第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
任務で汚れきった体を、申し訳なく思いつつも最寄りの藤の家に立ち寄り、綺麗に洗い落とす。
「鬼狩り様、お布団のご用意が出来ました」
「あ、いえ……折角ご用意頂いたのですがこの後用事がありまして……」
こんな時間にも関わらず手厚くもてなしてくれた主人に礼を言い、鈴は再び蝶屋敷に向けて走り出す。
折角湯を浴びたのだから、汗をかいては意味がなくなってしまうのだが……
〝煉獄さんの顔をチラリと見たら家に帰ろう〟
昨日までの不安な気持ちとは打って変わり、今は早く煉獄さんに会いたいと、早る気持ちで足を進めた。
******
早朝……と言えど、まだかなり早い時間帯。
蝶屋敷へと戻って来た鈴は、なるべく物音を立てないようにと、屋敷の廊下を忍足で進んでいた。
昨日は、煉獄さんが目覚めたばかりだと言うのに長居をしてしまったのだ。
きっとまだ疲れて眠っているに違いない。
そんな事を思いながら静かに病室の扉を開けばー……
「おはよう鈴!!任務ご苦労だった!!」
「…‥へ?」
しっかり状態を起こした煉獄さんに笑いかけられ、思わず変な声が漏れた。
それにハハハッ!と豪快に笑い声を上げた煉獄さんは、昨日蝶屋敷の娘達から聞かされたのだが……と口を開く。
そこから始まった話は、‥‥正直、どれもこれも耳が痛くなるようなものばかり。
彼が眠る間、隙あらば病室に顔を出し碌に睡眠も取らずに任務へと向かっていたこと。せめてもと食事をお願いされた時も、さっと軽いものだけで済ませていた事。
さらにはしのぶちゃんや義勇に叱られた事までもが全て筒抜けだった。
「冨岡や胡蝶にこっぴどく叱られたのだろう?それでも任務明けに顔を出すことは辞めないのだと、蝶屋敷の娘達が嘆いていた!!」
……とまあ、この一ヶ月余りの横暴を聞き出したらしい彼の視線に、耐えきれなくなって下を向く。
「まさかとは思っていたが……本当に来るとは思ってもみなかった!!」
「………すみません」
「任務後で疲れているだろうに」
「いえ。途中の藤の家で湯浴みさせて頂いたので、疲れはそんなに……」
最後は恥ずかしさの余りごにょごにょと語尾を濁してしまったが、恐らくしっかりと聞き取ってしまったのだろう。
盛大に吹き出した煉獄さんに八つ当たりするかのように声を荒げる。
「だ、だいたい、……何でこんな時間に起きてるんですか!!昨日目覚めたばかりなのに……体だって本調子じゃないでしょう!!」
それにキョトンとした表情を浮かべた煉獄さんは、ずいぶん眠ったからな!と返事をする。
「それに俺は元々早寝早起きが得意なんだ!!」
そう続けた彼の言葉に、面食らったように言葉を失う。
鬼殺隊なんかやってたら早起きは兎も角、早寝なんか出来ないだろうに。
そう考えては見たものの、柱の皆は並の隊士とは訳が違う。もしかしたら物凄く眠りが浅く、まだ日が昇り始める位の早朝から鍛錬に打ち込んでいるのかもしれない。
……それ程までに、彼らは化け物並みの身体能力を持ち合わせているのだ、多分。
それに早寝早起きが得意……
煉獄さんだと妙な説得力がある。鬼殺隊じゃなければ、絵に描いたような健康的な生活を送っていそうである。
とまあ、あまりに分が悪い話の連続に思わず脱線しかけた思考だが……
「鈴、こっちへおいで」
煉獄さんに手招きされた事でハッと我に帰り寝台へと近づいていく。
思えばまだ早い時間だと言うのに、病室の扉すら閉め忘れて大声を上げてしまっていたことに、今更ながらに気がついた。
「あの、すみません……少し顔を見たら帰ろうと思っていたので……その、まさか煉獄さんが……起きてるとは思わなくって……」
今更言い訳を口にし始めたのが余程可笑しかったのだろう。
それにくすくすと笑みをこぼした煉獄さんは、折角来てくれたのだから鈴さえ良ければもう少しいてくれないか?と笑いかけた。
こうしてさり気なく人を気遣えるからこそ、彼は沢山の女性隊士……いや、隊士だけではないだろうが、沢山の女性に慕われているのだろう。
そんな事を考えながら漸く椅子に腰掛けた頃、何やら騒がしい足音に気がついた。
それはドタバタと音を立てながら、迷う事なく此方へと近づいて来る。
そしてそのまま勢いを殺す事なく、扉を豪快に開け放った。
「兄上!!………と、鈴さんもいらしていたんですね」
はぁはぁと荒い息遣いで駆け込んできた千寿郎に、二人は優しく眉を下げる。
「千寿郎、色々と心配をかけたな!!だがもう安心するといい!!俺はこの通り、もう大丈夫だ!!」
「兄上……本当に心配したんですから……」
そう言って涙ぐんだ千寿郎に煉獄さんは、うむ!と豪快に笑い声を上げる。
それに鈴が小さく笑みを落とせば、千寿郎は思い出したように鈴へと頭を下げた。
「鈴さん、鴉を飛ばして下さりありがとうございます。昨日はもう夜も近いと父に止められてしまいましたが……おかげで今朝は早くから兄上に会いに来られました」
「いえいえ、そんな大した事じゃないわ?……それより千寿郎君、こんな早くから出てきてお父様は大丈夫なの?」
「ああ、それなんですが…「ちょ、ちょっと待ってくれ」
千寿郎君と話をしていれば、煉獄さんは驚いた様子で声を上げる。
それに二人してキョトンと小首を傾げれば、気のせいかもしれないが……と遠慮がちに口を開いた煉獄さんは、千寿郎と親しくなっていないだろうか?と言葉を続けた。
「ふふっ…はい、まあ。……ねえ千寿郎君?」
「え?ああ、そうですね。鈴さんには色々と良くして頂きました」
それに曖昧な返事を返せば、煉獄さんはまるで拗ねているかのようにムッと口を噤む。
こんな事、年上の男性に言っては失礼だが……
あまりに可愛い反応に、千寿郎君と二人してクスクスと笑い声をあげてしまった。
「兄上。鈴さんには兄上の病室でよくお話を聞いて頂いていたんです」
「……話を?」
「ふふっ、本当ですよ?千寿郎君は煉獄さんのお話していた通りの、とっても素敵な弟さんでした」
「成る程、そう言う事か!!」
そう言ってニカッと笑った煉獄さんは、千寿郎君へと視線を移すと父上も変わりはないか?と声を落として問いかけた。
「変わりはないといいますか……いや、この場合はあると言った方がいいのか……」
「むう?父上がどうかされたのか!?」
「いや、大丈夫なのですが……説明するより見ていただいた方が早いですね……」
そう言って千寿郎は扉の方へ視線を移した。
それに釣られて二人も入り口へと目を向けるが、開け放たれた戸の先に何がある訳でもない。
「「……?」」
思わず煉獄さんと一緒に小首を傾げてしまったが、千寿郎君はそれにため息を落とすと、そちらに向かって歩き出す。
そのまま廊下を覗き込んだ千寿郎君は、誰かに向かって声をかけた。
「……此処まで来たんですから」
「……お前が連れて来たんだろう」
コソコソと話し声が聞こえるが、どうやら彼がこの病室に訪れた時から、その声の主は廊下で息を潜めていたらしい。
そんなやり取りに首を傾げながら暫く入り口を眺めていれば……
「おい、コラ!引っ張るな!!」
千寿郎君に引っ張られるようにして、煉獄さんにそっくりな男性が顔を出す。
「……父上?」
隣から聞こえた小さな声。
恐らく……いや、此処まで似ているのだから間違いなく、千寿郎君が以前話していた彼らの父親なのだろうが……
あまりに突然の登場に、鈴は思わず固まった。