第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
先日、鈴が蝶屋敷に訪れてから更に一週間余り。
「鈴さん、宜しくお願いします!!」
「勿論!!さあ、何処からでもいいわよ?」
そう言って竹刀を構えた鈴は、今日も今日とて炭治郎に打ち込み稽古をつけていた。
「踏み込みが甘い!」
「ぐっ、……」
膝をつく炭治郎を前に鈴は口元を吊り上げる。
まだまだ荒削りではあるものの、炭治郎の動きは先日よりも格段に良くなってきているし、全集中の呼吸に関して言えば、この稽古中も上手く常中し続けられているようだ。
彼の成長を自分の事のように嬉しく感じてしまうのは、やはり鈴にとっても思い入れの強い少年だからだろう。
〝素直で、努力を惜しまない……
炭治郎君は、本当にいい子だなぁ〟
そんな事を思いながら、ちらりと後ろを振り返えった鈴は、物陰から飛び出る猪の耳と黄色い頭に堪えきれずに笑みを漏らした。
「ふふっ、……二人ともいい所に来たわね?今丁度炭治郎君と打ち込み稽古を始めたとこなの。もし時間があるなら、二人も一緒にやらない?」
まさか盗み見ているのをバレているなんて思ってもみなかった二人は、その言葉にビクッと体を強張らせた。
だが、いつまでもこのままではいけないと思っていたのも事実なので、戸惑いながら姿を現せると、その提案に気まづそうに頷いた。
そもそも鈴は炭治郎と庭に出てすぐ、建物の影に隠れる善逸の姿に気がついていた。
先日炭治郎と打ち込みをしている時にも、彼はあの場所から此方を伺っていたし、きっと声をかけるか迷っているんだろうと思っていたのだ。
しかし、それから暫くすると物陰から此方を見つめる視線が一人から二人に増え、更には何度もひょこっと物陰から顔を出しては引っ込める彼らに、鈴は遂に堪えきれなくなったわけである。
二人の心の葛藤が仕草にそのまま現れたようで、鈴はクスクスと笑みを漏らすと、近寄ってきた彼らに竹刀を渡して微笑んだ。
「さあ、何処からでもかかってきて!ああ、それから……女だからって、手加減はしないでね?こう見えて、君たちよりは先輩なんですから」
「……ったりめえだろ!!んなこと、お前に言われなくても、そのつもりだ〜!!」
「わっ!ちょ、ちょっと待てよ、伊之助!!」
鈴の一言を聞いた途端、やる気一杯で駆け出した伊之助に、善逸も戸惑いながら走り出す。
漸く揃った三人の顔ぶれに、鈴は小さく笑みをこぼした。
******
それから更に十日程経ったある日ー……
蝶屋敷の玄関先には、大きな瓢箪を咥える三人の姿があった。
「「「頑張れ、頑張れ、頑張れ!!」」」
「「「〜〜っ!!」」」
少女達の声を聞きながら、三人は瓢箪に息を送り込む。
頬を膨らませ、顔を真っ赤にさせながら必死で息を吐き続ければ……
……パキ、パキパキ……パリンッ
「「「やったー!!」」」
あんなに固そうで大きな瓢箪を、三人は息だけで割ってみせた。
それには彼らの鍛錬に付き合い続けた蝶屋敷の少女達も、キャッキャッと嬉しそうにはしゃいでいた。
那谷蜘蛛山の任務から二ヶ月余りー……
大怪我を負い、蝶屋敷で療養していた炭治郎達三人は、怪我の完治は勿論、全集中の呼吸の常中まで習得し、今日晴れて新たな任務へと向かう事になったのだ。
「三人とも本当に凄い上達ぶりね。私も皆んなに追い越されないように頑張らないと」
そう言って笑いかけた鈴も、今日は彼らの見送りに来ていた。
鈴が炭治郎に稽古をつけ始めて早、一ヶ月。
結果的に言えば、後から合流した伊之助も善逸も、全集中常中を覚えるのに炭治郎程の時間は掛からなかった。
それは一重に、炭治郎や鈴、しのぶといった既に全集中常中を習得している者達の教えがあったから………というだけでなく、炭治郎に遅れた分を取り戻すように伊之助や善逸ががむしゃらに鍛錬へ打ち込んだ努力の賜物なのだ。
少しの間ではあるが、彼らと共に鍛錬を積んだ鈴も勿論三人の復帰が嬉しいようで、少女達から握り飯を貰い喜ぶ三人を眺め、クスクスと小さく笑みを浮かべる。
「あっ、冨岡さん!!」
すると、屋敷の塀の影から此方を伺う義勇に気づいた炭治郎が嬉しそうに駆け寄っていく。
実は鈴から炭治郎の様子を聞いていて、此処まで一緒に来ていた鈴は、それを呆れたように眺めていた。
〝義勇も折角見送りに来たんだから、そんな遠くじゃなくていいのに…〟
そんな鈴の思いとは裏腹に、炭治郎と二言三言会話を交わした義勇は、その後すぐに姿を消した。
それには流石の鈴も大きなため息を吐き、此方へと戻ってきた炭治郎に口を開いた。
「もう、義勇ったら……折角見送りに来たんだもの。もう少し何か喋ってもいいのに」
「い、いえ!来て頂いただけでも俺は充分嬉しいですし」
「……にしたって、この後同じ任務なんだから置いていかなくてもいいのに」
そう言って頬を膨らませた鈴に、炭治郎も思わず苦笑いを浮かべる。
「鈴さんもこの後任務に行かれるんですね」
「ええ。義勇の担当する地区で鬼の目撃情報が入って……ただ、情報が曖昧すぎるから今回は数人で手分けして行うの」
それに、成る程…なんて呟いた炭治郎に、鈴もふと気になって、三人に入った任務がどんなものかと問いかける。
「俺達は無限列車に向かいます。現地にいる煉獄さんと合流する予定です!」
「えっ!?煉獄さん……」
不意打ちで想い人の名前を聞いて、思わず躊躇いながら聞き返した鈴に、炭治郎はふわりと笑いかける。
「はい!先日も鴉でやり取りされていましたし、もし良ければ何か言伝でもしましょうか?」
「え!いや、あの……」
それだけでなく、炭治郎が続けた予想外の提案に、鈴は頬を赤く染めた。
先日の鎹鴉との一件でなんとなく鈴の想いを察している炭治郎は、鈴が煉獄を心配していた事を思い出し、優しさで彼女に提案した訳である。
「言伝なんて……ただ、煉獄さんが無事でいてくれれば、それで……も、勿論、皆んなも怪我には気をつけてね」
「はい、分かりました!!」
やはり彼を思い、心配そうに眉を下げた鈴だが、なんだか気恥ずかしくなり慌てて三人にも笑いかける。
それがかえって違和感を生み、炭治郎や蝶屋敷の少女達、それから耳が良すぎる善逸にまで鈴の想いは筒抜けとなってしまったのは、言うまでもない。
「「「いってらっしゃ〜い。お気をつけて〜」」」
それから三人娘と共に鈴も炭治郎達を送り出し、兄弟子の後を追うべく歩き出す。
しかし、数歩進んだ先で胸騒ぎを覚えて立ち止まり、思わず三人へと振り返るが……
そこには仲良さそうに握り飯を取り合いながら歩く三人の姿があるのみで。
「……考えすぎ、か」
普段通りのその姿に、鈴はほっと肩を撫で下ろし、再び任務地へ向かうのだった。