第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……え?常中のやり方?」
問いかけられた言葉を繰り返しコテンと小首を傾げた鈴に、炭治郎は苦笑いで頷いた。
「はい。先日、すみちゃん達から聞いて、俺も試してはいるんですが………全集中の呼吸を四六時中続けようとすると、バクンバクンって心臓が昂って、呼吸どころではなくなるんです……前に一度、耳から心臓が飛び出たかと本気で慌てたほどで……」
「へっ?耳から心臓っ?…ふ…っごめ、ふふ…」
その時の彼を想像をして、思わず吹き出した鈴は、ふぅーと呼吸を落ち着かせると改めて炭治郎へと話し出す。
「全集中の呼吸を続ける為には、勿論呼吸を意識し続けるのも大切よ?だけど一番は肺を強くすることが先決…かな?それから呼吸で今よりも上手く体が使えるようになったとして、それを支える為の筋力もつけないと」
「……結局は、地道に鍛錬を積む他ないって事ですね」
「はは、そうだね……と言っても、私もまだまだうまく使いこなせていないわ。今思えば、もっとうまく立ち回れるだろう場面は数えきれないし」
「……鈴さんでも、ですか?」
「私なんてまだまだ未熟者よ?……でも、昨日の自分よりは成長出来るようにって、日々の鍛錬に励んでいるの。だから……炭治郎君も一緒に頑張ろうね!!」
そう言って炭治郎に笑いかけた鈴は、チラリと彼のその背後……物陰から此方を覗く善逸の姿を見つけて、人知れずため息を漏らすのだった。
******
鈴が炭治郎達に稽古をつけるようになってから二週間余りー……
稽古を始めた頃は三人仲良く揃っていた顔ぶれも、気づけば炭治郎一人となってしまった。
鈴は時折蝶屋敷に顔を出す程度、彼らに何があったかまでは詳しく知りはしない。
しかし、炭治郎がアオイ達につけて貰っている訓練を見学した彼女は、何となくだが察しがついていた。
‥‥挫折、という言葉が一番近いものだろう。
きっと上手くいかない鍛錬が続き、カナヲにどうしても敵わない自分に、苛立ち、落ち込んで……逃げ出してしまったのだろう。
しかし、人に言われたからと言って、いきなり其れが出来るようになる訳でもなく……やはり自分の力で、地道に鍛錬を積んでいく他ないのだ。
「炭治郎君は、一人でも一生懸命で…本当に偉いわ」
「いえ!そんな……俺は目の前の事に精一杯なだけですよ。それに、俺が上手く出来る様になれば、二人にも教えてやれますから」
そんな炭治郎の一言に、キョトンとした表情を浮かべた鈴は、次の瞬間にはふわりと優しく笑いかける。
「ふふ、さすが炭治郎君。私も見習わないと」
嬉しそうに目を細める鈴に、炭治郎は慌てて声を上げる。ええっ!?そんな……なんて、頬を染めながら、照れ隠しの言葉を続ける炭治郎に鈴はにこにこと嬉しそうに笑うばかり。
〝………善逸君も、伊之助君も、きっとこのままじゃ駄目な事くらい分かっている筈よね。…二人がそれに向き合った時、私も何か力になれればいいんだけど……〟
そんな事を思いながら、なんとも可愛らしい反応を見せる弟弟子を見つめ、鈴はクスクスと笑みを深めた。
******
「あれ?あの鴉……、鈴さんの鎹鴉ですか?」
「鎹鴉?」
それから暫く二人で雑談をしていれば、此方に向かって飛んでくる鎹鴉に炭治郎が気がついた。
その鴉は迷う事なく近くの木に降り立つと、ばさりと大きく羽を広げ大きな声で口を開いた。
「鈴!杏寿郎様カラノ文ダ、受ケ取レ!!」
「あー……はい、ありがとう」
それに少し戸惑いながら頷いた鈴に、炭治郎は首を傾げた。
「鈴さん、誰からの便りですか?」
「えっ、……とー、炭治郎君も会ったことがある筈だけど、覚えてるかな……炎柱の煉獄さん」
「炎柱の、煉獄さん……」
鈴の言葉を繰り返し、むむっと考え込んだ炭治郎は、先日の柱合会議を思い出す。
〝確か鈴さんの事を押さえつけていた派手な髪色の人…… 鈴さんはあの人を『煉獄さん』と呼んでいたような……〟
そんな事を思いながらチラリと鈴を伺えば、手紙にさっと目を通した鈴は、ふっと小さく笑みをこぼしていた。
その表情があまりにも嬉しそうで、炭治郎が思わず見惚れていれば、文を懐へしまい込んだ鈴が徐に鴉へと腕を伸ばす。
「……こんなものしかないけれど、煉獄さんに届けて貰える?」
そう言って差し出した掌には、雪の結晶が施された手作りであろうお守りが乗せられていた。
そして中身は藤の花の匂い袋だと話した鈴は、最後に心配そうに鴉に尋ねた。
「長期任務……煉獄さんは元気にしている?怪我を負ったりは……「杏寿郎様ハ息災ダ!!」
「そう……、なら安心ね?要ちゃん、頼めるかしら?」
眉を下げながら尋ねる鈴に、鴉は一度鳴き声をあげると、それを足で引っ掴み、そのまま空へと飛び立っていった。
その一部始終を見ていた炭治郎は、鈴の後ろ姿を見てふと思う。
先程の手紙を見た鈴は、今まで見たどんな彼女より無邪気に笑っていたように思う。かと思えば、鴉が飛び立ってからは、心配で仕方ないと彼女の心境が匂いで伝わる。
〝きっと鈴さんにとって、とても大切な人なんだろう〟
未だに鴉が飛び去って行った空を見上げている鈴に、炭治郎も口元を吊り上げた。
……だが、この時の鈴は、まだ知らない。
彼が必死になって探している鬼が、十二鬼月だと言うことを……
そして、彼に命の危機が迫っているなんて……
「じゃあ、打ち込み稽古再開しようか?」
「はい!よろしくお願いします!」
この時の鈴には、知る由もなかった。