第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目を見開いてぼろぼろと大粒の涙を流す鈴を見つめ、煉獄は困ったように眉を下げた。
起き上がった瞬間腹部に走った鈍痛や、随分と重たく感じる自身の腕……
それから鈴の見た事がない取り乱し様に、自分が長い間眠ったままだった事を思い知る。
けれども、そんな事などどうでもいいと思える程に、先程の鈴の言葉だけが頭の中でこだまする。
『私は貴方がいてくれたら、それだけで幸せです……煉獄さんをお慕いしています』
あの時、真っ暗な暗闇の中で鈴の声が確かに聞こえた。
どんなに願っても叶わなかったその想いに、ハッと気づいた時には思わず手を伸ばしていた。
「煉獄さ「………それは本当だろうか?」
それに確かに触れたと思った時には、驚きながら振り返る鈴の顔が目に入り、これが現実なのだと理解した。
それと同時に、先程の言葉は夢ではないと確かめたくて、鈴の顔をじっと見つめた。
「煉獄さんっ、……よかった、本当にっ……あの、私っ、しのぶちゃんを呼んで来ます」
「いや、待ってくれ……っ、」
しかし、我に帰ったように涙を拭い掌からすり抜けて行った鈴の腕に、思わず大きな声を上げる。
勿論、起きたてにそんな調子が続く筈もなく、ゲホゴホッと思わず咳き込めば、鈴が慌てて水差しを口元へと添えてくれた。
それをごくりと飲み込んで、漸く落ち着いた体に深く息を吐くと、煉獄は困ったように眉を下げた。
「体は大丈夫だから、胡蝶を呼びに行くのは後でいい。今は……もう少し側にいてくれないか?」
「……でも」
「頼む。少しでいいんだ……」
小さな声でそう呟いた煉獄に、鈴は困った様に眉を下げ、静かに椅子へと腰を下ろした。
「煉獄さん、体は大丈夫ですか?何処か痛むところはないですか?」
「大丈夫だ!今のところ体が重いだけで痛みはない!」
笑顔で返事をした煉獄に、鈴はほっとしたように息を吐くと遠慮がちに、気を失う前の事覚えていますか?と問いかけた。
「……ああ、俺が記憶しているのは上弦を取り逃がした所までだ。鬼の首を打ち取る事も出来ずに、柱などと…‥不甲斐ないな」
「そんなっ、……炭治郎君から聞きました。上弦の鬼を相手に、一人の犠牲者も出さずに煉獄さんが乗客を守りきったこと……それがどんなに凄いことか、皆んな充分理解しています。……だけどっ、」
そこまで口にして、ぐっと言葉を飲み込んだ鈴は、随分と小さい声で呟いた。
「………それがどんなに立派な事でも………煉獄さんを失ってしまっては意味がないです」
「……鈴」
「怖かったです、とても……」
そう言って俯いてしまった鈴に、ぎゅうっと胸が締めつけられる。
彼女にそこまで心配をかけてしまった事への罪悪感も勿論あるが、そこまで想ってくれていた事を知り、満たされていく自分の心に笑みが溢れる。
そっと鈴へと腕を伸ばし、その掌を包み込めば鈴はビクッと肩を揺らす。
それに構わずぎゅっと更に力を込めて、優しく努めて口を開く。
「…‥眠っている間、ずっと暗闇の中にいた。音もなく、光も差し込まない。右も左も分からない状況に出口を探すことも、正直諦めかけていた」
「……」
「だがそんな時、鈴の声が聞こえたんだ」
その一言に、……え?と戸惑いながら顔を上げた鈴は、何かを察したのか困った様に眉を下げた。
「君の元に帰らなければと必死で手を伸ばした。気づけば暗闇も消え去って、本当に鈴が俺の前にいた。………あの夢で聞こえた言葉……鈴も俺を想ってくれていると聞こえたあれは、本当だろうか?自惚れてもいいだろうか?」
「そ、れは……」
「それは?」
決して逃さないとでも言うように、鈴をじっと見つめれば、鈴は顔を青褪めて小さな声で呟いた。
「……すみません、さっきの言葉は忘れて下さい。私は一隊士ですから、柱である煉獄さんとどうこうなりたいなんて、そんな馬鹿な夢抱いていません」
「むう、それは何故だろう?鈴の想いも俺と同じだと知ったんだ。勿論、俺も引くつもりはない。鈴が自分をそんなに卑下する意味も分からない」
眉を下げ困り果てる鈴に、自身の想いを伝えれば、悲しそうに目を伏せた鈴はその理由を口にした。
「‥‥私、子供が産めないんです」
「‥‥子供?」
その問いかけに自傷気味に笑みを落とすと、鈴は自身の腹へと片手を当てた。
「私がまだ隊士になりたての頃です。まだ経験も実力も乏かった私は、まんまと鬼の術中にはまり大怪我を負った事がありました……義勇に助けて貰って何とか命拾いしましたが、その時受けた攻撃で、子宮が傷ついてしまったようです」
「……なっ、」
「しのぶちゃんからは、子供は難しいと言われました。勿論隊士として生きていくと決めていたから、辛くはないですが……煉獄さんは違う。貴方は代々鬼狩りを継いできた名家のご長男。きっと周りからも、跡取りを期待される……こんな私では、煉獄さんに釣り合う筈ありません」
だから、ごめんなさい…
そう言って頭を下げた鈴を見つめ、煉獄は小さく息を吐く。
恐らく怪我の治療をした胡蝶以外、その事実を知る者はいないのだろう。同期の甘露寺にすら相談もせず、ずっとひた隠してきた心の傷は、そう簡単なものではないとも理解している。
だけど、それでも、この想いを諦め切れる理由になる筈もない。
煉獄は痛む体を押し殺し、掴んでいる鈴の腕をぐっと自身の胸へと引き寄せる。
「っ、……「子供が欲しいから、鈴を好きになった訳じゃ無い!」
「でも…」
「子供が欲しく無いかと聞かれれば、それは勿論授かれば嬉しいとは思う……だけど、誰の子でもいい訳じゃ無い!」
そう言い切った煉獄に鈴が言葉を失えば、ぎゅうと更に力を込めて彼は優しく語りかけた。
「鈴だから側にいたい、鈴だからその笑顔を守りたいと思ったんだ」
「っ、……」
「それに後継ぎをと君は言うが……そればかりは授かりものだ。必ずできるとも限らない。それを恐れて、本当の気持ちに蓋をするのは勿体ないと思わないか?」
「‥‥勿体ない」
「うむ!俺には鈴が必要だ……鈴が分かってくれるまで、何度だって懲りずに言おう!君を一等好いている!!鈴が誰より大切だ!!」
優しく笑いかける彼の言葉は、固く閉ざした心の扉を、最も簡単に壊していく。
諦めていた筈の幸せに、私も手を伸ばしてもいいのだろうか……
そんな勘違いをしてしまいそうで、思わず自分が怖くなる。だが、その瞬間、彼が炭治郎へと託した言葉が頭に蘇る。
『いつも笑顔でいて欲しい。幸せになる事をどうか自分で諦めないでくれ』
その優しい言葉たちに背中を押され、鈴は漸くうちに秘めた想いを口にした。
「……私も、煉獄さんを誰よりも大切に想っていますっ、……煉獄さんが大好きです」