第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼の胸を借り、今までのつもり積もった思いの丈を口にした鈴は、漸く涙が収まり始めた頃、この後はどうしたらいいのか……と頭を悩ませ始めた。
〝煉獄さんの優しさに、思わず縋り付くように抱きついてしまったけど……〟
そっと目を開ければ金色の釦が視界に入り、いやでも彼の腕の中を意識してしまう。
とくん、とくんと聞こえる彼の鼓動や、腕の中のぬくもり、更には彼の匂いが鼻いっぱいに広がって、鈴は思わず頬を染めた。
ただでさえ大人気なく泣き腫らした自分が恥ずかしくて居た堪れないというのに……
『俺が側にいる。だから、これからは一人で泣かないでくれ、頼って欲しい』
あの言葉を真に受けて、甘えてしまった自分がいる。
側にいたいと思ってしまった。他の誰でもなく、彼の側にいられたらと願ってしまった。
それと同時に、本当は随分前から気づいていた、……蓋をしていた筈の自分の気持ちにも気づいてしまったのだ。
〝………私、煉獄さんのことが好きだったんだ〟
その想いを自覚してしまえば、胸がどうしようもなく締め付けられて、切なくなって、泣きそうになった。
もう今日は泣きすぎて涙腺がおかしくなっているのかもしれない……、そんな事を思いながら鈴がスンと鼻を啜れば、頭上から大丈夫か?なんて優しい言葉が降ってきて、鈴はピクリと動きを止めた。
「……あ、あの……煉獄さん、ありがとうございました……もう大丈夫です」
突然降ってきた言葉に、緩みかけた涙腺もピタリと止まり、慌てて鈴は返事をした。
しかし、なぜか彼はぎゅーっと更に力を込めて抱きしめるものだから、鈴は頬を染めながら、戸惑いの声を漏らす。
「え、あの……煉獄さん、もう大丈夫ですから」
「むう?……いや、中々鈴を抱きしめられる機会などないからな、離し難いな!!ははは!!」
そう言って笑い声を上げた煉獄は、最後に鈴の頭に優しく触れて、ゆっくりと離れていった。
そして、そっと鈴の顔を覗き込んで、困ったように眉を下げた。
「……やはり、頼るのは俺だけにして欲しいものだな。そんな表情、他の者には見せないでくれ」
「え、……そんなに酷い顔してますか?」
その言葉に鈴が思わず顔を覆えば、それに一瞬キョトンとした煉獄が、そう言う意味じゃないとため息を吐く。
潤んだ瞳で頬を赤らめ見上げられては、彼女に想いを寄せる者でなくとも、頬を染めるに違いない。
人の事ばかり気にかける癖に、自分のことなど蔑ろにする彼女のことだ。きっとそれを理解していないのだろう。
不思議そうに首を傾げる鈴を視界に捉え、煉獄は静かにため息を落とした。
******
「それで!?その後、鈴ちゃんはどうしたの!!?」
ばん、と机を叩いて立ち上がった蜜璃に、鈴は慌てて声をかけた。
「ちょ、…蜜璃ちゃん!もう少し静かに……」
此処は蜜璃が通い詰める甘味処。
かなり人気のある店のようで、鼻息を荒くして詰め寄る蜜璃の姿に、その場に居合わせた客達の視線は自然と二人に集まった。
それに頬を赤らめた鈴が、蜜璃の手を引き座らせると、小さな声で口を開く。
「……別に、何にもないよ」
「でも、でもっ!鈴ちゃんも、煉獄さんが好きだって気づいたんでしょう?二人は恋仲になったのよね?」
「え、いや……その、煉獄さんに想いを伝えたわけじゃないの。ただ、話を聞いてもらって……一緒に焼き芋を食べただけで……」
「えええっー!!?」
驚きの声を上げた蜜璃に、鈴は苦笑いを浮かべた後、静かにするようにと再び力なく声を掛けた。
******
煉獄が鈴を呼び出したあの日から、気づけばもう五日もの日数が経過していた。
あれから煉獄からは一度だけ、長期任務が入ったと鴉伝いで言伝を預かったのみで、直接顔を合わせていない。というより、自身の想いに気づいてしまったからこそ、どんな顔して話せばいいのかと頭を抱えていた。
自分は鬼殺隊士であって、明日すら分からぬ孤独な身。夢みる少女でもあるまいし、何を今更……と測らずとも彼のことで頭がいっぱいになっていた所へ、蜜璃が突然押しかけたのだ。
「…… 私、鈴ちゃんと煉獄さんならお似合いだと思うなぁ〜」
「……そんな、……私に煉獄さんは眩しすぎるよ。側にいて話を聞いてくれただけで、私には充分」
そう言って嬉しそうに目を細めた鈴に、蜜璃は何とも言えない表情を浮かべ、曖昧に頷いた。
蜜璃だって、あの柱合会議以来鈴のことが心配だったのだ。
あの時は、炭治郎や他の柱達ばかりが目立っていたが、鈴の兄が鬼となってしまった過去や、炭治郎達を知っていて庇い立てしていたこと。それから、悲しそうに伏せられたその瞳に、蜜璃も胸を痛めていたのだが……。
「……実は、煉獄さんにも話を聞いて貰ったんだけど」
「え?煉獄さん?‥‥そういえば、何で煉獄さんは鈴ちゃんのお兄さんの事を知っていたの?」
「それは、……私が以前熱に浮かされた時に口走ったみたいで……」
蜜璃が彼女を自宅から連れ出して、甘味処でその事を問い詰めれば、ポツリポツリと口を開いた鈴が思いもよらぬ事を話し始めたのだ。
数日前あんなに取り乱していた鈴が「頼っていいと……言ってくれたの」なんて、頬を染めながら彼の話をするものだから、蜜璃も釣られて頬を緩めた。
結局、根掘り葉掘り聞き出せたのは、彼女の兄が鬼となったこと。
そしてー……、
「…‥煉獄さんがね、叱ってくれて……私、気づいたの。私一人じゃなかったのね」
「……あ、当たり前じゃない!!鈴ちゃんには煉獄さんもっ、冨岡さんもっ、私だって、ついているんだから!!」
「……ふふっ、そうね。そうなの、私ったらそんな事にも気づかなくて……だから、側にいるって笑いかけてくれた煉獄さんの言葉が、本当に嬉しかったの」
そう言って嬉しそうに目を伏せた鈴の表情に、煉獄への想いを確信したのだ。
「鈴ちゃんも煉獄さんが好きなのね」
そんな蜜璃の一言に目をパチクリとした鈴だったが、それに小さく笑みを漏らすと、包み隠さず頷いた。
それには、蜜璃もパァ〜と満面の笑みを浮かべたが、それでもその想いを告げるつもりがないと言う鈴に、どうして彼女は後一歩で踏みとどまってしまうのだろうと眉を下げた。
でも、それでもー……、
「それにしても焼き芋なんて、煉獄さんらしいわね!!」
「……実は私も大好きなの、焼き芋。昔、兄さんとよく庭で作っていたから……それを義勇が煉獄さんに教えたみたいで……」
自分の事は後回し、いつも人の事ばかり気にかける優しい親友が、うちに秘めた想いに気づけただけでも、大きな進歩かと思い直す。
「それにしても、前に話していた兄弟子が冨岡さんの事だったなんて!!」
「ごめんね。蜜璃ちゃんに隠していた訳じゃないんだけど……」
「もう!!でもあんなに冨岡さんとも仲がいいなんて〜〜、私キュンキュンしちゃったわぁ」
「……へ?義勇とはそんなんじゃ……」
「煉獄さんも、冨岡さん相手じゃうかうかしていられないわね!!」
「蜜璃ちゃんてば……」
苦笑いで違うと繰り返す鈴を見つめ、蜜璃はクスクスと可愛らしく笑いかける。
〝きっとあの煉獄さんなら、鈴ちゃんを振り向かせるまで諦めはしない筈だもの。心配する必要なんてないわ、きっと!〟
そんな事を思いながら口にした大好きな桜餅は、いつもよりも幸せな味がして。
蜜璃の手は、次の桜餅へと自然と伸ばされるのだった。