる事なら彼が満足するまで稽古にだって付き合ってあげたいし、きっと稽古は終いだなんだと言っても、彼ほどの努力家なら、今頃一人で素振りを続けていてもおかしくはない。
……しかし、どう頑張っても、全部元通りとはいかないのだ。
呼吸を上手く使えるようになったとしても、肺の一部が機能しない事に変わりはないし、片目の視力が戻るわけでもない。
〝……もうあんな思いはしたくないのに〟
眠り続ける彼に寄り添った日々を思い出し、鈴は人知れずため息を落とした。