第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……鈴」
「ああ、うん。帰るんだよね、ちょっと待って」
事後処理を行う隠へと任務の報告をしていた鈴は、義勇の呼びかけに振り返る。
「じゃあ、松尾君。しっかり療養するようにね?」
「は、はい。鈴さんも、水柱様もお疲れ様でした」
それから今回負傷した隊士に駆け寄り声をかけると、少し先で立ち止まっている義勇の背中を慌てて追いかけ駆け出した。
******
今回、鈴達に下された任務は、広範囲で目撃されている鬼の討伐だった。
最後に目撃された情報を元に、山の麓までやってきていた鈴達は、日が沈み近づいてきた禍々しい気配を感じて目配せをした。
「一、ニ……三体はいるわね……義勇、こっちは私に任せて」
「…‥無茶はするな」
やはり当初の報告どおり広範囲……
暗闇と共に現れた気配は彼方此方に散らばっていた。
恐らく縄張り争いを繰り広げているのだろうが、人里で暴れ回っている鬼達を一刻も早く倒さなければ被害は拡大するばかりである。
それを瞬時に判断した二人は、短く声を掛けあうと迷うことなく別々の方向へと走り出しー……、
鈴が一体、義勇が二体仕留めたことで難なく任務も終了した、というわけである。
「……義勇、お待たせ」
隠達に報告を終えた鈴が駆け寄れば、義勇は無言でこくりと頷いて、再びスタスタと歩き始める。
その後ろを歩く鈴は、眉間に皺を刻みながら先程の任務について考え込んでいた。
隊士に負傷者は出たものの、鬼の爪による切傷程度。
恐らく傷口の手当てさえすれば、彼の傷も四、五日できちんと塞がることだろう。
それに今回は鬼通しの争いという事もあり、興奮状態の鬼ばかりではあった。しかし、その状況でも民間人の被害が出なかったのだ。
逃げ足が早い鬼がいたことや、広範囲で逃げ回られたこと、更には仲間に負傷者が出たことで少し時間がかかってしまったが、今回の任務は成功と言っても過言ではないだろう。
〝……なのに、この胸騒ぎは何?〟
蝶屋敷で炭治郎達三人を見送ってからというもの、嫌な予感……とでもいうのだろうか。胸騒ぎがするのだ。
てっきり鬼を倒せば治ると思っていたこの動悸……
鈴の脳裏には、『いってきます』と元気に手を振る三人の笑顔がチラついた。
三人は確かに強くなったし、傷だって完全に癒えているのだ。それに、何より彼らには煉獄さんがついているのだ。彼ほど後輩思いで頼りになる隊士はいないだろう、心配することは何もない。
何もない筈なのだ……なのに、
静まり帰った暗闇が、時折風に揺れる木の葉達が、踏みつける度に奏でる砂利の音が、まるで意志でももっているかのようで、胸がざわざわと波打つのだ。
こんな感情初めてで、背中を伝う冷や汗に鈴は思わず立ち止まる。
「鈴、どうかしたのか?」
「いや、……大したことじゃないんだけど……」
珍しく歯切れの悪い鈴の様子に、義勇は不思議そうに首を傾げた。
大したことがないなんて口にはしたが、青白い顔をする鈴は全く大丈夫そうじゃないし、よくよく考えてみれば任務中も何処かソワソワしている様にも見えた。
一体何があったというのだろう……
人の悩みを聞き出せる自信はあまりないが、可愛い妹弟子の為だ。義勇は小さくため息を吐くと、立ち止まる鈴の元へと歩み寄った。
しかしー……
義勇が口を開くよりも早く、遠くからバサリと鴉の羽ばたく音が聞こえた。
それにピクリと肩を跳ねさせた鈴に習い、義勇もスッと視線を上げれば、自身の鴉、勘三郎が肩に止まる。
『義勇、伝令ジャ……上弦ノ鬼ノ奇襲ニヨリ、数名ノ隊士ガ負傷シタ。重傷者多数ノ為、蝶屋敷ヘ搬送サレル』
「っ、……上弦?」
それに鈴が小さな声で聞き返せば、鴉はジーッと鈴を見つめ、彼女が恐れている一言を口にした。
『煉獄殿ノ鴉カラノ知ラセジャ……』
その名前が飛び出した瞬間、思わず息を呑み込んだ鈴は、まだ口を開こうとする鴉を無視して駆け出した。
「鈴!!」
鴉の知らせも、背後から聞こえる義勇の声も、その全てがバクバクと刻む自分の心音にかき消された様で……
息の吸い方すら忘れたように乱れた呼吸で鈴が蝶屋敷へと駆け込んだのは、日が完全に登り切った頃だった。
「しのぶちゃんっ………誰かっ、」
そんな鈴の元に駆け寄った数名の隠は、泣き出しそうな顔で声をかけた。
「鈴さん、炎柱様はまだ処置の最中で……」
「煉獄さんはっ?……負傷した他の隊士達は?みんな、無事なの?」
「………すみません、私達も全力を尽くしたのですが………」
そう言って深く頭を下げた隠が続けた言葉に、鈴は膝から崩れ落ちた。