第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
まだ夜も開けきらない、薄暗い時間ー……
「胡蝶っ!!!胡蝶はいるか!?」
怪我を負った鈴を抱え蝶屋敷までやってきた煉獄は、駆け込むように勝手に屋敷へと上がり込むと、大声で屋敷の主人の名前を口にした。
「え、炎柱様……私なら大丈夫ですので、もう少し声を抑えて下さい」
それにはすかさず鈴も静止するように呼びかけたが、彼には届いていないのか、ズカズカと屋敷の廊下を進みながら、未だに大声で叫んでいる。
「胡蝶!!!胡「全く……騒々しいと思って来てみれば……煉獄さん、もう少し時間を考えてください。まだ早朝と呼ぶにも早すぎる時間帯なのですよ」
「それはすまない!!しかし緊急を要するのでな!!」
小言を唱えながら姿を現した探し人に、全く悪びれる様子もない煉獄は、またしても大声で口を開いた。
それには流石のしのぶも、額に青筋を浮かべたのだが、彼が抱き上げる人物が口を開いた事で、ぐっと言葉を飲み込んだ。
「炎柱様、本当に私なら大丈夫ですので……」
「む?君は怪我人なのだから、大人しくしていなさい」
「い、いえ!!こんなの大した怪我ではないので、そんなに騒ぎ立てなくても……」
「そんな事はない!!それに君の柔肌に傷が残ってしまったらと思うと……どうにも気が気ではなくてな!!」
「や、柔肌……」
その言葉に、何とも言えない表情を浮かべた鈴は、暫し視線を彷徨わせた後、助けを求めるようにしのぶを見つめた。
「…………しのぶちゃん」
「……まあ、何となく事情は察しましたが……これはまた、珍しい組み合わせですね」
「えっと……任務で足を怪我してしまって……たまたま、そこに通りかかった炎柱様に此処まで運んで貰ったんだけど……」
「たまたま……そうでしたか。それは大変でしたね………では、此方で治療しますので……煉獄さん、着いてきてください」
そう言って笑みを浮かべたしのぶからは、先程まで感じていた怒りは何処かへ消え失せていた。
代わりに、哀れなものを見るように鈴へと視線を移したしのぶに、鈴は不思議そうに首を傾げた。
「うむ!!頼んだぞ、胡蝶!!」
「………勿論です」
そんなしのぶに対し、煉獄は力強く頷くのだった。
******
通された診察室で、寝台に足を投げ出して座った鈴に、しのぶは困ったように眉を下げた。
「これは……中々盛大にガラス戸に突っ込んだようですね」
「……すばしっこい鬼に無我夢中で……それどころじゃなかったのよ」
「成る程……確かに、これでは煉獄さんも慌てる筈です。勿論この怪我の度合いからして、軽傷ではないですよ」
「………はい、ごめんなさい」
煉獄だけでなく、しのぶにまで怪我について小言を言われてしまった鈴は、しゅんと肩を落としてみせた。
それに苦笑い浮かべながら、しのぶは鈴の
「とりあえず、ガラスの破片が残っていないか確認しますので、痛むとは思いますが傷口を触りますね。」
「……はい」
「隊服はこれだけ破れていては使い物にならないでしょうし、傷口が見やすいように切ってしまいますね」
そう言って、隊服の裾の部分に鋏を当てたしのぶは、そこでピタリと動きを止めて、ゆっくりと入り口の方向へ視線を向けた。
「……ところで煉獄さん。いつまで此処にいらっしゃるおつもりですか?」
「む?彼女の治療が終わるまで、だが?」
「そうですか。では治療の間は部屋の外でお待ち頂けますか?」
「いや、俺も此処にいた方が鈴も心強いだろう!!」
「……へ?」
その発言に、鈴が思わず戸惑いの声を漏らせば、煉獄は腕を組んだまま、豪快に笑いかける。
「鈴には俺が付いているからな!!安心するといい!!」
「い、いえ、……もう此処からは一人で大丈夫です。此処まで運んで頂いて、ありがとうございました」
「ハハハッ!それくらいお安い御用だ!!それから、俺に遠慮なんかしなくていい!!」
「え、……遠慮とかではなく「煉獄さん……」
そんな二人の会話を聞いていたしのぶは、静かな声で口を開いた。
「例え脹脛でも、女性の肌を露わにするんですから、男性は外でお待ち頂けますか?」
「いや、しかし……」
「お待ち、頂けますか?」
有無を言わせぬ物言いで口を開いたしのぶは、手にした鋏を掲げて見せた。それには流石の煉獄も、サーと顔を青褪める。
「……では、外で待たせて貰うとしよう」
仕方なくそれに頷いて、部屋の外へと出て行った。
その背を見送ったしのぶは、一つため息を落とすと、チョキチョキと裾から隊服を切り広げながら呟いた。
「鈴さんも大変でしたね」
「うーん、……本当にすばしっこい鬼だったけど、私の実力不足も否めないから」
「………いえ、その事ではなくて」
「……?」
その言葉に不思議そうに首を傾げた鈴に、しのぶは曖昧に笑ってから、また一つため息を落とした。
「……… また大変なものに好かれてしまいましたね。……鈴さん、頑張って逃げてくださいね」
「逃げる?……何から?」
なんとも物騒な言葉に、鈴が戸惑いながら聞き返せば、
「……ご愁傷様です」
「え、ええ!!な、な、な、何のことなの!?しのぶちゃーん!!?」
「ふふふ」
しのぶは含みのある笑みを浮かべるだけで、それ以上その事について口を開く事はなかった。