第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……鈴さん、今日もいらしていたんですか。お声をかけていただければ宜しいのに」
「……ごめんね。皆んな、忙しそうだったから」
そう言って煉獄へと視線を移した鈴に、アオイはそれ以上何も言えずに押し黙る。
それから困ったように眉を下げると、朝ご飯を用意しますと一言告げて、静かに病室を後にした。
二人きり、病室に残された鈴は煉獄の掌を優しく包んで口を開く。
「煉獄さん、アオイちゃんが朝ごはんを持って来てくれるそうですよ……もうそろそろ、お腹が空いてきた頃じゃないですか?」
だが、未だ眠り続けている煉獄からは返事はない。
それに自傷気味な笑みを落とした鈴は、悲しそうに目を伏せた。
******
あの日ー……
煉獄や炭治郎達が上弦と出会した列車の任務から、早いもので二週間もの時間が過ぎようとしていた。
鈴の弟弟子でもある炭治郎も腹部に深い傷を負っていたが、それを上回る程の重症を負った煉獄は二週間が経った今も、未だに意識が戻らぬままだ。
極められた呼吸と、人並外れた生命力で何とか命を繋ぎ止めた煉獄だが、しのぶの説明によれば命がある事自体が奇跡なのだそうだ。
逆を言えば、息をしてはいるものの、このまま目覚めぬ可能性すらあり得るとのことだった。
だが、スヤスヤと眠る煉獄は顔色も随分と良くなっているし、傷口も少しずつ塞がり始めているようだ。
「……煉獄さん、今日はポカポカのいい天気ですよ」
穏やかな表情で眠っている煉獄は、ただ眠っているだけのようで、今にも目を覚まして豪快に笑い声を上げるんじゃないかと鈴はじっと彼を見つめる。
「っ、……」
……だが、そんなに都合よく彼が目を覚ます筈もなく、
それから数秒後、悲しそうに目を逸らした鈴に、後ろから呆れたような声がかけられた。
「鈴さん、2日前にも休むようにと言いましたよね?煉獄さんが心配なのは分かりますが……貴方まで倒れてしまっては、元も子もありません」
「………しのぶちゃん」
心配して声をかけてくれたのだろう友人と、その奥にこちらをじっと見つめる兄弟子の姿が目に入り、鈴は気まずそうに目を逸らした。
「……私なら大丈「大丈夫ではないですよね?昨日の任務で怪我を負ったと聞いています」
「そんな、怪我だなんて……ただの擦り傷だから」
「それでもです。たまたま弱い鬼だったから、擦り傷程度で済んだだけです。……鈴さん、人には限界があります。寝不足で疲れきっている今の貴方なんて、いつ命を落としても可笑しくはないですから」
「………ははっ、そんな大袈裟な言い方をしなくても……義勇もそう思うでしょ?」
そう言って兄弟子に救いを求めた鈴に、義勇は分かりやすくため息を落とした。
そして、しのぶの横を通りぬけ、ゆっくりと近づいてくる義勇に、鈴はキョトンと首を傾げる。
「義勇?どうかし、た、の……」
その瞬間、さっと間合いを詰めた義勇が、鈴の首に手刀を落とす。
突然の出来事に全く反応が取れなかった鈴は、だらりと意識を失うが、義勇が何なくそれを受け止めた。
「こんな攻撃すら避けられないのに、大丈夫なわけがないだろう。戯け者が……」
そう言って、鈴を抱え上げた義勇に、しのぶも困ったように眉を下げた。
******
煉獄が大怪我を負ったと聞いたあの日以来、鈴が任務以外の時間をなるべく彼の見舞いの時間に当てているのは、勿論義勇だって気がついていた。
時折二人で出かけるのを見かけた事もあるし、嬉しそうに煉獄の話を口にする鈴に、なんとなくだが鈴も煉獄を慕っているのだろう事も分かっていた。
だからこそ、今回のことを自分がとやかく言う必要もない、そう考えていたのだ。
しかし、しのぶからの呼び出しで蝶屋敷まで駆けつけてみれば、聞かされた話は義勇が想像していたよりも随分酷いものだった。
毎晩、任務が終わり蝶屋敷へとやってきては、無断で煉獄の病室へと上がり込む鈴は、任務に着くギリギリまで彼の側から離れないという生活を送っているようだ。
初めの二、三日は屋敷の娘達が心配して体を休めるようにと声をかけていたようだが、病室に備えられている簡易的な椅子で仮眠を取るだけの鈴に、今となってはせめて食事だけでもと口煩く世話を焼いている始末なのだとか。
元々人様に迷惑をかけるどころか、何でも卒なく熟す鈴が、ここまで無茶をするなどしのぶも、勿論義勇ですら予想もしていなかった。
流石にいつまでもそんな状況を見過ごす事が出来る訳もない。かと言って、幾らしのぶが口煩くしたところで今の鈴が素直に言うことを聞くとも思えない。
そこで白羽の矢が立ったのが、彼女の兄弟子でもある義勇だったのだ。
ぐったりと眠る鈴の目の下にできた隈を見つめ義勇は、再びため息を吐く。
何とか一命を取り留めた煉獄は、相変わらず眠ったままでいつ目を覚ますのか分からない状態だ。
しかし、今の鈴よりもしっかり睡眠を取っている彼の方がまだ健康的に見えるほど、鈴の疲労は明らかだった。
「……胡蝶。世話をかけたな」
「いえ………。お館様には私から伝えておきますので、今日はゆっくり休ませてあげて下さい。」
「ああ……」
それにこくりと頷いた義勇は、鈴を抱え上げるとちらりと煉獄へと視線を移す。
「また来る」
そう一言呟いて病室を後にした義勇の姿に、しのぶはパチパチと瞬きを繰り返す。
「冨岡さんが、また来るだなんて……
いつまでも寝こけてる場合ではないですよ?煉獄さんを待っている人が沢山いるんですから」
穏やかな顔で眠る同僚に、優しく目尻を下げながらぽつりと小さく呟いて、しのぶも病室を後にした。