第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
すばしっこい鬼相手に、長時間山道を駆け回り、漸く鬼の頸を斬り落とした鈴はーー…
事後処理に駆けつけた隠によって、怪我の手当てを受けていた。
「少し痛むかもしれませんが、ここで大きな破片は取り除いてガーゼを当てますので……蝶屋敷で細かい破片の除去と傷の具合を診てもらった方がいいですね……」
「あはは……すみません、少し無茶をしすぎてしまいました」
そう言って申し訳無さそうに眉を下げた鈴は、自身の左脚に目をやって、大きなため息を一つ落とした。
******
ことは遡る事、半日前ーー。
今回鈴に回ってきた任務は、ある山に住み着く獣の姿をした鬼の頸を斬れ、というものだった。
なんでも山に足を踏み入れた猟師が大勢犠牲になっているとかで、なんとか生き残った男性の証言によれば、熊のように大きな生き物が物凄い速さで仲間達を襲っていったのだとか。
それを聞きつけた
そこで今回、
その知らせを受けた鈴が、聞き込みもそこそこに例の山道へと足を踏み入れれば、木々が生い茂る薄暗い道で鬼はすぐにその姿を現した。
「女だ!!久方ぶりの女っ……!!」
まだ日も沈んでいないというのに、血に飢えた獣のように、ガルルル……と喉を鳴らしながら突然飛びかかってきた鬼は、大きな図体の割に随分と身軽で、鈴の放った技を軽々と避けて見せた。
体が大きな上に、動きも早い。それに加えて木々が生い茂る山の中では、日差しも届かぬ暗闇が多くある。
〝ここで確実に仕留めなければ、更なる犠牲者を生んでしまう……〟
無意識に刀を握る手にも力が入るが、あくまで冷静に、状況を確認しながら鈴は鬼へと距離を詰めた。
「水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱」
「ぐぁっ、……」
すばしっこい鬼を確実に追い込みながら、すぐに斬り込めるように着地時間、着地面積を最小限にして、縦横無尽に技を繰り出していく。
同期の蜜璃のような、派手に目立つ大技は持ち合わせていない鈴だが、彼女もまた確かな実力を持った鬼殺隊士なのである。
「くそっ、くそっ、鬼狩りめ!!折角沢山の人間を食べたんだ!!こんなとろこでやられてたまるか!!」
そんな彼女を前に、獣の鬼が苛立ちを口にしたかと思えば、次の瞬間には、目の前の大木を薙ぎ倒し、ぐるりと背を向け走り出した。
「なっ、…待ちなさい!!」
それには、すかさず鈴も反応をし、鬼の背中を追って駆け出したのだがー……
まさかそこから全力の追いかけっこが夜中中繰り広げられるなんて思ってもみなかった。
鬼の後を追う鈴も勿論必死だが、逃げると決めた鬼も、それはもう必死だった。
鈴の行手を塞ぐように木々を薙ぎ倒し、時には岩すらも砕きながら投げつける。それを避けながら全速力を維持するのは至難の業だが、鈴はそれでも何とか必死に食らいついて行った。
だが、そのような追いかけっこをしている間に、山を知らずと降りて来てしまったようで、鬼が最後に駆け込んだ先は、小物店を生業とする夫婦が暮らす居宅だった。
ガシャーンと大きな音を立てて店のガラスを突き破った鬼に、鈴も続いて足を踏み入れたのだが、
「ヒッ……な、な、なんだ!!貴様ら!!」
そこに運悪く出会した店主の男性が奥から顔を出してしまったのだ。
〝まずい……〟
鈴が慌てて彼に向かって駆け出すのとほぼ同時、
ニヤリと口元を吊り上げた鬼は、顔を青褪めた店主へとその右腕を振り下ろした。
ガシャーン………
「大丈夫っ、ですか?……」
「……あ、あんたその怪我っ……」
間一髪で鬼と男性の間に身を滑り込ませた鈴は、日輪刀で鬼の攻撃を弾き飛ばした。その反動で先程割れたガラス戸まで吹っ飛ばされてしまった鈴だったが……
その両腕でしっかりと男性を抱え込み、彼の体に怪我はないかと目を凝らしていた。男性を庇ったせいで、鈴の左脚からはダラリと血が溢れ、ガラスの破片が隊服を突き破るようにして刺さっていた。
彼の問いかけに大丈夫だと頷いた鈴に対し、先ほどまで逃げ惑っていた鬼は漸く足を止めて目を細めた。
「鬼狩り〜…お前もこれで終わりだなぁ……足にそんな大怪我を負って、痛くて歩けないだろう?」
見るからに大怪我を負った鈴にニタニタと顔を歪めた鬼は、飛び散るガラスを踏みしめながら、ゆっくりと鈴へと歩み寄る。
「お前は中々強い鬼狩りのようだし、きっとあのお方も喜んでくれる筈だ……」
「………の呼吸」
「あ?なんか言った「漆ノ型 雫波紋突き」か……?」
足を庇うように俯いた鈴に、完全に油断しきった鬼は、彼女の最速の技を前に声すら上げる事なく頸を落とされた。
「ぐぁぁあ……っ、なんで、こんな小娘にぃいっ、」
そして、そのすぐ後に響き渡った断末魔を確認した鈴は、
「やっと終わった………」
漸く地にへたり込んだのだった。
******
その後、事後処理に訪れた隠に怪我の具合を診てもらった鈴は、痛む足を庇いながらゆっくりとその場に立ち上がった。
「尾上さん!まだ立ち上がられない方が……私が蝶屋敷まで担いで行きますので!!」
「いえ……これくらいなら大丈夫です。それに、貴方には店主の男性への説明が残っているでしょう?」
「駄目ですよ!!尾上さんは大怪我を負っているのですから!!」
困ったように眉を下げた鈴に、隠は慌てて口を開き彼女に座るように促した。
「いや、本当に大丈夫だから……ありがとう」
だが、中々鈴も頑固なようで、苦笑いを浮かべながらやんわりとそれに拒絶の言葉を口にした。
お互い譲らない会話はそのまま平行線だと思われた
その時……
「大丈夫ではないだろう!!無茶をするのは感心しないな!!」
第三者の声により、二人はピタリと動きを止めた。
「「炎柱様………」」
「やあ、こんばんは!!尾上が近くにいると鴉から聞いて来てみたんだが……よもや、怪我を負っていようとは!!」
突然現れた炎柱に、二人は驚き固まった。しかし彼が口にした内容を理解して、鈴は慌てて背筋を正した。
「炎柱様、先日はお食事中失礼しました。えっと……、私に何か御用でしょうか?」
「ああ!!君に頼みがあったのが……」
そう言って笑顔を浮かべながら近づいて来た上官に、鈴は頼み?と呟き、首を傾げた。それに笑顔で頷いた彼は、鈴の目線までしゃがみ込み「失礼する」と口を開いた。
次の瞬間……
「ひゃっ、……炎柱様っ!?」
驚く鈴を他所に、彼は鈴をヒョイっと抱え上げ、さも当然のように口を開いた。
「ひとまずそれは後回しだ!!尾上のことは蝶屋敷まで俺が運ぼう!!」
「えっ、大丈夫です……自分で歩けますから!!」
それに真っ赤な顔で鈴が慌てて口を開けば、至近距離で彼に笑いかけれ、鈴は恥ずかしそうに目を泳がせた。
「俺が運んで行きたんだ!!……ほら、じっとしていなさい」
「……は、はい。すみません」
そう言って、頭を下げた鈴が大人しくなったところで、煉獄は隠に声をかけ、蝶屋敷に向かって走り出すのだった。