第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
中庭が見渡せる場所までやって来た鈴は、縁側にちょこんと腰掛けると、隣をぽんぽんと叩いて口を開く。
「炭治郎君、ここで少し話さない?」
ふわりと優しく目尻を下げた鈴に、炭治郎は徐に頷いた。
それから鈴の隣に腰掛けると、意を決したように口を開いた。
「‥‥本当はもっと早くに謝るべきでした」
「謝る?」
「…‥俺、……煉獄さんには守られてばかりでっ、……何にもできなくて……「炭治郎君」
うっすら涙を浮かべながら謝罪の言葉を口にし始めた炭治郎に、鈴は優しく声をかける。
それから至極当然だと言うように、煉獄さんは強かったでしょうと笑いかけた。
「煉獄さんはきっと誰よりも前に立って戦うわよね……勿論柱だから実力も素晴らしいものがあるんだろうけど、煉獄さんは正義感溢れる人だから……一人で二百人以上も守るだなんて信じられる?」
そう言ってふっと口元を緩めた鈴は、だから皆んな彼に憧れるし、頼もしいと思うのよね?と最後に笑った。
優しく微笑む鈴からは、悲しみの匂いも多少は感じるが、それよりも彼を尊敬し心の底から大切に思っている……そんな情愛の匂いが強く漂っており、炭治郎は思わず眉を下げた。
数日前、煉獄の病室を訪ねようとした時に漂ってきた深い悲しみの匂い。
あの時は、鈴の想いを知っているからこそ、彼の言動を伝えるのが怖くなり、思わずたじろいでしまった。
いや、本当は鈴が見舞いに来てくれた時だって、何度もそれを口にしようとした。
だけど、これ以上傷つく鈴を見たくなくて、結局伝えられずに此処まで来てしまったのだ。
しかし今の鈴からは、何かが吹っ切れたように優しい匂いが溢れていた。
それから此方を気遣い、まるでその状況を知っているかのように話す鈴に、炭治郎は戸惑いながらも口を開く。
「……煉獄さんは凄い人ですね」
「ふふっ、そうでしょう?」
「はい。俺も煉獄さんのような……強い人になりたいです」
「なれるよ、炭治郎君なら……人の痛みに寄り添うことが出来るんだもの。きっと煉獄さんも同じ事を言う筈よ?」
それから優しく目尻を下げた鈴は、風に揺れる洗濯物へと視線を移し、クスクスと小さく笑みを溢す。
「義勇がね?煉獄さんはしつこい男だって…決して諦めない男だから、安心しろって言うのよ?」
「冨岡さんが?」
「ふふっ、可笑しいわよね?………でも、私も義勇に言われて同じ事を思ったの。煉獄さんなら諦めない、彼なら絶対に目を覚ます、って」
「………鈴さん」
「だから私なら大丈夫!それに炭治郎君が謝ることなんて何もないわ」
穏やかに笑う鈴の様子に、炭治郎も釣られて口元を吊り上げる。
それから同じように庭へと視線を移すと、静かに目を伏せ、思いを巡らせた。
初めて鈴さんに出会った時からそうだ。
鈴さんはいつだって、俺や禰󠄀豆子を気遣い優しく笑いかけてくれた。
だけど、いつも何かを諦めているかのように自分の事を蔑ろにする彼女が、お館様の前で俺たちを庇い必死になってくれた時は、嬉しさもあった半面、同時に彼女まで罪に問われるのでないかと心配だった。
しかし、そんな鈴さんの側には、心配そうに彼女を見つめる煉獄さんがいた。
初めて会った時こそ、禰󠄀豆子を斬首だと言い捨てた彼になぜ理解してくれないのかと思ったりもしたが、いざ任務を共にしてみれば責任感に溢れた面倒見のいい人だと分かった。
それに、嬉しそうに鈴の話をしていた煉獄さんに、彼らが互いを大切に想いあっていると知った時は、自分の事のように安心したのだ。
他人ばかりを優先してしまう優しい彼女を、きっと煉獄さんなら支えてくれるだろうと……
「……煉獄さんが気を失う前に、鈴さんへの言葉を預かっているんです。」
鈴の瞳を見つめ口を開いた炭治郎は、迷うことなく彼の言葉を口にした。
「鈴さんには………」
******
煉獄が寝かされている病室に戻った鈴は、先ほど聞かされた言葉を呟き、笑みを落とす。
「鈴にはいつも笑顔でいて欲しい。幸せになる事をどうか自分で諦めないでくれ、か……」
何処までも優しい彼は、気を失う寸前まで他人を気遣い、また新たに足を踏み出すための、背中を押す言葉まで口にしていたようだ。
「敵わないなぁ……私の幸せ、か」
ぎゅっと彼の手を握り締め、優しく目尻を下げた鈴は、今まで口に出来なかった言葉をポツリと口にした。
「私は貴方がいてくれたら、それだけで幸せです……煉獄さんをお慕いしています」
それだけ告げて笑みを浮かべると、鈴はすくっと立ち上がる。
そして彼に背を向け部屋の出口へと歩き出そうとした瞬間、ぱしっと腕を掴まれて、鈴は驚き振り返る。
「煉獄さ「………それは本当だろうか?」
久しぶりに聞いた彼の声は随分掠れていて、掴まれている筈の腕も、いつもの彼からしたら弱々しい力だと思う。
けれども、開かれた瞳に宿る炎は相変わらず勇ましくて、ただ見つめられているだけなのに、それだけで全身が脈打つように熱くなる。
「煉獄さ、ん……本当に?っ、……」
問いかけられた言葉に碌な返事も出来ないまま。
気づけば鈴の瞳からは、ぼろぼろと大粒の涙が溢れ出していた。