第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鈴の足から綺麗に破片を取り除き、傷口を縫い上げたしのぶは、最後に化膿止めの薬を染み込ませたガーゼをそこに貼り付けて、立ち上がった。
「とりあえず傷口が塞がるまでは、任務はお休みです……念のため二、三日は蝶屋敷で看させて下さいね?」
「……はい、お世話になります」
小さく呟いて頭を下げた鈴に、しのぶはクスリと笑みを浮かべた。
「では、ずっと扉の外でお待たせしていますし、心配していると思いますので、煉獄さんをそろそろ呼んできますね」
そう言ってくるりと部屋の入り口へと振り返ったしのぶが、ゆっくりと扉に手をかける。
「煉ご「鈴!!大事はないか!?」
「は、はい……ご心配をおかけしました……」
ガラリと扉を開いた瞬間ー……
しのぶの言葉を遮るようにして口を開いた煉獄は、しのぶを挟んだその向こう、パチクリと瞬きをする鈴に向かって問いかけた。
それに呆れたような視線を送るしのぶは、彼にさり気なく道を譲る。
すると、すかさずズカズカと鈴の座る寝台へと歩みを進めた煉獄に、しのぶは思わずため息を漏らした。
「……煉獄さん、少しは落ち着いて下さい。」
「胡蝶!!鈴の傷の具合はどうなのだろうか!?」
「‥‥ご安心下さい。鈴さんの傷は深かったので、念のため蝶屋敷で療養していただく予定ですが、幸い傷口も綺麗に処置出来ましたので、恐らく傷跡も残らないと思います」
「そうか!!それは良かった!!だが、そうか……蝶屋敷で療養か……」
深刻な表情でむう、と腕を組んで考え始めた煉獄に、しのぶは不思議そうに首を傾げた。
「蝶屋敷では、何か都合が悪かったですか?」
「いや、だが、むう。……一つ確認したいのだが、それは煉獄家では駄目だろうか?」
「「……は?」」
真剣な顔で口を開いたかと思えば、何を言い出すんだ……
上官相手に思わず素っ頓狂な声を漏らした鈴だが、それに重なり合ったしのぶの声が、自分の反応は正常だと告げている。
「煉獄さん、……さすがに怪我の療養は此方にお任せ頂きたいのですが」
「むう……、しかし」
「全く……、いいですか?煉獄さんは任務で家を空けるでしょうし、万が一傷口が化膿したり、その影響で熱が出たら、どうするつもりですか?」
「それは……」
「それに!年頃の女性を家に連れ込もうだなんて、煉獄さんには失望しました」
「し、しのぶちゃん!!」
しのぶの冷たい物言いに、鈴は思わず声をかける。チラリと煉獄に視線を移せば、彼は眉間に皺を寄せ険しい表情で固まっていた。
そこで、そう言えば……と彼に出会った時の言葉を思い出した鈴は、遠慮がちに口を開いた。
「えっと……炎柱様?私に頼みがあると言われていましたが、もしかして取り急ぎ行わなければならない物でしたでしょうか?」
それがどんな指令かは知らないが、もしも緊急を要する物であれば、蝶屋敷でうかうか寝ているわけにも行かない。その妥協策で彼の家などと、言い出したのではないだろうか。
そんな思いで鈴が彼を見つめれば、しのぶから視線を移したその瞳と自ずと視線がかち合って、彼はピタリと動きを止めた。
「……あの、炎柱様?」
それに戸惑いながら、鈴が再び声をかければ、煉獄の頬はみるみる赤くなっていく。
どうかしたのだろうか?と鈴は小首を傾げてしまう。
だが、鈴 は全く気づいていなかった。
寝台に座っている為、自然と上目遣いで彼を見上げ、可愛らしく小首を傾げた鈴の姿に、煉獄が悶絶していたなんて……
その直後、いきなり左手を握られて……
「わっ、炎柱さ「鈴、俺の妻になって欲しい!!」
まさか求婚されるなんて……
一体誰が予測出来るのだろう。
「……つ、ま?」
「うむ!!俺の妻にな「ま、待って下さい!!」
それにはすかさず鈴も静止の声を上げる。
「え、あの?……炎柱様、なんのご冗談です?」
「冗談ではない!!俺の妻になって欲しい!!」
「何度も仰らなくて大丈夫です……」
困ったように鈴が視線を逸らせば、彼の背後でクスクス笑いを堪えるしのぶが目に入り、思わず眉間に皺を寄せる。
だが、次の瞬間、ズズイと顔を近づけて来た煉獄に、ひっ…と小さく悲鳴を上げた。
「君さえ良ければ、すぐにでも父に紹介したいのだが、返事はどうだろう!!」
「えーっと………お断りします」
「む?何故だ!!」
「何故って……互いのこともよく知らないのに、そんな……」
「ハハハッ、それならば心配いらない!!君の事ならよく知っている!!」
「へ?」
豪快に笑う煉獄に、鈴が戸惑いの視線を送れば、彼はツラツラと喋り出す。
「尾上 鈴、歳は17の水の呼吸を使う乙の隊士。甘露寺の同期で「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
「む?どうかしたか?」
なんとも不思議そうに首を傾げた煉獄に、そう問いかけられた鈴は、掴まれていない方の掌を額に当てて項垂れた。
何故、一隊士の情報をそんなに知っているのかと、恐る恐る彼に尋ねてみれば「甘露寺から聞いた」と悪びれる事もなく口にする。
〝ああ……蜜璃ちゃんの師範なんだったっけ〟
思わぬ影の協力者に、鈴が頬を引き攣らせていれば、右手までも掴み上げ、彼は笑顔で言い放つ。
「ひと目見た時から君に心を奪われた!!鈴を一等好いている!!」
「ひぇっ……す、好いてっ……」
パニック寸前の鈴に、煉獄が更に顔を近づけた、その瞬間ーー……
「はい。煉獄さん、そこまでです。」
二人の間にスッと手を差し入れたしのぶは、ふわりと可愛らしく笑みを浮かべた。
「鈴さんは、昨晩すばしっこい鬼と長いこと追いかけっこをしていた様ですし、それに加えて足に大怪我を負っているんですよ?色々と思うところはあるでしょうが、まずは彼女に休息を与えてあげて下さい」
「……むう、それもそうだな」
しのぶの一言に、ふむと考え込んだ煉獄は、鈴の頭をひと撫ですると、すくっと立ち上がり口を開いた。
「では今日のところはお暇するとしよう!!鈴、ゆっくり休むといい!!」
「え、あ、はい……あ、ありがとうございます?」
「うむ!!では胡蝶!!鈴の事、くれぐれも宜しく頼む!!邪魔したな!!」
そう言って勢いよく去って行った煉獄の背中を見送って、鈴はほっと息を吐いた。
「しのぶちゃん、助けてくれてありがとう……」
「いえ、私に出来ることなど限られていますので……」
眉を下げて口を開いたしのぶは、疲れ果てた表情を浮かべる鈴を盗み見て、苦笑いを浮かべる。
「鈴さんなら可愛いお嫁さんになりそうですね?」
「…‥やめてよ、しのぶちゃん」
「あらあら。でも鈴さんが嫁いでいくとなれば、冨岡さんが泣きますよ」
「義勇が?まさか……」
そう言って顔を見合わせた二人は、無愛想な共通の知人を思い浮かべて、同時にため息を漏らすのだった。