番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
誰にでも優しくて……、
笑顔は花が綻んだように可愛くて……、
それでいて間違いはキチンと間違いだと諭してくれる。
そんな彼女だからこそ、隊士達の間で人気がある事なんて俺だってちゃんと分かってた。
「お前、知ってるか?水柱と鈴さんの噂」
「水柱と鈴さん?………な、なんだよ!それ?」
「それがよぉ……あの二人、恋仲らしいぜ?この間、食事処で仲睦まじい二人を見かけた奴がいるらしい」
「ま、まさか……あの水柱だろ?顔は……まぁ、男の俺からしても整った顔立ちだとは思うが、いつも澄した顔して、真面に会話すらしないじゃないか……」
「いや。俺も始めは同じ事を思ったんだがな……、どうやら鈴さんとは、饒舌に会話するんだってさ〜。……はあああ〜。俺、鈴さん狙ってたのに〜、結構凹むわ〜」
そう言って嘆く同僚を前に、自分も同じように肩を落としたのは、もう半年以上前のこと。
「え?私と義勇?」
「あ、はい……その、最近、鈴さんと水柱様が、……こ、恋仲になったって噂で聞いて」
あの時はやっぱりそんな噂信じきれなくて、直接鈴さんに聞いたんだ。
キョトンと小首を傾げた鈴さんはとても可愛かったけど、水柱を『義勇』なんて親しげな呼び方で呼んだ彼女に、ピシリと体は固まってしまった。
だが、そんな俺の心境なんて、全く気づいていない鈴さんは、口元を手で覆いクスクスと可愛らしい笑みを浮かべた後、眉を下げてこう言ったのだ。
「ふふっ、恋仲だなんて……義勇は私の兄弟子なの。幼少期を共に過ごした、いわば幼馴染みたいなものよ?」
「……兄弟子、……幼馴染、」
「ええ。それに毎日鍛錬と任務に明け暮れているんだもの。恋にうつつを抜かしている暇なんてないよ」
そう言って笑いかけた鈴さんに、俺も曖昧に笑い返したのを覚えている。
水柱との関係が自分の思い描いていたものと違った安心感も勿論あったが、鈴さんより階級も下なのに、彼女に淡い恋心を抱いている俺に対して向けられたかのようなその言葉。
きっと鈴さんはそんなつもりで言った訳ではないだろうが、もっともっと強くなって、鈴さんを守れるような男になったら……そしたら彼女に想いを伝えよう。
そう心に決めて、今日まで頑張って鍛錬を積んできたというのに……
「ねえねえ、聞いた?煉獄さんの話」
「煉獄って、あの炎柱の?」
「そうそう!なんか私も他の隠から聞いたんだけど…………」
それから数ヶ月経ったある日、俺は衝撃の話を耳にしてしまった……。
******
その日俺は、たまたま怪我の治療で蝶屋敷を訪れていた。
大した鬼でもなかったのに怪我を負ってしまうとは……
そんな風に落ち込みながら廊下を歩いている俺の耳に、隠達の楽しそうな声が届く。
その部屋の前を通る際、チラリと中を盗み見れば、どうやら薬剤の整理をしているらしい隠達が、噂話に花を咲かせていた。
勿論、立ち聞きするつもりなんて全くなかった。
怪我も処置して貰った後だったから、足早にその前を通り過ぎて、廊下の先を曲がろうとしていた時だった。
「ええー!?煉獄さんが尾上さんに求婚っ、……んぐっ「コラ、声が大きい」
信じられない言葉を耳にして、体がビタッと硬直した。
〝煉獄さんが…… 鈴さんに、……求婚〟
何度も頭の中で繰り返されるその言葉。
「尾上さんって水柱様とも噂になってなかった?」
「ああ、それ?あの二人、同門の出なだけで恋仲ではないんだって!!でも二人が並んでいると美男美女でお似合いよね〜?」
「え〜?それを言ったら煉獄さんとだって美男美女じゃない!!なんて告白したのかしら!!」
その後暫く、キャッキャッとはしゃぐ隠の声が部屋の外まで響いていたが、あまりの衝撃に他の言葉は右から左へ流れていくだけ。
思いもよらないその言葉が、重く心にのしかかり、その後はどうやって家まで帰って来たのか分からないほどに落ち込んだ。
そしてそれから暫くすると、その噂は彼方此方で囁かれ始める。
鈴さんと炎柱が恋仲だと言う者や、中には婚約者だと聞いたと言う者まで様々で、一部の女性隊士の間では炎柱を誑かした女だなんて、鈴さんを悪女呼ばわりする噂まで一時は出回っていた程だ。
……まぁ、それから暫くすると、鈴さんの悪口はパッタリ聞かなくなった訳だが、相変わらず二人の噂を聞く機会は度々あった。
だけど、もしかしたら水柱の時と同じように、噂が一人歩きしているんじゃないか……?なんて、希望を諦めきれない自分がいたのだ。
******
それから一ヶ月ほど鈴さんと任務が被る事はなかったが、今朝方鴉から伝令が来て、数名の隊士と大掛かりな合同任務が行われると聞いた。
その中に、鈴さんの名前もあった為、久しぶりに一緒の任務だと俺は少し浮かれていた。
「鈴!!あそこで甘味休憩を取ろう!!」
「わぁっ、ちょ…‥煉獄さん!!」
だが、任務に向かう前に食事でもと街中を歩いていれば、一際大きな声が聞こえてきて歩みを止めた。
聞き覚えのある名前に釣られて振り返れば、炎柱に手を引かれ、頬を染める鈴さんの姿。
思わずさっと身を隠し、二人をしばし観察していれば一軒の甘味処へと二人は仲良く入っていった。
それから入り口付近の席へと腰掛けた炎柱に促され、その向かいに座った鈴さんは、何やら険しい表情で首を振った後、困ったように眉を下げ、最後には笑いながら頷いていた。
それを暫く呆然と眺めていると、運ばれてきた甘味の数々に鈴さんがパァッと表情を明るくしたのが見えて、俺は自然と笑みを溢した。
普段の優しい笑い方とは違い、子供のような無邪気な笑みに思わず頬を緩めていたが、ふとその向かいに座る炎柱の表情に、彼の気持ちに気づいて思考が停止する。
何度か彼とも任務で話をした事があるが、いつも何処を見ているか分からない焦点で笑みを浮かべる炎柱に、無意識に威圧されている印象を抱いていた。
ところが、鈴さんを見つめるその瞳は、柔らかく細められていて、小さく笑みを浮かべながら鈴さんの言葉に頷いている彼は、とても幸せそうに見えた。
会話こそ聞こえてはこないが、鈴さんも終始楽しそうに笑っていて……、なんだか隠れて二人を盗み見ている自分が虚しく思えた俺は、そっとその場を後にした。
******
それから数時間後、顔を合わせた鈴さんはいつも通りで、
……先程のあれは見間違いだったのだろうか?
それとも、……本当に炎柱と好い仲なのだろうか?
そんな思いばかりが俺の頭の中では、ぐるぐると回っていた。
「……どうかしたの?」
だからきっと浮かない顔でもしていたのだろう。鈴さんが、心配そうに声をかけてくれたのだ。
それに何と答えるか一瞬迷った俺は、意を決して先程の事を問いかけた。
「いえ、なんでもないですよ。‥‥そういえば、先程甘味処で鈴さんと炎柱を見かけました」
「……えっ!!」
「えっと、炎柱様と楽しそうにしてらしたので声はかけなかったのですが……」
「た、楽しそうにだなんてっ。……煉獄さんが何でも好きな物を食べていいって、信じられない量を頼むから……その、数えきれない程の甘味に少し浮かれただけでっ、」
慌てた様子で口を開いた鈴さんは、みるみるうちに頬を赤く染めていく。
それを眺めながら、……ああ、あの時そんなやり取りをしていたのか、とか。そんな反応水柱との関係を聞いた時だって見せなかったのに、とか。
思う事は多々あるが、それだけで噂はあながち間違いではないと悟ってしまった。
お陰で、久々の合同任務で浮かれていた俺の心は、今やどん底状態である。
「あ、そうだ。煉獄さんがお土産にキャラメルをくれたの。一緒に食べない?」
そう言って優しく笑った鈴さんは、俺の手に一粒キャラメルを乗せると、包みを開いて自分の口にも放り込む。
それに習ってキャラメルを口に含んだ俺は、先程の二人を思い出す。
楽しそうに笑い合う二人は、何処から見てもお似合いで、とても幸せそうだった。
「ふふっ、……甘くて、美味しいね?」
頬を緩めて幸せそうに笑う鈴さんの表情に、釣られて何度か頷いて、人知れず小さなため息を漏らす。
こんな表情を見せつけられては、とてもじゃないが敵いそうもない……
俺の淡い初恋は、キャラメルの味と共に呆気なく幕を閉じた。
******
リクエスト内容
第三者語りのお話。煉獄さんor夢主の事を好きな第三者が煉獄さんと夢主のラブラブな様子を見て、諦めるお話
りっち様、お待たせ致しました。
このお題を、もう一つの連載の方でも書こうかと思っています。(時間ができたら……)
また良ければお立ち寄り下さい。
2022/03/01 おもち