第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
柱合会議も無事に終わり、柱達がぞろぞろと本部を後にする中、煉獄は足早に帰路につこうとしている同僚へと声をかけた。
「冨岡、……少しいいだろうか?」
それにはて、と首を傾げながら振り返った義勇は、真剣な表情で此方を見つめる煉獄に、無言で小さく頷いた。
「すまない、君に聞くのが一番だと思ってな……先程の鈴のことだ」
「…… 鈴?……鈴の何を知りたい?俺から言えることは何もない」
無表情で冷たく言い放たれたその一言に、彼からの助けは期待できないとでも思ったのだろう。煉獄は心底困り果てたように、力無く眉を下げる。
しかし、そんな煉獄の思いとは裏腹に、義勇は少し安心したように、人知れず小さく息を吐いていた。
……というのも、義勇は別に煉獄に怒っている訳でもなければ、突き放した言葉を口にしたとも思っていない。
それどころか、鈴を気にして声をかけてきた煉獄に内心ほっと肩を撫で下ろしたりもしているのだ。
鈴は昔から自分のことなど後回しで、いつも人のことばかり気にかけているような所がある。それは今回も例外ではなく、炭治郎達兄妹の為に自分の辛い過去まで曝け出し、深く傷ついたであろう鈴の姿に、義勇も鈴を心配してああして声をかけたのだ。
だが、あれ程人のことばかり気にする妹弟子が、自分の思いを理解してほしかったなどと口を開き、悲しそうな表情を見せるとは……
鈴の思ってもみなかった行動を思い返し、煉獄ならば、もしかして?……と義勇は、少し期待を込めて再びぽつりと呟いた。
「…… 鈴のことならば、本人に直接聞くといい」
その一言にガバッと顔を上げた煉獄に、義勇はふっと口元を緩ませた。…‥それは、彼のことをよく知っている者でなければ、気づけぬほどの変化だが……。
勿論煉獄も、そんな義勇の微々たる変化に気づいたわけではないのだが、その一言は彼の心を動かす程の力は持っていたようだ。
「うむ、そう…だな。冨岡の言う通りだ、今ここで悩んでいても仕方がない。鈴と直接話してみる事にしよう!!」
「……そうか」
「すまない冨岡!!」
何やら元気を取り戻した煉獄に、義勇は「いや……」と小さく相槌を打つ。そして話の要件が終わったと察した義勇は、くるりと背を向け歩き出す。
だが二、三歩進んだところでピタリと足を止めた義勇は、チラリと後ろを振り返り、最後にポツリと呟いた。
「煉獄、鈴と話すつもりなら、庭で焚き火をするといい」
「焚き火……?」
「…… ああ、鈴はーー……に目がないからな」
義勇が口にしたその言葉に、煉獄は目を見開いたのだが、
「…フ、ハハハッ!!流石兄弟子だな!!冨岡、ありがとう!!」
すぐに大声で笑い出し、去りゆくその背を見送るのだった。
******
翌朝、炭治郎が運ばれた蝶屋敷へと向かうべく、身なりを整えていた鈴の元に、一羽の鎹鴉が降り立った。
それは今でこそ、随分見慣れてしまった煉獄の鴉で、その足にはしっかりと文が握られている。
まさか昨日の今日で、手紙を寄越してくるなど思ってもみなかった鈴は、一瞬読むことすら躊躇ってしまったが、鴉がじーっと見つめてくる為、仕方なくそれに目を通す。
そこにはいつものような世間話などは一切なく、ただ一言、煉獄家を訪ねるようにとだけ書かれており、ご丁寧にこれは上官命令だと記されていた。
「……上官命令」
その内容に、やはり読まなければよかった……と鈴が頬を引き攣らせていると、彼の鴉はバサリと翼を広げ、捲し立てるように口を開く。
「杏寿郎様ガ待ッテル、スグニ行コウ」
「あー……うん。ちょっとだけ待って」
それにため息を落とした鈴は、自身の鴉に炭治郎への伝達を託し、重い足取りで家を出るのだった。
******
頭上を飛ぶ鎹鴉と共に煉獄家へと訪れた鈴は、昨日の失言を思い出し、一人頭を悩ませていた。
鬼殺隊本部で風柱に向かって行こうとした時だって、必死で止めてくれた彼に、あれほど冷たく当たってしまったのだ。
昨日の今日で何と声をかければいいのか……
あまりの気まずさに鈴が玄関先でたじろいでいると、不意に後ろから大きな声が掛かる。
「すまない鈴、突然呼び出してしまって」
「煉、獄さん……」
その声にビクッと肩を揺らした鈴が、ゆっくりと其方へ振り返れば、先程まで頭を悩ませていた張本人が、何故か薩摩芋も山ほど抱えて立っていた。
「君としっかり話をしたいと思ってな」
「……話、ですか?」
それに満面の笑みで頷いた煉獄は、だからこうして薩摩芋を買ってきた!と言い放つ。
その言葉に改めて彼の腕へと視線を落とした鈴は、その意味が全く分からず首を傾げた。
そんな鈴に、煉獄はふっと優しく目尻を下げ、先程よりも声のトーンを落とし問いかけた。
「庭で焼き芋を一緒に作らないか?鈴の好物なのだろう?」
「え……?」
「冨岡からも、鈴と話をするべきだと助言を貰ってな」
「義勇が、……そうですか………」
まさかあの兄弟子まで、彼に手を貸しているとは思ってもいなかったが、そこまでされて彼の提案を断るなんてこと、鈴にはとても出来そうもない。
「‥‥お邪魔します」
結局、鈴は煉獄の申し出に、渋々頷くのだった。