番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鈴達に見送られ、蝶屋敷を後にした炭治郎達三人は、夕暮れ時には無限列車が出発する駅へと辿り着いた。
「猪突猛進ーっ!!」
「やめろー!!恥ずかしいっ!!」
初めて見る汽車に大興奮の伊之助が、車体に体当たりで突っ込むと、善逸が慌てて止めに入る。
しかし、時既に遅し……
不審な動きを感じ近づいてきた警備員に、目敏く日輪刀にまで気付かれて、最終的には三人仲良く追い回される。
当初の指示では、現地にいる炎柱と合流せよ……とのことだが、駅構内では姿が見当たらず、鴉が言うには既に乗車しているようだ。
物陰から辺りを見渡した善逸が、三人分の切符を買いに行く事を告げ、くれぐれも静かにする様にと何度も伊之助に言い聞かせ、切符を買いに行ったはいいものの……
「やべっ、出発する!!………警官いないかなぁ」
「いても行くしかないだろう!!」
そう言って三人は慌てて駆け出した。
彼らは汽車に乗り込むだけでも、一苦労だったのだ。
そんなこんなで乗り込んだ汽車の中、善逸は未だに浮かれる伊之助を引きづりながら口を開いた。
「柱だっけ?その煉獄さん。顔とかちゃんと分かるのか?」
そう言って小首を傾げた善逸に、炭治郎も少し考え込みながら頷いた。
「うん。派手な髪の人だったし、匂いも覚えているから……」
「ふ〜〜ん。それならいいけど……
にしても鈴さん、俺たちを心配して『怪我しないでね?』なんて……俺ずっと蝶屋敷でよかったのに!!」
「………善逸、あれは俺達を思ってと言うよりは、煉獄さ「うるさい、炭治郎!!偶にはいいだろうがっ!!勘違いして浮かれても!!」
ぎゃーぎゃーと喚く善逸をバッサリと切り捨てた炭治郎が、次の車両の扉に手をかければ……
「うまい!!」
可笑しな声が聞こえてきた、耳を劈く程の声量で。
それに驚きながらも扉を開ければ、その車両に座る乗客達も驚きのあまり固まっていて、そんな乗客達の視線の先には……
「うまい!!」
「……あの人が炎柱?」
「……うん」
「うまい!!」
「ただの食いしん坊じゃなくて?」
「……うん」
善逸が不安を感じるのも仕方ない。
これから任務だと言うのに、山積みの弁当をもぐもぐと食べ進める煉獄の姿があったのだ。
「あっ、あの‥‥すみません」
「うまい!!」
「れ、煉獄さん?」
「うまい!!」
振り向き様に、もう何度目かの味の感想を述べた煉獄に、炭治郎は頬を引き攣らせ頷いた。
「ああ、もうそれは……すごく分かりました。」
******
その後、弁当を食べ終えた煉獄に自己紹介をし終えた三人は、それぞれ空いている席へと腰を下ろした。
「ぬはっ、ぬははっ!!すっげー、主の中すっげー!!」
「割れるだろ硝子!少しは落ち着けよっ!」
煉獄と通路を挟んだ反対側、伊之助の隣に座った善逸は、未だに興奮し続けている伊之助を宥めるのに忙しそうにしているが……
「君たちはどうしてここにいる?任務か?」
「鎹鴉からの伝達で無限列車の被害が拡大した、現地にいる煉獄さんと合流するようにと命じられました」
「うむ、そう言うことか!承知した!」
そんな事を気にすることなく、通路の反対側に座った煉獄と炭治郎は会話を続けていた。
任務に来た理由や、炭治郎が個別で知りたかった火の呼吸について質問する間、煉獄は何処を見ているのやら……笑顔で淡々と意見を述べた。
その威圧感のある独特な雰囲気に、炭治郎は自然と背筋を正し、戸惑いながらも父が使っていた神楽について問いかけた。
「咄嗟に出たのが子供の頃に見た神楽でした。もし煉獄さんが知る何かがあれば、教えて貰いたいと思って」
すると、暫し動きを止めた煉獄は、期待の眼差しを向ける炭治郎にピシャリと結論を言い渡す。
「うむ、だが知らん!!」
「……えっ、」
「ヒノカミ神楽と言う言葉も初耳だ!!君の父がやっていた神楽が、戦いに応用できたのは実にめでたいが、この話はこれで終いだな!!」
「ええっ!!あの、ちょっともう少し……」
「俺の継ぐ子になるといい!!俺が面倒を見てやろう!!」
「待って下さい!そして何処を見ているんですか!!」
そんな二人のやり取りを聞いていた善逸は、変な人だな……と思わず煉獄に視線を移す。
確かに蝶屋敷で鈴が口にした彼を心配する言葉。それから、高鳴る心音が鈴の想いを物語っていたが……
〝鈴さんの想い人は、本当にこの人なのか……?〟
そんな事を考え、善逸は不思議そうに首を傾げた。
だがその直後、ガラリと窓を開く音が聞こえ慌てて後ろを振り向けば、伊之助が大喜びで窓から身を乗り出していた。
「おいっ、危ないだろうが!!」
「ぬはははっ、はえー!主、はえーっ!!」
それを必死で止めようと、善逸は背後から伊之助を全力で引っ張り下ろす。……やはり彼の苦労は絶えないのである。
そんな二人を気にもとめず、未だに淡々と言葉を続ける煉獄に、炭治郎もふと、最後に見た姉弟子の心配した表情を思い出し、チラリと煉獄に視線を向けた。
「そう言えば、任務に向かう前にひと月ほど、鈴さんから稽古をつけてもらっていたんですが」
「……鈴から?」
すると、それまで視線すら合わせなかった煉獄が、その一言に動きを止めて、眉を顰めながら炭治郎へと視線を移した。
それから暫し考え込む様に腕を組み、むう……と声を漏らした煉獄は、静かな声で問いかけた。
「確か、鈴とは同門の姉弟弟子らしいな」
「はい。鈴さんにはいつも良くしていただいて……」
明らかに雰囲気の変わった煉獄に、炭治郎が戸惑いながら返事を返せば、彼の眉間の皺は更に一層深くなる。
その嫉妬にかられる心の音は、伊之助を押さえつける善逸にまで聞こえてきて……
〝上官を怒らせてどうするんだよ、炭治郎ォォ〜……〟
善逸はこの状況に頭を抱えたくなった。正確には伊之助を抑えることに必死な為、抱えるべき腕が動かせないだけなのだが。
そんな善逸の思いとは裏腹に、炭治郎は優しく目尻を下げて嬉しそうに口を開いた。
「鈴さんはいつも優しくて、俺にとっては姉のような存在です。ですが……最近はたびたび浮かない顔をしている事があって……理由を聞くと、長期任務についている煉獄さんをすごく心配していました」
「……鈴が、俺を」
「はい!鈴さんから直接の伝言ではないですが『煉獄さんが無事でいてくれれば、それでいい』と鈴さんは言っていましたので……この任務が終わったら鈴さんに顔を見せてあげて下さい!」
そう言ってにこにこと笑みを浮かべる炭治郎に、煉獄は思わず毒気を抜かれたようにパチパチと瞬きを繰り返す。
それから小さく笑みを落とすと先程の威圧的な笑みとは違い、煉獄は柔らかく目尻を下げた。
「うむ、そうだな。この任務が終わったら、一番に鈴に会いに行くとしよう」
そう言って、ハハハッと笑い声を上げた煉獄に、炭治郎だけでなく先程まで疑いの目を向けていた善逸までもが頬を緩めた。
4/4ページ